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「使わない」はずの10代の行動データを、Facebookが今も収集し続ける

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
By Dick Thomas Johnson (CC BY 2.0)

使わないと公約したはずの10代の行動履歴データを、フェイスブックは今も収集し続けている――。

巨大IT企業の改革に取り組む豪NPO「リセット・オーストラリア」などの調査報告書で、そんな実態が指摘されている。

フェイスブック(現メタ)を巡っては、アルコールや極端なダイエットなど、10代ユーザーへの不適切なターゲティング広告配信に批判が集中。同社は7月、10代へのターゲティング広告では、興味関心などの履歴データは使わない、と表明していた。

だが、実際にはデータ収集は続いていたのだという。

同社サービスでは、元プロダクトマネージャーによる内部告発で、インスタグラムが10代女子のメンタルに悪影響を及ぼす、との社内調査結果が問題視されている。

そして、欧州連合(EU)では、未成年へのターゲティング広告を禁じる「デジタル市場法」の検討が進む。

社会のインフラとなったソーシャルメディアの中で、10代は一体どんな状況に置かれているのか。そんな不安と懸念が、グローバルに広がっている。

●10代のデータ収集を続ける

フェイスブックピクセルのデータを使うことで、フェイスブックは子どもたちが開いたブラウザのタブやページなどのデータを収集し、クリックしたボタン、検索した言葉、購入したり買い物カートに入れたりした製品(コンバージョン)といった情報を手に入れることができる。コンバージョンなどのデータの保存は、広告配信システムへの利用以外には考えられない。

巨大IT企業の改革に取り組む豪NPO「リセット・オーストラリア」、児童へのマーケティングの排除に取り組む米NPO「フェアプレイ」、持続可能な開発のための教育に取り組む英NGO「グローバル・アクション・プラン」の3団体は11月16日に公表した報告書の中で、こう指摘している。

フェイスブック(現メタ)は10代のユーザーへの広告配信のために、閲覧履歴などの行動データの収集を、なお継続している――報告書は、そう指摘する。

報告書が指摘する「フェイスブックピクセル」は、フェイスブック外のウェブサイトに埋め込むことで、ユーザーの幅広いウェブ上の行動を追跡できるコードだ。そのデータはフェイスブックが集約し、ユーザーの登録データと紐づけされる。主な利用目的は、広告のターゲティングだ。

同社の説明ページには、こう記載されている。

Facebookピクセルは、短いコードスニペットです。ビジネス、ウェブサイトエンジニア、またはFacebookビジネスパートナーはこれをビジネスのコードに組み込むことができます。インストールしたピクセルによって、利用者および利用者がブランドと関わるアクションのタイプ(ウェブサイトにアクセスする前に見たそのブランドのFacebook広告、サイトでアクセスしたページ、カートに追加したアイテムなど)をトラッキングできます。

今回の報告書では、フェイスブックの年齢制限の下限である13歳のアカウント1つと、16歳のアカウント2つを実験用に開設。これらのアカウントを使って、フェイスブック外のウェブページを閲覧したところ、すべてのアカウントで、フェイスブックピクセルがウェブ閲覧データなどを収集していたことが確認できた、という。

●行動履歴を「使わない」という宣言

当社は、広告主が若いユーザーに広告を届ける方法を変更します。今後数週間で、広告主が18歳未満(特定の国ではそれ以上)のユーザーへのターゲティング広告に使えるのは、年齢、性別、所在地のみになります。つまり広告主は、興味関心、他のアプリやウェブサイトでの行動といった、これまでのターゲティングの選択肢を使えなくなります。この変更はグローバルに、インスタグラム、フェイスブック、メッセンジャーで実施されます。

フェイスブックは7月27日、10代への広告配信で、興味関心や閲覧データなどの行動履歴データによるターゲティングを停止する、と表明した

これには前段がある。

やはり「リセット・オーストラリア」は4月26日に公表した調査報告書で、フェイスブックが13~17歳のユーザーに対して、興味関心や行動履歴などから、アルコールやギャンブル、タバコ、極端なダイエットなどのターゲティング広告配信を可能にしていることを明らかにした。

それによれば、広告がリーチ可能とされた同国内の13~17歳のユーザー数は、アルコールで5万2,000人、ギャンブルで1万4,000人、タバコは1,000人未満、極端なダイエットは3,600人だった。

また、米NPO「キャンペーン・フォー・アカウンタビリティ」のプロジェクト「テック・トランスペアレンシー・プロジェクト」による米国での調査でも、13~17歳のユーザーに対して、やはりアルコール、極端なダイエット、薬物、ギャンブルなどのターゲティング広告の配信を可能にしていた。

これらの批判の中で、フェイスブックは、10代への広告配信のデータ利用制限を表明した。

そこにフェイスブックの元プロダクトマネージャー、フランシス・ホーゲン氏の内部告発が火を噴く。

ターゲティング広告ではなかったが、インスタグラムにおいて、10代女子のメンタルへの悪影響を認識していながら、十分な対策を取らなかったとされる問題は社会にインパクトを与えた

