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『M-1 2023』キャッチコピー「爆笑が、爆発する。」はどんな意味?おもしろいだけでは勝てない大会

田辺ユウキ芸能ライター
(C)M-1グランプリ事務局

『M-1グランプリ2023』の準決勝が12月7日、決勝が12月24日と決戦日が近づいてきた。

準々決勝敗退者のなかから1組だけ準決勝へ進出できる「ワイルドカード」には、2022年まで6年連続で準々決勝敗退を喫していた実力派コンビ、ダブルヒガシが決まった。大一番に向けて役者が揃った。

社会を巻き込むくらいの爆発力、ポイントは大会を象徴する「トピックス」

そんな『M-1グランプリ2023』のキャッチコピーは「爆笑が、爆発する。」に決定。このキャッチコピーは、「『ただおもしろいだけでは勝てなくなった大会において、王者にあるものは何か』を表現している」という。

確かに近年の『M-1』は、準決勝、決勝のレベルも非常に高く、誰が勝ち進んでも納得できるものになっている。かつてはシンプルに「一番おもしろい人を決める大会」だった。それが「ただおもしろいだけでは勝てなくなった大会」と称されるようになったのは、『M-1』の、そして漫才の明らかな進化なのではないだろうか。

たしかに近年の『M-1』は、「爆笑が、爆発する。」というキャッチコピーとそこに込められた意味の通りの状況となっている。というのも近年の優勝者、決勝戦上位進出者たちの漫才内容には、その大会や時代をあらわすような物事が込められていたり、起こったりしているからだ。大会を象徴する「トピックス」が毎年誕生し、SNSではトレンド入り、ネットニュースでも大きく取り上げられるようになった。社会を巻き込むくらいの爆発力が求められている。

霜降り明星、ミルクボーイ、マヂラブ、錦鯉、ウエストランドの「トピックス」とは

2018年大会優勝者の霜降り明星は「最年少優勝」。審査員の塙宣之(ナイツ)が「吉本興業の宝。漫才協会に欲しい人材」とうなり、松本人志にいたっては「彼らが優勝するかもしれない」と言い切った。霜降り明星は、粗品が当時25歳で史上最年少優勝者に該当。せいやも当時26歳という若さだった。新しい波を作り出し、翌年から「お笑い第七世代」というムーブメントが本格化。霜降り明星が達成した「最年少優勝」はまさにそのきっかけの一つとなった。

2019年大会の優勝者はミルクボーイ。駒場孝のオカンが忘れたもの(思い出せないもの)を、内海崇が当てるというやりとりが大爆笑を呼び、いまだに破られていない「大会史上最高得点」で優勝を飾った。また最終決戦へ勝ち進んだぺこぱによる、どんなことでも肯定的に受け止めるネタが「誰も傷つけない笑い」として現代の風潮に合っているとされた。そのほかにも、かまいたち、和牛、見取り図らが白熱したパフォーマンスで上位に食い込んだ。松本人志が「数年前なら誰が出ても優勝していたんじゃないか」と絶賛する大会となり、「神回」と語り継がれている。

2020年は「漫才論争」と「因縁」だろう。優勝者のマヂカルラブリーはネタ中、野田クリスタルが演じる“電車の吊り革につかまりたくない男”が、電車の揺れに耐えきれず床を転げ回るなどした。センターマイクから大きく外れ、ステージを広く使うなどアクロバティックな動きを連発するネタ内容が「これは漫才か否か」という論争を起こした。またマヂカルラブリーwは2017年大会の決勝へ進出した際、審査員の上沼恵美子から「好みじゃない」「よう決勝に残ったな」と酷評されるなどし、最下位に。それでもこの2020年大会では、そういった「因縁」も一つの糧にして決勝の舞台へ返り咲き。登場時のせりあがりでは野田クリスタルが土下座をしてあらわれ、ツカミでは「どうしても笑わせたい人がいる男です」と口にした。

2021年大会は錦鯉による感動的な「最年長優勝」で幕を閉じた。長谷川雅紀は当時50歳。歯が抜けていてその治療もしていない“オジサン王者”が「あきらめないでやってきて、良かった」と大粒の涙を流す姿は、『M-1』史上もっとも人間臭い光景だった。相方の渡辺隆も当時43歳。合計93歳の同コンビがネタのなかで発した「ライフ・イズ・ビューティフル」も、この2021年大会ならではのワードとなった。何より、コロナ禍で疲弊した人たちを元気づけたように思えた。

2022年大会では、ウエストランドの漫才を見た審査員たちの喜びまじりのコメントが印象的だった。松本人志は「窮屈な時代ですけど、キャラクターとテクニックがあれば毒舌漫才も受け入れられる」、立川志らくは「今の時代は人を傷つけてはいけない笑いだけど、傷つけまくる笑いだった。笑いは本来そういうもの。あなたたちがスターになれば時代が変わる」と語った。ウエストランドが披露したのは、さまざまなジャンルや人物に悪態をつく「毒舌漫才」「悪口漫才」だった。現在のテレビの風潮から避けられがちな漫才スタイルで優勝をもぎとった。さらに「『M-1』にはあるけど、『R-1』にはないもの」として、「夢、希望、大会の価値」と毒を吐いたのも脚光を浴びた。「『R-1』には夢がない」は2023年の『R-1』でもたびたび引用されるほどの影響に。『M-1』史に残る“毒”だった。

SNSやネットニュースを賑わすような「爆発力」

この5大会をあらためて振り返ると、結果論ではあるが優勝者らには目立つ「トピックス」が必ずある。

それが2023年大会のキャッチコピー「爆笑が、爆発する。」や「『ただおもしろいだけでは勝てなくなった大会において、王者にあるものは何か』を表現」という意味づけにも結びつくのではないか。

お笑いファンの心をつかみ、さらにSNSやネットニュースまで波及して賑わう「爆発力」のある漫才を披露するのは、誰なのか。胸が高鳴るばかりである。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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