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地中にひそむ肉食クワガタ?=童心に帰ってアリジゴクとたわむれる#アリジゴク

天野和利時事通信社・昆虫記者
アリジゴクを2匹並べてみると、まるでクワガタ同士の対決のよう。

 緑豊かな公園のあずま屋のベンチの下が、サラサラの土ならば、そこにはたいてい、すり鉢状の地獄の落とし穴がたくさん開いている。

 それは誰もが知っている(昔は誰もが知っていたが、今は知らない人も多い)アリジゴクと呼ばれるウスバカゲロウの幼虫の住処(すみか)だ。この幼虫の通称がカタカナ書きの「アリジゴク」で、落とし穴の通称が「蟻地獄(ありじごく)」だと思われる。

アリジゴクの巣は、すり鉢状の蟻地獄。家屋の縁の下などにたくさん並んでいる。
アリジゴクの巣は、すり鉢状の蟻地獄。家屋の縁の下などにたくさん並んでいる。

 穴の一つをすくい取って(さして深くないので手で簡単にすくえる)茶こしなどでふるいにかけると、いかにも狂暴な肉食系の風貌のアリジゴクが姿を現す。地獄の主にふさわしい大きな牙(大アゴ)を持った姿は、拡大してみると、まるでクワガタのようだ。

 穴に落ちた不幸なアリやワラジムシは、必死で脱出を図るが、サラサラの土の斜面を上ることは難しい。穴の底のアリジゴクは砂粒を跳ね飛ばして獲物の脱出をさらに難しくする。そして奮闘むなしくアリジゴクの牙に捕らえられた獲物は、土の中に引きずり込まれ、生き血をすすられて息絶える。まさに地獄絵のような光景だ。

 ビーチにひそむ怪物が、海水浴客を砂の中に引きずり込むという、昔見たパニック映画のワンシーンを思い出す。

巣の中から引っ張り出された地獄の主、アリジゴク。
巣の中から引っ張り出された地獄の主、アリジゴク。

この鋭い歯が並んだ牙(大あご)に挟まれたら相当に痛そう。
この鋭い歯が並んだ牙(大あご)に挟まれたら相当に痛そう。

アリジゴクに捕まり、必死にもがくワラジムシ。
アリジゴクに捕まり、必死にもがくワラジムシ。

アリジゴクの獲物は、あっという間に地中に引きずり込まれていく。
アリジゴクの獲物は、あっという間に地中に引きずり込まれていく。

 しかし、土の中から引っ張り出されたアリジゴクの動きは、ちょっとコミカルだ。アリジゴクは前に進むことができず、バックしかできないのだ。土の上に戻されたアリジゴクが、円を描くようにバックしながら、落とし穴を作っていく様子も面白いので、小学生の夏休み自由研究の格好の題材になっている。

 「大人がそんなものを見て何が面白いのか」と言われると、返す言葉がないが、たまには童心に帰って、不思議な虫の生態を観察してみても、世の中に害をなすことはないだろう。

アリジゴクはウスバカゲロウの幼虫。トンボに似た成虫には凶暴さはない。
アリジゴクはウスバカゲロウの幼虫。トンボに似た成虫には凶暴さはない。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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