「アメリカを知る男」が率いるブレイブウォリアーズを見逃すな!!
ご存知のように2019-2020シーズンのBリーグは、新型コロナウイルスの影響もあり、途中で打ち切られた。消化したゲームの結果プラス、5000人収容のアリーナ基準と財務面での資金繰り基準をクリアした為、40勝7敗でB2首位を走っていた信州ブレイブウォリアーズと、2位、広島ドラゴンフライズが来季からB1に昇格することが決まった。
信州ブレイブウォリアーズを運営する株式会社信州スポーツスピリットの代表取締役社長、片貝雅彦(42)は、バスケットボールの本場、アメリカ合衆国で10年を過ごしている。その彼に話を聞いた。
高校時代バスケットボールに打ち込んだ片貝は18歳で渡米し、サンタモニカ市立大とネバダ州立大学リノ校を卒業。晩年のマイケル・ジョーダンを生で見ようと、ワシントンDCの鮨屋で住み込みの板前として働いていた時期もある。2年間、アメリカバスケットボール界の独立リーグ(ABA)のスタッフを務めた後、日本に帰国した。やがて、bjリーグの営業を経て、2011年7月に産声を上げた信州ブレイブウォリアーズ経営統括責任者に就任。9年をかけ、このほどB1参入を勝ち得た。
片貝は言う。
「長野県は、2019年10月12日に日本に上陸した台風19号の大きな被害を受けました。その後襲ってきた新型コロナウイルス感染症の猛威が、今尚続いているなか、県民の方々には、我がチームのB1昇格は喜ばしい出来事だと受け止めて頂いています」
今日、長野県のプロスポーツチームの中で、トップリーグで戦うのは信州ブレイブウォリアーズだけである。
「ブレイブウォリアーズの仕事をやらせて頂くようになってから私は、スポンサーのセールス、チーム編成、行政対応等を担当しました。千曲市の観光大使にも任命して頂き、市役所の観光課の方々と共に動いて参りました。当初はハンドボールが盛んな千曲市に、どうしてバスケなの? という視線も浴びました。
とにかく認知度を得なければと思いましたので、外国人選手はなるべくダンクシュートを放つようにとか、アリーナの席を詰め、可能な限り近くで身長2メートルの選手を見て頂くように計らったり、彼らが履いている35センチのシューズを入口に展示したり、あるいは手形を並べたりと、アリーナにお越しくださる方にチームを身近に感じてもらう工夫をしました」
ネバダ州立大学リノ校ジャーナリズム学部プリントメディア学科で学んだ片貝は、広報活動に力を発揮し、斬新なキャッチフレーズや毎年変わるスローガンを駆使し、バスケに興味のない人を振り向かせる努力を続けた。
「ポスターを作る折には、<出来るだけ分かり易く、シンプルに>をテーマにしました。創立から1年後くらいに千曲市にバスケが根付いて来たなと手応えを感じました。小学生を対象とした憧れのスポーツ選手ベスト10のアンケートのなかに、メッシやネイマールの下にブレイブウォリアーズの選手が一人入ったんですよ。ベスト20には、もう一人入りました。
また、選手が幼稚園を毎年訪問し、お子さんと一緒に身体を動かすことで、保護者の方々に興味を持って頂きました。リーグ戦のできるプロスポーツが、ブレイブウォリアーズの地域には無いので、浸透していけるかなとは感じました」
5000人収容のアリーナを持つ、というのが大きな関門となった。
「千曲市が市役所の庁舎を建て替えることになっていましたので、それに合わせて体育館も造れたらと考えました。そこで市や議会で諮ってもらったのですが、実現に至りませんでした。その結果を持って、長野市と松本市に打診したところ、長野市の市営アリーナをホームアリーナとして使わせて頂けることになったんです。それまでのホームタウン千曲市に長野市が加わり、長野市のホームアリーナ『ホワイトリング』でホームゲーム24試合をやらせて頂けることになったんですよ」
Bリーグが誕生した2016年、GM兼ヘッドコーチとして勝久マイケルを招く。
「チームの編成、選手、アシスタントコーチ、トレーナー、通訳の人選も勝久コーチにお任せしました。海外選手を連れてくる際の交渉も、全てお願いしています。勝久コーチの存在が大きかったですね」
