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見た目の低金利に潜む家計のリスク、変動金利の住宅ローンは見直しがベター

浅田里花ファイナンシャル・プランナー(CFPⓇ・1級FP 技能士)
生涯で最も大きな買い物マイホーム。家計に影響する住宅ローン選びは失敗できません。(ペイレスイメージズ/アフロ)

◆不動産業者のおススメは変動金利ローンだが・・・

 つい最近、マンション購入を決めた友人から、住宅ローンの選び方についてのセカンドオピニオン的アドバイスを求められました。変動金利と固定金利、または固定金利選択型、どの金利タイプのローンを選んだらいいのかというのです。不動産業者の勧めや家族の希望と、FPである私の意見をすり合わせたいということでした。

 住宅ローンのうち「変動金利ローン」は、毎年4月1日と10月1日の短期プライムレート(大企業などへの最優遇貸出金利)に基づいて半年ごとに適用金利が見直されるタイプのローンで、7月と翌年1月の返済分から変更されます。短期プライムレートは短期金利の指標である日銀の政策金利(無担保コール翌日物金利)に連動して決められます。

 一方の「固定金利ローン」は、契約時の適用金利が返済期間終了まで変わらないタイプのローン。こちらは長期金利の指標である10年国債の利回りを参考に決められます。

 つまり、「変動金利ローン」は短期の市場金利、「固定金利ローン」は長期の市場金利が影響するローンということになります。

 また、「固定金利選択型ローン」と呼ばれる住宅ローンも各金融機関が取り扱っており、2年、3年、5年、10年、15年などの固定金利適用期間から選択できるようになっています。固定金利適用期間中は金利が変わらず、適用期間明けにはそれ以降の金利タイプを再度選択する仕組みのローンです。

 

 どの金利タイプの住宅ローンを選べばよいかは、その時の金利情勢によって判断が変わります。金利のピーク圏という時期(高金利)であれば、その後の金利低下で適用金利が下がることが期待できる「変動金利ローン」が有利。逆に、金利のボトム圏という時期(低金利)は、世の中の金利が上がっても低い金利で借り続けられる「固定金利ローン」が有利です。判断が難しい情勢であれば、「10年固定金利選択型ローン」にし、将来見直しを検討するのが無難でしょう。

 現在の情勢はというと、これ以上の下げ余地はほとんどないという水準の金利ボトム圏。変動金利ローンという選択肢はないと考えるのがセオリーです。

 ところが、実際には8割以上の人が変動金利ローンで契約しています。友人も不動産業者の勧めで変動金利がよいと思ったとのこと。金利が一番低いことから、無難に提案しやすいのだと思われます。

◆低金利で借りられるうちに固定金利ローンに借り換えを

 金利は期間が長くなるほど高いのが正常な状態です。したがって住宅ローンも、変更のタイミングが半年と最も短い変動金利ローンの金利が最も低く、固定金利選択型ローンの場合、固定金利適用期間が短いものから長くなるにしたがって金利が高くなっていきます。また、全期間固定金利ローンの場合も、返済期間が長い契約ほど適用金利が高くなります。

 数字だけ見ると、どうしても低い金利の変動金利ローンが魅力的に映ります。

 バブル崩壊以降、日本では低金利が常態化しているので、金利上昇がイメージしにくくなっているでしょう。これまでも、小幅な金利上昇はあったもののすぐに下がり、現状は史上最低水準が続いているため、今後も大幅な上昇はないような感覚になるのは仕方がないかもしれません。日銀の金融政策も、2%の物価目標を達成するまで変更しない方針が出ており、当面は金利上昇がないとされる根拠にもなっています。

 しかし、いずれは金融政策の転換があると、心づもりしておくべきです。

 もし金利上昇トレンドを迎えれば、変動金利ローンも半年ごとに適用金利が上昇し、金利負担が増えることになります。変動金利ローンのルールとして、月々の返済額は5年間変わらない、5年目の返済額見直し時には125%以上増えない、としている金融機関がほとんどですが、月々の返済額のうち利息の配分が増えることになるため、元本の返済がなかなか進まなくなることを知っておきましょう。

 最長35年と長期にわたる契約ですから、金利が上昇してもいずれまた下降する時期もやって来ます。家計管理をしっかり行い、上手く乗り切ることは不可能ではありませんが、家計の実力以上のローンを組んでしまって貯蓄するゆとりがないケースなど、「金利上昇」という不安要素を抱えていることは確かです。

 「当面は金利上昇がなさそうだから変動金利で借りておき、上がりそうになったら固定金利に乗り換えればいい」と考える人も多いのですが、実際には難しいと思われます。

 長期金利は短期金利より先行して上昇します。つまり、長期の固定金利ローンの金利が変動金利ローンより先に高くなってしまうわけですが、消費者心理からすると、今までより高くなったものにわざわざ乗り換えることには抵抗が生じるはずです。

 そうこうするうちに変動金利ローンも上がってきますが、固定金利ローンはさらに上がり、ますます乗り換えにくくなるでしょう。

 金融機関では住宅ローン金利の割引サービスを続けており、借りる際の実際の適用金利は、店頭表示金利よりかなり低くなります。

 すでに変動金利で借りていて、長期の返済期間が残っているという人は、割引でおトクになっている固定金利ローンへの変更を検討したほうが、将来の家計には安心です。長期固定金利の「フラット35」も、返済期間35年でも1%台(取扱い金融機関による)ですから、選択肢のひとつとして有力です。

 住宅ローンの見直しについては、返済中の金融機関で交渉する以外に、他の金融機関やネット銀行などへの借り換えという方法もあります。試算したうえで、コストなども含めトクになるかよく確認してから実行しましょう。

 また、返済期間を現在より延ばすのはNG。できるだけ60歳台前半で返し終えられるプランにすれば、老後の家計が赤字になるのを防げ安心です。

ファイナンシャル・プランナー(CFPⓇ・1級FP 技能士)

㈱生活設計塾クルー取締役、個人事務所リアサイト代表、東洋大学社会学部 非常勤講師。同志社大学文学部卒業後、大手証券会社、独立系FP会社を経て現職。一人ひとり・家庭ごとに合った資産設計、保障設計、リタイア前後の生活設計等のコンサルティングのほか、新聞・雑誌等への原稿執筆、セミナー講師などを行う。著書に『50代からの「確実な」お金の貯め方、増やし方教えて下さい』、『住宅・教育・老後のお金に強くなる!』、『お金はこうして殖やしなさい』(共著)など。生活を守り続けるにはマネーリテラシーを磨くことが大切。その手伝いとなる情報を発信していきたい。

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