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拝啓、日本高等学校野球連盟様、朝日新聞社様、日本放送協会様 (甲子園を感動と美談だけで閉じるな!)

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

本日(8月21日)は記念すべき第100回全国高校野球大会の決勝戦ですね。今年も連日熱戦が繰り広げられていますし、カナノウフィーバーのなか決勝戦も盛り上がることでしょう。

日本高等学校野球連盟様、朝日新聞社様におかれましては、これほど日本中を感動に巻き込み、高校球児たちが限界に挑み、大きく成長する場を運営されているのですから、さぞかし、誇らしいお気持ちでありましょう。

しかしながら、高校野球にはオカシイことが多すぎるように思います。昔から言われてきたことですが、今日はそのことを改めてお伝えしたく、この記事を書きました。ひとことで言うと、「選手ファースト」でなさすぎる、ということです。大変失礼ですが、「なんのために高校野球をやっているのかがわからない」と申し上げたいと思います。

100回目を終えようとしているいま、感動の影にあるものにも、もっと目を開くべきです。

本日は、決勝戦の準備、あるいはそのあとの片付け、打ち上げなどでお忙しいと思いますので、2点だけ申し上げます。

1)選手生命を危険にさらしています。

金足農のエース・吉田輝星さんの投球数はこの全国大会で700球を超えていることは、皆様もよくご存じのとおりです。秋田大会も加えると千球を超えるのではないかとも言われています。これをこの2週や1ヶ月のうちに行っているのです。

将来を期待される投手であるならば、なおさら、休ませるべきでしょう。現に、「連戦となった18日の近江(滋賀)との準々決勝前、起床時には左足股関節痛を発症していた」との報道もあります(日刊スポーツ2018年8月20日)。

が、残念ながら、これだけ大きな期待を内外から寄せられるなか、彼にこの決勝で投げない、という選択肢は事実上ないでしょう。

こういうことが毎回繰り返されています。となると、主催者側がなんらかの措置をする必要があります。

高野連の皆様としては、次の対策をしているとおっしゃるかもしれません。

 全国大会では大会前、ならびに大会中の投手の関節機能検査(エックス線検査を含む)の結果、肩、肘に重大な障害(肩の腱板断裂および肘の剥離骨折を伴う靭帯断裂の直後)が発生していると判明した場合、大会運営委員長が検査担当医師の報告を受け、大会での登板を禁止する。

出典:高野連ウェブサイトでの大会開催要項

釈迦に説法かもしれませんが、検査で重大な障害が発生しているとわかった時点で止めても、遅いです。オトナのわたしたちの責任としては、選手たちのために、重大な障害が起きないようにするべきです。

また、今大会から休養日を設けるようになりました。ですが、準々決勝のあとの1日だけに過ぎません。これでは、ほとんどポーズだけで、真剣に選手の健康と選手生命を考えているとは思えません。

次の動きが参考になります。

第12回U18アジア野球選手権大会で球数制限の導入が検討されていることが16日、分かった。侍ジャパンのトップチームが出場するWBCでは「投手起用に関する制限」として適用され、U12やU15でも採用されているが、高校世代であるU18のカテゴリーでは初となる。

投手の投げられる球数を最大105球とし、その場合は4日間の休息を義務づける。球数しだいで登板間隔の条件を設ける形で、2日続けて登板し、計50球以上投げた場合、少なくとも1日の休みを必要とし、4日連続の投球は認められない。

出典:日刊スポーツ2018年8月17日

ここでの基準は1日105球までということで、今回の甲子園のような投げ方がいかに無茶苦茶かがわかります。なお、投球制限を設けると、投手層の厚い一部の私立学校等に有利であり、不公平だ、という反対意見があるようですが、ナンセンスな反論です。

第1に、いわゆる野球留学などもあって、既にものすごく不公平ななかでの戦いです。

第2に、投球制限があると「その不公平がさらに広がる」というご意見もあると思いますが、そこと、選手の健康、選手生命とどちらが大事だとお考えなのでしょうか。

なお、「当の選手がやりたい、投げたいと言っているのに、ストップをかけるのか。二度とない試合なのに。」というご意見もありますが、これも優先順位がオカシイ話です。選手の健康・選手生命 > 選手の気持ち  であるべきでしょう。

