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地名をヒントに土地の災害危険度を考える

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

地名に色々なヒントが!

私たちが普段最も良く使っている固有名詞に地名があります。私が最初に地名に興味をもったのは、満員電車の中です。本も読めない混雑で、扉の上の鉄道路線図をぼ~っと見ていたときに、ふっと気づきました。山手線・中央線・総武線の駅名に、地形を表す漢字が沢山使われていること、車窓に見える風景と重ねると地名が見事に地形の特徴を表していることでした。今頃になってそんなことに気づく自分に恥ずかしさを覚える一方、周辺の人たちに話をしてみると、意外とみなびっくりすることに驚きました。

そもそも、地名は、ある場所の呼称が多くの人々に共通認識されて定着したものですから、元来、そこにあった地形、人物、事物に由来するものが多いようです。身近な地名を思い浮かべてみると、山・川・海・浜・田・沼・谷・島・津・江・洲・須・枝・窪・井・野・原など、土地の地形的特徴や土地利用に関する漢字が多く使われていることに気づきます。

中央・総武線の駅名

一例として、多くの人が利用する中央・総武線(各駅停車)の駅名を千葉から三鷹まで並べてみます。千葉、西千葉、「稲」毛、新検見「川」、幕張、幕張本郷、「津田沼」、東「船橋」、「船橋」、西「船橋」、下総中「山」、本八幡、市「川」、小「岩」、新小「岩」、「平井」、「亀戸」、錦糸町、両国、浅草「橋」、秋葉「原」、御茶ノ「水」、水道「橋」、飯「田橋」、市ケ「谷」、四ツ「谷」、信濃町、千駄ケ「谷」、代々木、新宿、大「久保」、東中「野」、中「野」、高円寺、阿佐ケ「谷」、荻「窪」、西荻「窪」、吉祥寺、三鷹、となります。「」で囲ったように、地形や水辺に関わる漢字が、驚くほど沢山含まれています。秋葉原より東では、川、津、船、橋の漢字が多く、西では、谷、久保・窪、野、橋といった漢字が多く見られます。それぞれ、沖積低地や海・川、武蔵野台地を刻む谷・窪の地形が窺えます。確かに中央線は台地を刻んだ谷筋に通した堀沿いに走っています。

蒸気機関車の時代の鉄道は、坂道が苦手なため、谷沿いに建設されることが多かったようです。多くのドラマで、お父さんがマイホームから坂を下って駅に向かうシーンが出てきます。鉄道駅は谷、住宅地は丘陵というのが我が国の一般的な風景ように感じます。

地名から当事者意識を!

私自身は、建築構造、中でも耐震工学、地震工学に関わる教育・研究に従事しています。このため、地震災害軽減のための様々な地域防災活動に携わることがあり、地域の地震危険度について解説することが良くあります。地名は私たちの普段の生活や、地勢、地史に密接に結びついています。地名を通して土地の由来を解説したり、地形的特徴や地震危険度などについて説明すると、大いに関心を持ってもらえ、納得感やわがこと感を感じてもらえるようです。地名への愛着や、地名の持つ土地の歴史感や地理感などが、当事者意識を芽生えさせてくれるのだと思います。

昔の地名が残りやすいバス停

地名と地盤の硬軟、標高、地盤の揺れやすさ、液状化危険度や水害危険度、浮世絵や名所図会に描かれた風景などとの関係を調べてみたところ、案外、相関がよいことが分かり、地名の大切さを改めて感じています。とはいえ、1962年に合理的な住居表示を促進する「住居表示に関する法律」が制定され、地名改変が進んだため、○○町×丁目△番○号と表示される地名が増え、かつての地名が失われてきています。ですが、幸い、交差点名、バス停名、通り名、公園名、学校名などに、昔の地名が残っているようです。中でもバス停は、高密度にあるため、昔の地名を調べるにはとても役に立ちます。

次回以降、三大都市の地名を見てみようと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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