ルートインBCリーグ開幕。「ラミちゃん」からエールを贈られた「ジョニ流」茨城アストロプラネッツ
独立リーグ、ルートインBCリーグが開幕した。今シーズンは、まず東地区から開幕。4月3日、熊谷での埼玉武蔵ヒートベアーズ対栃木ゴールデンブレーブスの初戦に続いて、昨日4日、ノーブルホームスタジアム水戸で茨城アストロプラネッツが栃木を迎えて開幕を行った。
昨年は戦力不足もあって、.125(7勝49敗)という前年に続く記録的な低勝率で低迷した茨城だったが、昨オフ、体制を一新。アメリカ独立リーグで監督経験をもつ松坂賢をヘッドコーチに、ベネズエラから来日、BCリーグで8シーズンプレーし、昨年は日本ハムの通訳を務めていたジョニー・セリスを監督に迎えチームを刷新した。そして、新助っ人として、メキシコ代表経験のあるセサル・バルガス、キューバ人の二刀流選手、ダリエル・アルバレス、日本で活躍したアレックス・カブレラの息子、ラモン・カブレラの3人の元メジャーリーガーを招くなど、シーズン前から話題を集めた。
地元開幕戦には、同郷のよしみでセリス監督と旧知の仲である前DeNA監督アレックス・ラミレス氏が来訪。開幕セレモニーでは、元甲子園球児でもあるタレントの「とにかく明るい安村」さんと3アウトまでの「ガチ対決始球式」を行うなど、ファンを沸かせた。事前のプロモーションが功を奏してか、開幕戦の舞台となった水戸市のノーブルホームスタジアムは、2077人の「大観衆」が集まった。
チームの雰囲気は確かに変わったと、主将の任を負う、大場駿太投手は言う。
今年の茨城は大量の練習生を抱えている。契約選手と合わせて約40人の大所帯だ。NPBを経験し、WBCの舞台に立ったラファエル・フェルナンデス(元ヤクルト)でさえ、昨年の不振もあり、ロースター入りは現在のところ叶わない状況だ。助っ人たちの合流はビザの関係もあり、5月にずれ込むようなのだが、現在スタメンに名を連ねているメンバーでも彼らの合流までに実績を残しておかないと、ベンチに追いやられるどころか、無給の練習生に降格する恐れがある。主将の大場でさえ、昨年勝ち星なしの10敗という成績では、なかなかマウンドに登るチャンスを得ることができない状況だ。
「試合でも昨年までのように序盤に大きく引き離されるということもなく、最後まで食らいついていけることが多くなっています。チーム内の競争も激しくなって緊張感があります。自分もマウンドに登れない状態ですけど、チーム内に競争があり、試合に出る選手はチームを代表して出場しているという雰囲気があります。だから僕もチームの一員としては、試合中は声を出すなどして貢献したいという気持ちですね。今日の試合で、最終回に1点差に迫るタイムリーを打った吉本光甫は高校(霞ヶ浦高)の後輩なんですが、自分のことのようにうれしかったですね。彼は、高卒で練習生として入団しながら結果を残して、開幕スタメンを勝ち取っていますから」。
チーム内にいい意味での緊張感が出ていることは、この開幕戦に顔を出していたリーグ代表の村山哲二も認めていた。
昨年とは違う。最後まで結末がわからない「茨城劇場」
たしかに球団発足以来2年間の茨城は、序盤に勝負がついてしまうと、そのままさらにズルズルと点差を引き離されるか、せっかくのリードを踏ん張り切れず、終盤に逆転される試合が多かった。しかし、この日の試合は、結果的に敗戦となったものの、来場したファンの目を最後までフィールドにくぎ付けにするものだった。
茨城は楽天、DeNAでNPB経験のある濱矢廣大を開幕投手に指名。始球式の際には、前年までの指揮官、アレックス・ラミレス氏に「がんばって」と声をかけられ、気合が入ったが、初回のデッドボール2つに象徴されるように5四球という制球に課題の残る内容に終わった。ディフェンス陣も濱矢が投げている時だけで3失策(計4失策)と足を引っ張る形で、濱矢は先制を許してしまう。それでも7イニングを投げ、きちんと試合を作った。
一方の栃木は、高卒ルーキーの齊藤鳳人(成田高)に先発を任せた。齊藤は5回まで茨城打線に2安打しか許さず、6回ツーアウト後に強襲ヒットを浴び降板するまで無失点という申し分ないピッチングで初登板で初勝利を挙げた。
7回まで2対0でリードを許し、8回表にこの日4つ目のエラーが絡んでさらに2点を失ったときは、昨年同様そのままズルズルと引き離されるかに見えたが、その裏に先頭からの連続ライト前ヒットに続き、高卒ルーキーながら開幕戦のリードオフマンに抜擢された吉本も鋭い当たりのライトライナーを放つと、スタンドの雰囲気はすっかり押せ押せムードに変わった。ここから2番宮本貴章(四国アイランドリーグplus・高知)が左中間に大きなツーベースを放ち2点が入ると、「茨城劇場」の幕が開けた。
9回表に茨城はさらに1点を追加されるが、9回裏からマウンドに上がったブラジル人クローザー、ダニエル(元ブリュワーズマイナー)から3安打を放ち、2四球を選び、1点差まで追い上げ、なおもワンアウト満塁というサヨナラのチャンスを迎えたが、後続が打ち取られ、5対4で開幕戦を終えた。
試合後、セリス監督は、「開幕戦とあってみんな緊張していた。最後にチャンスを作ってサヨナラ勝ちしたかったが、追い上げたことをポジティブに捉えたい。投手陣がストロング・ポイントであることは分かった。あとは、打線に期待したい。来週まで課題を克服できるよう練習ですね。とにかく次の試合もエンジョイしてプレーしたい」という談話を残した。
この日のゲストだったタレントではないが、セリス監督は「とにかく明るい」とナインは口をそろえる。現役時代の大半を日本で過ごし、BCリーグでは実に4球団でプレー。行く先々でチーム、地域に溶け込み、今では日本語を流暢に話すどころか、かなはもちろん漢字も多少は理解する。日本で妻を娶り、自らを「サムライ」と称するその姿は、師と仰ぐラミレス氏とも重なる。「ラミ流」ならぬ「ジョニ流」が、BCリーグにどんな風を吹かせるのか目が離せない。
(写真はすべて筆者撮影)