大水害の発生と、森林は関係あるのか
福岡から大分にかけての九州北部で起きた大水害について、連日報道されている。
それらの報道に接していると、報道関係者の多くは水害の発生を森林問題と関連づけようとしていると感じる。
報道に登場する治水研究者らに「水害発生の原因は多すぎた雨量と花崗岩質の崩れやすい地質にある」と語らせておきながら、流木が被害を高めたとか、スギやヒノキの人工林は根が浅くて崩れやすい、森林整備の遅れが土砂崩れを引き起こした……という話題に触れるのだ。本当のところはどうか、それらの点を検証してみたい。
今回の水害と森林の関係は、詳しくは今後の調査を待たないといけないが、まず押さえておきたいのは、極端な大雨が降った場合、いかなる森林であっても崩れる、それが屋久島や白神山脈の原生林であろうと、崩れるときは崩れるという点だ。災害があると、すぐ人工林と結びつけたがるのは浅慮だろう。
ただ大量の流木が集落を襲って被害を拡大したのは間違いない。
林業地では伐採した丸太を林道沿いなどに仮置き(山土場)することもあるから、そんな場所が山ごと崩れたら一緒に流されるのも自明の理だ。なかには切り捨て間伐で林地に残した丸太もあるだろう。
だが、それで林業を批判するのはお門違いだ。山土場の場所を少々変えても防げないし、仮置きするな、切り捨てするな、とも言えない。
それに丸太を問題視する前に、山が崩壊したのだから、そこに生えていた木々も流されるのは当たり前である。被害をもたらした流木が丸太と立木のどちらが多いかまだ調査はされていないだろうが、崩壊面積からしても、山土場の丸太量をはるかに超える樹木が流されたはずだ。それがケシカランとするなら、はげ山にするしかない。
スギやヒノキの根が浅いから山崩れが発生しやすい、という意見も誤解である。
本当にスギ・ヒノキの根は浅いところにしか伸びないのだろうか。スギやヒノキの根が地表すぐ下に伸びているのは、そこが土壌が薄い土地だからであり、そんな場所では広葉樹であっても根は浅くなる。今回の場合も、人工林より天然林の方が崩壊は大きい可能性だってある。
肝心なのは、樹木の根は土壌のある部分しか伸びないことだ。土壌は通常深さ1~2メートルである。(谷間などに土が積もった場合でも3メートル程度だろう。)つまり樹種によって深根性、浅根性と区別しても、たかだか3メートルまでなのである。樹高が20メートル、30メートルあろうと、根系はその10分の1以下の深さしかない。そこに樹木の重さや、上部の揺れのモーメントがかかってくる。ならば根が浅い方がさっさと木が倒れて土壌を大きくひっくり返さないで済むと見ることだってできる。
さらに森林整備が災害を防ぐかどうかも、かなり疑問である。
一般に鬱蒼とした森(主に人工林)を間伐することで地表に光を入れ、草を生やしたり、残した木々の根が広く張ることで土砂崩れを防止する効果がある、とされている。
たしかに地表に草が生え落ち葉が積もれば、降雨が土壌をえぐる力を減じることができる。土壌流出を抑えるだろう。だが、間伐であろうと伐採作業では、少なからず森林土壌を荒らす。降り積もった腐葉土や草を除き、土壌を引っかき回す。そんな状態のところへ大雨が降れば、土壌流出を促進しかねない。
では、幸いにして草が生え落ち葉が積もるまで大雨が降らなかったら、土砂崩れは起こらないだろうか。気をつけたいのは、土壌流出と土砂崩れは一緒ではないことだ。残念ながら、土砂崩れは土壌表面が削られて流出するのとは次元の違う力で起きる。
まず地下深くの岩盤から崩れる「深層崩壊」に、森林はほとんど関与することがないことは歴然としている。
森林土壌部分が崩れ流れる「表層崩壊」にしても、土壌層部分が丸ごとえぐられる場合は、樹木が根を張ることで崩れなくなるかどうかは怪しい。
「人がつくった森林は災害が起きやすい」という先入観を持つべきではないだろう。
逆に、行政担当者が治水・治山工事を行うことで災害を防ぐような発言をするがいかなるダムを造ろうと川岸をコンクリートで固めようと、ほんのわずか災害発生を弱めるぐらいにしかならない。人が手を加えることで得られる防災効果を誇大に見積もって事業を正当化しても、決して社会に良い結果をもたらさない。
森林に土砂崩れや洪水を防止できるといった過剰な期待を背負わせるのは、森林にとっても不幸である。むしろ歴史的に災害は不可避だと認識すべきだ。そのうえで、被害をいかに小さくするには何ができるか、を模索したい。