なぜスペイン代表はB・サラゴサを招集したのか?変幻自在な“ドリブラー”が必要な理由。
調子の良い選手を代表に呼べ、とはよく言ったものだ。
スペイン代表は現地時間12日にEURO2024予選でスコットランド代表、15日にノルウェー代表と対戦。ルイス・デ・ラ・フエンテ監督は、この2試合に向けてブライアン・サラゴサ(グラナダ)を招集している。
■ビッグチームを手玉に
B・サラゴサは今季、グラナダで獅子奮迅の活躍を見せている。なかでも、リーガエスパニョーラ第9節バルセロナ戦で、強烈な印象を残した。開始17秒で先制弾を叩き込むと、前半のうちに追加点をマーク。鮮やかなドリブルでフランス代表のジュール・クンデとドイツ代表のマーク・アンドレ・テア・シュテーゲンを手玉にとり、右足でフィニッシュした。
バルセロナ戦の際、スペイン代表について聞かれたB・サラゴサは「そのタイミングは、訪れるべき時に訪れる。もし呼ばれたら? (練習場まで)歩いていくさ」と答えていた。
そして、バルセロナ戦後、グラナダのニコラス・ゴンサレスSD(スポーツディレクター)にスペインフットボール連盟から連絡が届いた。B・サラゴサに対する、吉報だった。
B・サラゴサはグラナダのカンテラーノ(下部組織出身選手)である。ただ、一時マラガのカンテラ入団で「口頭合意」しながら移籍成立に至らず、グラナダに拾われた経緯がある。
そのB・サラゴサをトップデビューさせたのは、ロベルト・モレノ監督だ。スペイン代表を率いた経験を持つR・モレノ監督は、グラナダで指揮を執っていた2020−21シーズン、B・サラゴサをコパ・デル・レイの一戦でデビューさせている。
「ブライアンはその日、涙ながらにデビューさせてもらったことへの感謝を伝えにきた。それはよく覚えているよ」とR・モレノ監督が当時を回想している。
「ラ・リーガ1部で居場所を確保するのに、すごく苦しむ選手というのがいる。その理由は、決して見つけることができない。ブライアンは、ここまで来るのに、ものすごく戦った。なかには、諦めてしまう者もいる。だが、彼は違った。忍耐と継続性を示した」
■異色のキャリア
R・モレノ監督が語るように、ラ・リーガ1部で思うように居場所を確保できない選手はいる。
B・サラゴサは昨季、グラナダで34試合に出場してチームの1部昇格に貢献した。2021−22シーズンは、グラナダB(当時RFEF2部)で34試合に出場。20−21シーズンにおいては、ポリデポルティボ・エル・エヒド(2部B/現RFEF 1部)でプレーしていた。
そう、B・サラゴサは、1年半前まで、スペインの実質3部リーグから4部リーグを渡り歩いていた選手なのだ。
「僕が上に行くスピードは、とても早かった。だけど、準備はできているよ。こういったチャンスを得るために、ハードワークしてきたんだ」とはB・サラゴサの言葉だ。
「僕は小さい頃からストリートでサッカーをしていた。チームの練習が終わると、そのままストリートに行って、プレーした。僕はドリブルを生き甲斐にプレーしてきた。相手のボールを追いかけ回すのではなく、自分でボールを持って、1対1で仕掛けていくのが僕のスタイルだ」
ドリブルを生き甲斐にしているB・サラゴサを、デ・ラ・フエンテ監督は招集した。無論、それが必要だったからだ。
スペイン代表は、ポゼッションを得意とするチームだ。ボールを握り、積極的に攻撃を仕掛ける。
一方、ボールを保持しながら、ゴールを奪い切れないという局面に、度々、直面する。それが「ラ・ロハ」の往年の課題だ。
そこを打破するために、デ・ラ・フエンテ監督はドリブラーを重宝している。サイドに突破力のある選手を置けば、彼らが1対1で局面を打開してくれる。攻撃時の深み獲得も可能になり、最終的にゴールをこじ開ける確率は高まる。
「ブライアンは幸せを感じている。彼はスピーディに溶け込んだ。それはすぐに見て取れる。彼のキャラクターも、その手助けになっただろう。もちろん、彼がスタメンになってもおかしくはない」とはデ・ラ・フエンテ監督の弁である。
「私はブライアンに満足している。当然、パーソナリティの側面だけではない。ピッチ上のパフォーマンスにおいても、彼は我々のコンセプトをよく理解してくれた。我々が求めるもの、それをよく分かっていた」
「我々はブライアンを追跡していた。だが現実から目を背けようとは思わない。複数のケガ人がいて、そのポジションの選手が欠けていた。彼は絶好調で、バルセロナ戦で素晴らしいプレーをしていた。しかし、繰り返しになるが、彼はずっと追っていた選手だった」
ドリブルと1対1の強さ――。古く、新しいロマンスが、スペイン代表に注入されようとしている。