勝久ヘッドコーチが信州ブレイブウォリアーズに就任した理由の一つに、琉球ゴールデンキングスから前年信州に加入したFアンソニー・マクヘンリー(37)の存在があった。
「Fのアンソニー・マクヘンリー(37)とCのウェイン・マーシャル(34)の2枚看板が来季もウォリアーズに戻ってきてくれます。2020-2021年シーズンも頑張ってもらいます。勝久コーチは、彼らに絶大な信頼を置いています。
マクヘンリーはジョージア工科大でNCAA準優勝し、英国でプレーした後、琉球ゴールデンキングスに入団。9シーズン、琉球の顔としてプレーしました。トレーニング、食事と日常生活から全て、徹底しているプロ意識の高い男です。バス移動の時も、チームに対してファミレスでの食事をリクエストしてきたりします。全国で同じメニューを出しているチェーン店なら、カロリー計算や栄養素を把握できているので、という理由からです。我がチームにとって、精神的支柱ですね。2017年に、マクヘンリーは琉球との契約が満了になったので、来てもらいました。バスケットボールIQが高く、無駄な動きがありません。そして何より周囲の選手のレベルを上げてくれるんですよ」
マクヘンリーは常に行動で示し、チームメイトの模範となっている。
「マイケル・ジョーダンのように、いつもチーム内で1番早く体育館に来ます。試合開始が18時だとしても、午前中から来て一人でシュート練習をしていますね。練習の日は体育館の使用時間があるので、1時間くらい前に来るかな。
2メートル2センチのマクヘンリーと2メートル11センチのマーシャルを中心に、今の戦力でもB1でそこそこ戦えると感じています。彼らが怪我をした場合は、3人目の外国人選手や2メートル級の日本人選手を起用したバックアッププランを作っています。新型コロナウイルスの影響で、これからの2シーズンは降格が無くなります。だからといって、緩めるのではなく常に優勝を目指して日々成長していきたいと考えています。営業面では、過去に観戦歴のある方、興味・関心を示した方を今一度掘り起こし、更には今までいらしたことのないお客様を獲得していけたらなと」
片貝は、今後も勝久マイケル体制でステップアップを目指すが、Bリーグに欠かせないのが外国籍選手の貢献だ。
「外国籍選手は、練習でも試合でもハードワークしてくれる人を選びたいですね。土地柄、コツコツと堅実にやるタイプが好まれますから、派手なダンクをバンバン見せるより、子供たちが見て『あの選手は身体が大きいだけじゃなく、プレーが参考になるね。バスケットボールに取り組む姿勢がお手本になるよね』という選手に来てもらいたいです」
来季に向けての抱負も訊ねた。
「昨シーズン、財務面の問題でB1に参入できずに悔しい思いをしました。このチームだったら、プレー面も経営面もB1でやっていける力があるというものを見せたいです。B1に上がって、直ぐに落ちるようなチームじゃないことを証明したい。今後は、常にB1の上位にいれるチームを作って、最終的には長野県でのバスケ熱が沸騰し、競技・観戦人口が共に圧倒的なシェアを占めるようにやっていければと考えています」
片貝は折に触れて、NBA会場の熱気を思い出す。
「ワシントンDCに住んでいたころは、年間7~8試合ほどウィザーズのアリーナに足を運び、生でジョーダンのプレーを目にしました。鮨屋で稼いだ金は、全てNBAにつぎ込んでいましたね。最高値で800ドルくらいのチケットを買いましたよ。
僕の原点はそこです。NBAのチケットを買ったら、試合観戦だけじゃなくて、1週間前くらいから心が躍るじゃないですか。Bリーグも、メインディッシュはあくまでもゲームですが、アリーナに向かう喜びとか、ワクワク感とか総合的な付加価値を上げていきたいですね。ディズニーランドに行く時のようなエンターテイメント色を長野県に植え付けていきたいです。信州の土地で、非日常的なものを、日常的にやっていけたらなと考えています」
本場のバスケを知る男、片貝の手腕に注目だ。