【インタビュー/前編】キャメルが2016年5月来日。アンドリュー・ラティマーが日本を語る
ブリティッシュ・プログレッシヴ・ロックの抒情サイドを代表するバンド、キャメルが2016年5月、16年ぶりの単独来日公演を行う。
日本の音楽ファンのハートを捕らえるメロディとリリカルな調べで絶大な人気を誇る彼らだが、ギタリストのアンドリュー・ラティマーによると、彼ら自身にとっても日本は特別な思い入れのある国だという。
前後編に分けて、アンドリューへの来日直前インタビューをお届けしたい。その話題は日本やギター、ブルースからの影響、プログレッシヴ・ロックの現在など、多岐にわたるものとなった。
日本公演では昔の曲もたくさんプレイする
●2007年に骨髄移植、2014年には膝の手術を受けるなどしましたが、体調はいかがですか?
すこぶる良好だよ。ほぼ完璧で、奇跡といっていいぐらいだ。2013年にキャメルとしての活動を再開してから、順調なんだ。少しばかり関節炎があるけど、それは年齢のせいで仕方ない。ベストに近い状態で日本に行くから楽しみにして欲しいね。
●日本公演では立ってプレイ出来そうですか?
もちろん!座ってギターを弾くのは、私のキャラとは違うからね。今まで座ってライヴをやったのは、たった1回だけだ。2000年のツアーだったかな、イギリスのダドリー公演でのことだった。サウンドチェック中に突然膝が痛みだしてね。苦痛が耐えがたいものになったんだ。後で医者に診せたら、膝の骨が一部分欠けていたことが判った。それを摘出したらすっかり良くなったよ。日本でプレイするのは16年ぶりだから、すごく楽しみにしているんだ。
●日本公演はどんなものになるでしょうか?
日本のみんなが喜んでくれるような、たくさんのサプライズを用意しているよ。『蜃気楼/Mirage』(1974)、『白雁/Snow Goose』(1975)、『月夜のファンタジア/Moonmadness』(1976)などのアルバムからの、昔の曲もたくさんプレイする。日本のファンは音楽に対して常に真剣で、敬意を持ってくれる。静かなときもあるから、最初はウケてないのかな?…と心配したこともあるけど、実は演奏に聴きいってくれているんだ。そんな姿勢を、私はすごく気に入っているよ。今回のツアーの4人編成ならではの音の感触は、初期キャメルに通じるものがある。日本のファン達と同じぐらい、私たちも楽しみにしているよ。
●新加入のキーボード奏者ピート・ジョーンズについて教えて下さい。
去年(2015年)、バンドのキーボード奏者だったギィ・ルブランが亡くなって、新しいメンバーが必要になったんだ。そんなとき、私の友人がメールで「良いミュージシャンがいる」と教えてくれた。それでyoutubeでチェックしてみたら、本当に素晴らしかった。そうして連絡を取って、バンドに誘うことにしたんだ。ピートも日本に行くことにスリルを感じているよ。ピートはキーボードだけでなく、ギターやサックスも弾けるし、優れたヴォーカリストでもある。彼は目が見えないせいか、聴感が研ぎ澄まされているんだ。既に彼とはリハーサルを始めているけど、次から次へと昔の曲をマスターしてくれる。彼はエネルギーに満ちあふれているし、一緒にプレイ出来るのは喜びだよ。
『ヌード/Mr.Oの帰還』は作らずにいられなかった
●キャメルが日本の音楽ファンにとって特別な存在なのは、その詩情あふれるメロディもありますが、アルバム『ヌード/Mr.Oの帰還』(1981)が太平洋戦争後29年ルバング島に留まり続けた日本軍人・小野田寛郎さんを題材としたことも理由のひとつだと思います。
うん、『ヌード』は意欲的な作品だったし、誇りにしている。あのアルバムからの曲をプレイするのは今でも楽しいよ。もしかしたら日本公演でも1、2曲プレイするかもね。
●『ヌード』の着想はどこから得たのですか?
