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中国が台湾を視野に入れて、ウクライナ戦争とロシア軍から引き出している教訓とは何か

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
中国の厦門に面する台湾・金門県黎明島の兵士の像。2018年8月(写真:ロイター/アフロ)

7月28日に、米中首脳が電話で協議を行った。

ペロシ米下院議長が8月に台湾の訪問を検討していると報道されるなか、習近平国家主席は「火遊びは身を滅ぼす」と米国の干渉をけん制したという。

急激に緊張が高まってきた台湾情勢。

中国は、ウクライナ戦争において、友好国ロシアの武力攻撃から、どのような教訓を引き出しているのだろうか。

『ル・モンド』に掲載されたナタリー・ギルベール氏の複数の記事が大変興味深いので、主にその内容を中心に再構成してお伝えする。

3つの問題

「中国は、プーチン大統領は自分が強いと思っていたが、そうではなかったと考えています。中国にとって、未来の軍隊は自国の軍隊なんです」。

フランス国際関係研究所のマルク・ジュリエンヌ氏はそのように語る。「中露関係は、常に軽蔑するような形をとってきたところがあります。ウクライナ情勢はそれを際立たせています」。

氏によると「中国側では、ロシアの装備の質について疑う余地はなかったのですが。なぜなら、ロシアはシリアなどの舞台で重要な能力を示しており、ロシアは多くの国に対空システムや戦闘機を販売しているからです」ということだ。

それなのに、戦争が始まって1500発ものミサイルに支えられた電撃作戦は完全に失敗してしまったのだ。ロシア側はむしろ受け身である。そのことを中国は承知している。

それでは、中国側は具体的に何を考えているのだろうか。

まず、米国がウクライナに供与した携帯型対空・対戦車ミサイル、スティンガーとジャベリンの性能についてだ。

中国も使用しているSU-30やSU-35戦闘機をウクライナ軍が撃墜するなど、大きな損害を与えることができた武器だ。

ジュリエンヌ氏は「これは、台湾人にとってと同じように、中国人にとっても啓示を与えているでしょう」と言う。

台北はワシントンに対し、250機のスティンガーをもっと早く供給するよう要請している。ただ、アメリカ軍需産業の特需のために、納品が延期になる可能性がある。

4月7日、香港の『サウスチャイナ・モーニングポスト』は、中国のアナリスト、Zhou Chenming氏のコメントを引用して、「この状況から学ぶには、中国空軍は自軍のSU-35のメカニックの問題点を非常に慎重に洗い出し、整備を改善する必要がある」と書いている。

次の重要な教訓は、船舶の問題である。

ロシアの「モスクワ」の撃沈は、一つの事件だった。

「台湾で作戦が行われた場合、自国の海軍が大きな損失を被るリスクは、中国にとって非常に具体的な問題です。中国は自国の船舶、デコイ(敵を騙して本物の目標と誤認させるための装備の総称)、レーダーなどの対策強化に取り組むに違いありません」と、モンテーニュ研究所のマチュー・デュシャテル氏は強調する。

さらに「ロシアの作戦の実施を見て、指揮統制や情報管理の重要性について、中国の戦略家はものを書かずにはいられないでしょう」と、北京の取り組みをさらに加速させる可能性があるという。

兵站の弱さ

それなら人民解放軍ならもっと上手く行うことができるのか。

ウクライナにおける初期の電撃作戦の失敗と撤退を見て、台湾においても「相手の防衛装置を抑え、制空権を確立し、米国が介入する前に即時降伏を実現するといったシナリオを完全に見直す必要があるのは確かです」とデュシャテル氏はいう。

ロシアの作戦レベルにおいても、中国の攻撃ドクトリンの3つの「基本」である突然の攻撃、作戦の統一調整、総合支援(兵站と政治)に違反するものだったと指摘するのは、アーリントンの米CNAセンターで中国・インド太平洋の安全保障問題担当ディレクターを務めるデビッド・フィンケルスタイン氏である。

ただ、理論ではそうわかっていても、その後もずっと、ウクライナにおいてロシア軍が大変な物流の困難をこうむっていること、補給線は切断され、沿岸部へ船舶が到達するのを阻止されていることは、中国軍の懸念材料になっているのだ。