激しい批判を受ける形で9月27日、インスタグラムは計画中だった13歳未満の子ども向けサービス「インスタグラム・キッズ」を「一時中止する」と発表した。

そんな中で、フェイスブックの安全性担当の責任者、アンティゴネ・デービス氏は9月30日、米上院の公聴会で証言に立つ。デービス氏はここで、「若者に対しては極めて限定した広告しか配信していない。若者には性別、年齢、所在地によるターゲティングしかできない」と述べていた

●なお不適切なターゲティングは可能

しかし、10代に向けた不適切なターゲティング広告配信ができる状態は、その後も続いていたという。

「テック・トランスペアレンシー・プロジェクト」は10月1日に公表した新たな調査結果で、フェイスブックの7月の仕様変更によって、13~17歳への興味関心に基づいたターゲティングはできなくなったものの、引き続きこの世代を対象としてアルコールや薬物、ギャンブルなどの広告配信設定をすることが可能だった、と指摘している。

そして今回、「リセット・オーストラリア」などの調査で明らかになったのが、10代のフェイスブック外での行動履歴データの収集だ。

同グループの報告書では、これらのデータは広告配信に使われているはずだと推定し、10代へのターゲティング設定の主体が、広告主からAIアルゴリズムに変わっただけだ、と述べている。

「リセット・オーストラリア」など48の人権擁護団体などは11月16日付で、この調査結果を踏まえて、10代へのターゲティング広告配信の全容を明らかにするよう求める公開書簡を、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏宛に送っている。

今回の調査結果に対して、メタのスポークスマン、ジョー・オズボーン氏は英ガーディアンなどへのコメントで、10代の行動履歴データは広告配信には使っていない、と否定している。

当社が透明性ツールにデータを表示されるからといって、それが自動的に広告配信に使われている、というのは誤りだ。当社は広告主やパートナーのウェブサイトやアプリから取得したデータを、18歳未満のユーザーへの広告のパーソナル化には使用していない。

このデータが透明性ツールに表示されるのは、10代のユーザーが当社のビジネスツールを使っているサイトやアプリを訪れるからだ。当社が取得するデータについては、広告のパーソナル化に使用していなくても、透明性を担保したいと考えている。

つまり、フェイスブックピクセルが埋め込んであるサイトをユーザーが訪問すれば、18歳未満であっても、行動履歴データは取得するが、それは広告には使っていない、との主張だ。

オズボーン氏の言う「透明性ツール」とは「フェイスブック外のアクティビティ」というページのことで、フェイスブックに取得されている自分の行動履歴を確認することもできる。ただし、かなりわかりにくいところ(▼>設定とプライバシー>設定>あなたのFacebook情報>Facebook外のアクティビティ>Facebook外のアクティビティを管理)にある。

ユーザーが気軽に「透明性」を確認できるとは、言い難い。

●規制の動き

今回の指摘に対しては、早速、議会側からの反応も出ている。

フェイスブックは今回の調査結果について回答し、同社の公約と実務に明白な不一致があることに対処し、ターゲティング広告がプラットフォーム上で10代のユーザーに届くプロセスの詳細を説明する必要がある。

米上院のエドワード・マーキー氏、下院のキャシー・キャスター氏、ロリ・トラハン氏のいずれも民主党の3議員は11月22日付で、ザッカーバーグ氏にそんな公開書簡を送っている。

マーキー氏、キャスター氏は民主党上院議員のリチャード・フルーメンタール氏とともに、児童への不適切なオンラインマーケティングなどを規制する「児童インターネットデザイン・安全法案(Kids Internet Design and Safety [KIDS] Act)」を議会に提出している

10代へのターゲティング広告などへの規制は、欧州でも動きがある。

フランスのデータ保護機関CNILは、「未成年のデジタル権利」という6月9日付の勧告で、「未成年のプロファイリングデバイス、とくにターゲティング広告で利用する場合に、デフォルトで無効化の設定を提供すること」を求めている。

また、欧州連合(EU)の大手プラットフォームの規制法案である「デジタル市場法(DMA)案」を審議していた欧州議会の域内市場・消費者保護委員会は11月23日、同法案を可決している。今後、欧州委員会や加盟各国との調整に入る予定だ。

「デジタル市場法」はフェイスブックやグーグルなどの大手プラットフォームを「ゲートキーパー」と規定して規制し、違反行為には、最大で総売り上げの20%の制裁金が科せられる。

※参照:2021年、GAFAは「大きすぎて」目の敵にされる(12/18/2020 新聞紙学的

そして同法では、未成年の個人データを、ダイレクトマーケティング、プロファイリング、行動ターゲティング広告などの商業利用のために処理することを禁じている。

●強まる逆風

米カリフォルニア州を含む8州の司法長官は11月18日、インスタグラムの利用が若年層に与える影響について、超党派で調査を開始する、と発表している

一方、インスタグラムCEOのアダム・モセリ氏は12月、上院公聴会に出席する予定と報じられている

プラットフォームの規模が大きくなれば、それだけシステムのゆがみも増幅される。

そのゆがみの悪影響を最も受けやすいのが、子どもなどの弱い立場のユーザーだ。

10代のユーザーがどのような状況に置かれているのか。不安と懸念は高まるばかりだ。

(※2021年11月26日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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