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時間外労働<月100時間>を許容して「働き方」改革と言えるのか?

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

労働時間の上限規制について、また新しい報道が出ましたね。

今度はかなり確度が高いと言われています。

残業上限、月平均60時間=繁忙期は100時間―政府調整(時事通信)

前回の報道の80時間よりも月平均では短く60時間ですが、しかし、繁忙期に認める時間外労働時間が100時間というのは・・・。

はっきり言うと、

働き方が「改革」される気が全くしない

です。私は。

たしかに、現行法制ではこうした上限さえないので、野放し状態となっています。

それに比べれば・・というのはあるのですが、そうはいっても、法として時間外労働は100時間までならOKというメッセージを発信するのは危険であると思います。

特に法を守らないブラック企業が、「法律が100時間まで働かせていいと言っているのだ!」などとわけのわからないことを言いだしそうで、想像するだけで暗澹とした気持ちになります。

ちなみに、100時間というのは、月間労働時間は273時間ほどまでOKということです。

1か月のうち20日働くと仮定すると、1日あたり13.65時間働くということになります。

朝9時出社の場合は、昼の休憩を1時間とったとすると、終業時刻は午後11時30分過ぎということになります。

繁忙期に限りといういことですが、100時間を許容してしまうのはご勘弁願いたいところです。

私の立場上、財界・経済界に配慮する必要は全くないので、別に労働時間の上限規制を厳しくすると国際経済競争力が落ちるとか言われても、競争力より命と健康のほうが大事だろ、とか、労働時間の上限作ったくらいで失われる競争力なんていらないだろ、と思ってしまう悪い癖があるのですが、というよりも、そもそもこの「労働時間の上限規制をしたら競争力が落ちる」ということ自体、嘘っぽいと思っているところであります。

少なくとも目標を明示するべき

とはいえ、いきなり厳しい上限だけ定められてしまっては働く現場が混乱し、下手をすると隠れ残業などが増えてしまうのではないかとの危惧は抱いています。

こうした声は、実は多く、私が長時間労働をなくすために法で上限を定めるべきだと述べると、「いや、隠れ残業が増える」という反応はほぼ必ず出てきます。

したがって、いきなり上限を月30時間にしろ、とかは言いません。

しかしながら、政府も、本当に「働き方」改革を行うと言うのであれば、政府が考える労働時間規制の上限を掲げてもらいたいと思います。

たとえば、「〇年後には時間外労働の上限時間を月45時間とします」と明示したうえで提案してもらえば、だいぶ改革された印象になるだろうなぁ、と思うところです。

しかし、現在出てくる情報では、そのような内容ではなく、とりあえず月間80時間であるとか、月間60時間・繁忙期100時間などのものとなっています。

そして、その他の制度(勤務間のインターバル規制とか、労働時間記録を徹底的につけさせるとか)を設けることについては何ら情報が上がってきません。

これでは「働き方」改革という名が泣きます。

もう一度原則に戻ろう

労働時間の上限規制を論ずるとき、どうしても残業ありきで考えてしまいます。

しかし、本来は残業は例外のはずです。

労働基準法は、1日8時間、週40時間という大原則を掲げています。

このくらいの労働で家に帰ることができ、生活に困らない給料がもらえる、そういうことを実現するための政策こそ、真の「働き方」改革であるはずです。

是非とも、このような方向で議論を進めてほしいものです。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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