中国軍の組織の抜本的な改革は、2016年に始まった。習近平国家主席が「共同兵站支援部隊」を創設したのだ。

これは経費節減であると同時に、効率化のためだったと、米国防大学のジョエル・ウートナウ氏は振り返る。

この新しい中央集権化された部隊は、2020年末に最初の大規模な演習を実施した。「最初のテストは、武漢のコロナ禍の管理に動員され、大きな成功を収めたことです」。

しかし、「5つの軍管区の司令官たちは、(コロナ禍という戦時ではない)平時には、兵站を管理しませんでした。戦時に新組織がどう機能するかは不明です」という。

「しかも、将校は我々(米軍)とは違い、キャリアにおいて兵站の経験を要求されることはありません。結局、中国の軍事兵站担当者は、まだモデルを決定していないのだと思います」

上陸作戦はどうなるか

地理上当然のことだが、もし中国が台湾に侵略するなら、上陸作戦を行わないといけない。

海峡は約180キロメートル。米国防総省の議会への2021年版中国に関する報告書によると、入手可能な中国の文書には「陸空海軍共同の台湾侵略のための、さまざまな作戦コンセプトが記述されている」という。

最も重要なことは、「共同上陸作戦」は、複合作戦を想定しており、兵站、航空と海軍の支援、電子戦のために調整され、入れ子構造になった作戦に基づいていることである。

(※入れ子とは、重箱やマトリョーシカのように大小が重なっているものを言う)

しかし、1950年9月の朝鮮戦争における仁川での上陸作戦を除けば、第二次世界大戦以降、一つとして大規模な水陸両用強襲作戦で成功したものがあるとは見なされていない。

1944年にアメリカが「3万人の飢えた日本兵」の手からフォルモサ(台湾のこと。「美しい島」の意)を奪還するためのアメリカの作戦では、ノルマンディー上陸作戦の2倍である40万人の兵士と4000隻の船を用意したと、アトランティック・カウンシルのハーラン・ウルマン氏は回想している。

2021年8月、中国は、台湾周辺でフェリーを使った演習を実施した。

しかし、軍備や兵士の移動には、特別な技術的条件が必要だと、欧米の専門家は指摘する。「現在進行中の組織改編で、将校は文民機関に組み込まれるようになったが、当分の間、これらの組織は中国の国境を越える準備ができていない」と、国防総省のジョシュア・アロステギ氏は言う。

人民解放軍は、移動には高速道路や鉄道を好みとしている。ウクライナでは簡単に標的にされてしまうことも起き、ロシア軍に多大な損失を与えたものだ。

あの戦車の隊列は、ソ連のドクトリンによる結果であるという評価がある。

参考記事:ロシア軍の実力は、実際のところ、どのくらいなのか

台湾では、「中国は、まず攻撃し、次に大規模な支援を必要とする陸上でのプレゼンス段階を考えているが、それができる保証はない」と、元軍人であり、ジョージ・ワシントン大学の専門家であるロニー・ヘンリー氏は言う。

人民解放軍の欠点

もし台湾が、明日、45万人の兵士や民間人の防衛力を必要とする場合、中国は120万人の兵士や補助部隊を配備する必要がある。総作戦部隊は200万にもなり、それは、数千隻の​​船が必要になると、ハーラン・ウルマン氏は2022年始めに見積もった。

中国は、その軍事手段の状態において、ロシアよりも優れていないと、このテーマでペンタゴンのために働いてきたアメリカのアナリストが、いくつかの結論を戦略国際問題研究所(CSIS)に配信している。

ヘンリー氏は、「我々は多くの疑問に対する答えを持っていない」としながらも、「私の考えでは、中国は大規模な空戦作戦を2週間以上維持することはできない。彼らは非常に大規模な戦力を投じる能力を持っていないし、それを望んでいるかどうかもわからない」という。

アロステギ氏は、人民解放軍には「驚くべき欠点がある」と指摘する。米陸軍戦略大学のジョージ・シャッツァー大佐は、以下のものを挙げている。実戦経験の欠如、指揮系統の不備(決定をくだすのに5〜6段階の承認が必要)、武器用の現代のコンテナ・艦隊の補給船・航空機の整備施設の手段が不十分であることだ。