戦争が終わったことを知らない軍人が何十年もジャングルに隠れて、たった一人で暮らしていたというのは、信じられないドラマだった。それから日本に戻ってきて、都会での生活に順応できずにブラジルに移住したというのにも、心を打たれたんだ。元々は私の妻スーザン・フーヴァーが新聞で日本の軍人の話を読んだのが始まりだった。そのことについて話すうちに、アルバムにするべきだと確信したんだ。このアルバムのレコーディングでは琴を弾いたり、さまざまな新しい試みをした。日本の伝統的な浮世絵をイメージしたジャケットも気に入っているよ。イギリスではチャートに入ったし、セールスも良かったんだ。
●1974年、小野田さんの帰国は、日本でも大きく報じられました。
そうだろうね。実は『ヌード 』が日本でどのように受け入れられたか、興味と不安があったんだ。戦争は繊細な問題だし、それをロック・アルバムにすることを快く思わない人がいる可能性もあった。ただ、当時の私たちは心を動かされて、作らずにいられなかったんだ。
●『ヌード』の「キャプチャード(保護)」が日本のプロレスラー前田日明のテーマ曲として使われたことは知っていますか? (シングル盤のタイトルは「キャプチュード」)
うん、事前に話はなかったけど、ずっと後になって、日本をツアーしたときにファンに教えてもらったと記憶している。私は決してプロレス・ファンというわけではないけど、自分の曲が多くの人々に聴かれるのは光栄だ。印税が私の元に入ってきているかは知らないけどね(苦笑)。いつも印税はまとめて入ってくるから、詳細は不明のことが多いんだ。…そのプロレスラーは人気があった?今でも「キャプチャード(保護)」をテーマ曲に使っているの?
●前田選手はもう引退しました。彼は「キャプチャード(保護)」をテーマ曲に使う以前の1982年、イギリスでも活動していて、国民的英雄のレスラー、ビッグ・ダディとタッグを組むこともありました。
ビッグ・ダディとは、ずいぶん懐かしい名前だね!何回か『ワールド・オブ・スポーツ』というテレビ番組で見たことがあったよ。サッカーやクリケットと同じ番組で、プロレスもやっていたんだ。「キャプチャード(保護)」は私とヤン・シェルハースで書いたんだ。最初のメイン・リフのパートはヤンが書いたものだった。私はいろんなパーツを加えて、中間部を書いた。2人の共作がうまく行った例で、すごく良い曲だと思う。
●あなたはメランコリックでメロディアスなギター・プレイで知られていますが、その原点はどこにあるでしょうか?
それは外的影響よりも、私の内面によるものが大きいと思う。私は元々、悲しい音楽が好きなんだ。音楽においては、悲しみが高揚感を伴うことがあるんだよ。ギタリストとしての私はまず第一にコンポーザーであって、インプロヴァイザーではない。だからリード・ギターにも常にメロディを込めるように心がけているんだ。
●あなたの特徴的なヴィブラートは、エリック・クラプトンからの影響が大きいそうですが…
私が最初に傾倒したギタリストは、シャドウズのハンク・マーヴィンだったんだ。それから次に影響を受けたのがジョン・メイオールの『ブルースブレイカーズ・ウィズ・エリック・クラプトン』のエリック・クラプトンだった。何度もレコードを聴いて、彼のヴィブラートを真似しようとしたよ。エリックが脱退した後、ブルースブレイカーズにはピーター・グリーンが加入したんだ。彼も本当に素晴らしかった。当初は彼ら2人のヴィブラートをコピーしていたけど、徐々によりスローな揺れ幅で弾くようになった。その方が私のエモーションを表現できると感じたんだ。
後編ではアンドリューの長いキャリアにおけるブルースからの影響、そしてプログレッシヴ・ロックにおいて果たした役割について語ってもらおう。
●ROCK LEGENDS: キャメル/CAMEL
"Red Moon Rising" Tour in Japan Ichigo Ichie ~一期一会~
2016年
5月18日(水)
【大阪】 なんばHatch
OPEN 18:00 / START 19:00
5月20日(金)
【東京】 EXシアター六本木
OPEN 18:00 / START 19:00
5月21日(土)
【東京】 EXシアター六本木
OPEN 16:00 / START 17:00
公演特設ページ
http://clubcitta.co.jp/001/camel-2016/
●ROCK LEGENDS: PROGRESSIVE ROCK FES 2016
プログレッシヴ・ロック・フェス 2016
出演:CAMEL(キャメル)/Steve Hackett(スティーヴ・ハケット)
【Opening Act】 原始神母 ~Pink Floyd Trips~
5月22日(日)【東京】日比谷野外大音楽堂
OPEN 15:00 / START 16:00
公演特設ページ