「勝ちたいのに、選手もやりたいと言っているのに、なんで制限なんて言うんだ」とおっしゃる方には、もう一度、学校教育の一環として高校野球をしているという意味、原点に立ち返ってほしいと思います。選手をつぶすためにやっている、と言う人は皆無のはずです。「選手の成長のためです」と言う教育的意義を強調される方が大半でしょう。ならば、選手がこれからも成長してもらうためには、適切な休養や無理をさせない対策が必要です。

とはいえ、投球制限を設けると、投げたい(投げさせてやりたい)エース等のために、大会日程を見直せ、つまり、休養日をもっと増やせ、という声も大きくなることでしょう。仮に大会日程を見直すとなると、球場の確保の問題や遠方から来ているチームの滞在費の工面の問題なども発生します。が、だからと言って、本当にできない話なのかは考えていくべきです。

2)猛暑のなか、選手も応援席も危険です。

熱中症の危険についても、ずっと言われてきたことですし、この夏は特に強く意識されました。

熱中症予防の温度指標としては、WBGT(Wet-bulb Globe Temperature)が用いられます。甲子園球場にほど近い、神戸市のWBGT値の実績値が公表されていますので、今回の甲子園大会期間中の10時と14時時点のデータの推移を整理してみました。

出所)環境省熱中症予防情報サイトでのデータ(実績、速報値)をもとに作成
出所)環境省熱中症予防情報サイトでのデータ(実績、速報値)をもとに作成

子どもの夏休みの宿題でもできるグラフですが、これを見ると、危険ななかで野球していることは、みなさまのご存じのとおりです。

WBGT(暑さ指数)28~31℃では「厳重警戒(激しい運動は中止)」レベルですが、今大会中の半分以上でこの水準を超えて運営されています。また、WBGT31℃以上では「運動は原則中止」レベルですが、時間帯によってはこの水準に達している日もありました。

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スポーツ庁は本年7月20日の「運動部活動における熱中症事故の防止等について(依頼)」の中で、教育委員会等向けに、部活動のガイドラインについて「例えば,気象庁の高温注意情報が発せられた当該地域・時間帯における屋外の活動を原則として行わないように明記する等,適切に対応」することを求めました。もちろん、これは各県等のガイドラインで明記せよというだけではなく、部活動をするなら熱中症対策をしっかりせよということを求めた趣旨と思われます。ですが、高校野球はそんなこと“どこ吹く風”の様相ですよね・・・。

選手や応援席を危険な炎天下にさらした状態を、熱闘だ、感動する、フィーバーとか言って、国民の受信料で運営するNHK様や、小学生の熱中症事故を受けて学校等を批判している朝日新聞社様とその放送局が全国放送しているのですから、てんでオカシナ話です。

そもそも、なぜ甲子園だけこんなに特別扱いの放映(1回戦から全国生中継)がずっとまかり通っているのかが不思議でなりませんが・・・。

では、どうするか。

ナイターにしたほうがよい、ドームでやればいい、思い切って札幌大会にしよう、夏の大会は必要なのか、など、さまざまなアイデアがあります。この手の話は、毎回夏に主張されますが、その都度、トーンダウンして、また感動の甲子園で、という動きになってきました。

おそらく、他球場ではお金がもっとかかるとか、いまの利権がどうなるのかなど、オトナな事情も多々あるのでしょうが、であれば、なおさら考えなおしていかなくては、一生懸命な高校生たちに申し訳ないと思います。

ある人が真夏に開催する甲子園やスポーツ等の大会を見て、「学校というところは、人が死なないと、見なおさないのか

と言っていました。残念ながら、わたしにはこの声にきちんと反論することはできませんでした。

賢明な皆様であれば、次のこともご存じかと思います。

高校や中学のクラブ活動中に熱中症で死亡する生徒の4人に1人は野球部員であることが9日、独立行政法人「日本スポーツ振興センター」(JSC)がまとめた調査結果で分かった。特に高1に被害が多いことも別の調査で判明。

出典:産経新聞2018年8月10日

JSCのまとめによると、昭和50年から平成29年の間、部活動・クラブ活動中に熱中症で死亡したのは146人。このうち37人が野球部の活動中で最も多く、全体の25%だそうです。

先ほどの発言に関連して言えば、すでに37人が亡くなっているのに、1日だけの休養日とか、タイブレーク制とか、小手先の見なおしで終始している、それが野球界の真実です。

高校野球も最初は甲子園ではありませんでした。第1回は豊中球場だったのですから。

今回もどうか、感動と美談だけで閉じないでほしいと思います。来年の記念すべき101回大会から、球場や日程の大幅な見直し、投球制限の設定などを進めてほしいと願います。

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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