さらに、デュシャテル氏は「中国にとって重要な問題は、敵に上陸された台湾人が、西の海岸地域の全域で、長期にわたるゲリラ戦を展開できるかどうかという、台湾人の決意の問題である」と強調する。

台湾の元参謀総長の李喜明提督は、台湾の人々の抵抗する意志と、台湾の通常兵力の劣勢を問いかけて、ウクライナのような「領土防衛軍」の創設を7月20日に日経アジアのインタビューで提唱した。

ともあれ、様々な弱点はあるとしても、中国はウクライナ戦争から最大限の教訓を引き出そうとしている。習近平国家主席の側近たちは「非常に高いレベルで」学んでいるのだという。「前例の失敗」を見て学ぶことで、中国軍の力と戦略は、より弱点の少ないものになっていく可能性は高い。

そもそもの問題

しかし、戦争というのは究極の政治であり、社会そのものが呼応する。

中国共産党は、どのくらい自分たちのドクトリンや「常識」を離れて、ロシアの状況を冷静に客観的に見られるのか。

中国の元駐ウクライナ大使であるGao Yusheng氏(75)が、プーチンの戦争について痛烈な非難を行った件が、一時ネットを騒がせた。しかし、中国のインターネットから静かに削除された。

政府系の中国国際金融30フォーラムと中国社会科学院が主催した内部セミナーでの発言だった。

『ディプロマット』によると、彼は、戦後のロシアの経済的・政治的破局の深刻さを描きながら、ソ連崩壊後ロシアは「連続的・歴史的な衰退の過程」にあると主張、プーチンがロシアの栄光を取り戻すために捏造された歴史に頼っていることを非難した。

「プーチンの治世下でのいわゆるロシアの活性化は、誤った前提に基づくものである。ロシアの衰退はあらゆる分野で明らかであり・・・ロシア軍とその戦闘能力に大きな悪影響を及ぼしている」と述べた。

「ロシアが完全に敗北するのは時間の問題だ」、「米国は国連や他の国際機関の実質的な改革を強力に推進し、そのような改革に障害が置かれれば、新しい組織を立ち上げることさえするだろう」とも言った。

彼のような外交官は、中国では大変な例外である。

中国の外交官たちは、米国が戦争の舞台裏を仕組んだと非難している。外交・安全保障専門家の大多数は、純粋にロシアの視点に共感している状態だという。それが一党独裁の中国共産党の見解であり、言論の自由が制約されているのが当たり前の国だからである。

そのような体制で、なぜロシアが思ったような戦果を挙げられないのか、あれこれが足りないという正確な分析を行い、かつそれ以上の分析や対策ができるのか、本当に勝てるのか。

元将校でもあるデビッド・フィンケルスタイン氏は、中国共産党は、「三戦」、すなわち「世論戦」「心理戦」「法戦」を定義しているが、これを完全に実践しているのはウクライナ側であると指摘した。

中国共産党中央政治局の委員の権威の下、「人民解放軍のアナリストたちは、この戦争の認知的、人間的側面に細心の注意を払い、ロシア軍の士気の低下、現場の通信の規律の欠如、戦争犯罪の告発などの報告を読むだろう」とも言う。

アナリストたちも共産党の政治家たちも、報告を読んだ結果、西側に勝てる戦略を描けるだろうか。上手な戦略を描いても、それは現場で実行可能だろうか。

中国は、ソ連の崩壊に今も苦しんでいる。中国共産党によれば、プーチン大統領は、「ニヒリズムとの戦い」、つまり「外国の力によって歪められた」ロシアの文化や歴史を回復するための長期的な戦いを望んでいるのである。

かつてのプーチン大統領も、鄧小平も、ソ連の崩壊を経済的失敗と捉えた。だから彼らは欧米のやり方に近づこうとした。今、両国が考えていることを実現するには、欧米と距離を置くしかない。

文明の歴史という大きな審判の前にはーーどのくらい先のことかはわからないがーー結局負けるのは彼らの側だろうと筆者は思っている。その遠くの地平線を見据えた上で、日本は何よりも外交大国になることを目指した上で、短中期の国家戦略を立ててほしいと願っている。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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