残業時間規制は、結局どうなったのか?
さて、何度か私もこのYahoo!ニュース個人で書いておりました、政府の「働き方改革」の長時間労働規制、結局、どうなったのでしょうか?
これは、いくつか報道があるとおり、労働関連の法律を作るときに、その手前で行われる労働政策審議会で「建議」がまとまっています。
休日労働の抑制、努力義務に=残業上限規制で意見書-厚労省審議会(時事通信)
報道だと、イマイチ断片的な情報なので、実際の「建議」を見てみましょう。
※長いので労働時間の上限規制のところだけ解説します。
「時間外労働の上限規制」として、「時間外労働の上限規制については、以下の法制度の整備を行うことが適当である。」として、次のとおり、記載されています。
ここまでは導入です。書いてあることは、「時間外限度基準」の大臣告示を罰則付きで法律に格上げしますよ、ということです。
続けて、本文で次の記載があります。
まず、月45時間、年360時間が上限である、とうたいます。
これは現在の大臣告示です。
反したら罰則があります。
ここで終われば、いかにも長労働時間規制ということで、めだたい話になったところですが、さらに続きます。
このあたりから怪しくなってきます。
年720時間が登場します。
これは時間外労働の上限です。
ここで、少し注意が必要なのは、労基法では「時間外労働」と「休日労働」の概念が異なっている、ということです。
この「休日労働」というのは、労基法が取らせることを義務にしている1週間に1日(または4週間で4日)の休日に、働かせることを言います。
そして、ややこしいことに、過労死を認定する場合は、時間外労働と休日労働は合わせて考えます。
つまり、過労死ライン80時間という場合は、この「80時間」には休日労働と時間外労働を合わせた時間ということになります。
で、この720時間は「時間外労働時間」とあるので、「休日労働」を含まないことになります。
この時点で、あれ?という感じになりますね。
さらに、建議は、続きます。
えーっと・・。
さっきの720時間は休日労働は含まないんだけど、条件である1と2には休日労働が含まれる・・と。
頭が混乱してきますね。
要するに、
1は、休日労働+時間外労働で2~6か月で平均80時間以内にせよ、ということです。
1月 80時間
2月 85時間
というのは、ダメです。
1月 75時間
2月 85時間
これはセーフであることになります。
2は、その場合でも1か月で100時間未満にせよ、ということです。
つまり、
1月 60時間
2月 100時間
で、これだと平均80時間以内ですが、2月は100時間未満という制限に反するのでダメということです。
このあたりは過労死ラインを意識しているので、休日労働と時間外労働が合わさった時間制限になります。
しかし、年間の時間規制である720時間はあくまで時間外労働のみの規制となります。
建議は、まだ続きます。
何を言っているのか分かりますか?
すぐには分かりませんね。
要するに、「特例を活用しない月」とは、「時間外労働が45時間以内である月」ということになります。
こうした月に、休日労働をかぶせて長時間労働をさせようとしても、1と2の制限がかかるぞ、ということです。
ということは、年間の残業時間は何時間規制になるでしょうか?
実は、960時間になります。
極端な話をすると、次のようなことが可能になります。
1月 80時間(時間外75+休日5)
2月 80時間(時間外75+休日5)
3月 80時間(時間外75+休日5)
4月 80時間(時間外75+休日5)
5月 80時間(時間外75+休日5)
6月 80時間(時間外75+休日5)
7月 80時間(時間外45+休日35)
8月 80時間(時間外45+休日35)
9月 80時間(時間外45+休日35)
10月 80時間(時間外45+休日35)
11月 80時間(時間外45+休日35)
12月 80時間(時間外45+休日35)
ちなみに過労死ラインは休日労動と時間外労働を合わせて月80時間です。
これが「働き方改革」で、政府がこれから法律にしようという内容です。
あまり「改革」感がありません。
やはりガッカリ感は拭えません。
<関連する過去記事>
残業時間の上限規制<80時間>が検討されていることについての注意点