正規社員と非正規社員の賃金格差を年齢階層別にさぐる(2023年公開版)
社会現象としてクローズアップされている非正規社員の増加問題。正規・非正規間のもっとも分かりやすい違いは賃金(あらかじめ定められている支給条件・算定方法によって支給された現金給与額から、超過労働給与額(要は残業代)やボーナスなどを除き、所得税などを控除する前の額)にある。その実情を年齢階層別の動向も含め、厚生労働省が2023年3月に発表した「賃金構造基本統計調査」の報告書から確認する。
今回見ていくのは雇用形態別の賃金の実情。区分を正規社員に該当する「正規社員・正職員」と、非正規社員に該当する「正規社員・正職員以外」で行う。男女で大きな差異が生じているので、男女それぞれの実情を確認する。また、対象はフルタイム勤務の人が該当する一般労働者であり、パートやアルバイトに代表される、短時間、あるいは限定日数での就労タイプ(短時間労働者)は該当しない。
まずは2022年における雇用形態別・男女別の平均賃金。
正規社員の方が賃金は高い。非正規社員の賃金は正規社員に比して7割前後。
続いてこれらを男女それぞれ、正規社員・非正規社員別に年齢階層での動向を見たのが次のグラフ。
男女とも非正規社員の賃金は年を取ってもおおよそ横ばいで、大きな差異は生じない。作業が比較的単純で、就業上経験の蓄積も考慮されない場合が多い、つまり正規社員における「社内でのさまざまな実績・経験による積み上げ」が非正規社員には(少なくとも賃金面では)生じ得難いことが原因。特に女性は非正規社員では20代後半以降、60代前半までほとんど変わらない値となっている。特殊な技術・資格を持ち、それこそ「渡りの職人」のような立場なら話は別だが、普通の非正規社員には正規社員と同じような「積み上げによる賃金のかさ上げ」を期待できず、結果として賃金もそれ相応のものに落ち着いてしまう現実が、グラフのカーブ具合に現れている。
また前年比で見ると、特段の傾向は見られないが40代後半まではほぼ押しなべて増加し、50代前半以降は女性で多くの属性が増加している。逆に60代後半では全属性で減少し、特に女性の正規社員の減少率は著しいものとなってしまっている。
「非正規社員に『社内でのさまざまな実績・経験による(賃金の)積み上げ』を求めない、求められない」動きは、業務・事業が細分化・広大化している大企業ほどその傾向が強い。企業の構成人数が多いほど、個人では「オールマイティな能力」よりも「企業全体を正しく動かす部品の一つ」「歯車」であることが求められる。結果として正規社員と非正規社員の賃金の格差も、大企業になるほど大きくなる。
若年層における非正規就労への不安は大きい。その原因の一端を、一連の賃金グラフが示す実態から知ることができる。そして賃金の面で不安が高まれば、当然将来への不安も増加し、消費を避けざるを得ない(さらに雇用の継続性の不安もある)。現状が厳しくとも将来に金銭的な余裕が期待できれば、ローンを組むなどの工夫も凝らせる。しかし上記グラフにある通り、非正規社員の立場では年を取っても賃金の上昇は期待できず、ローンなど論外、消費を抑えざるを得なくなる(そもそも雇用の継続性すら疑わしい非正規社員では、ローン自体が査定で落とされてしまいかねない)。
一般的に、若年層に節約傾向が強く現れているのも、お金の余力が無く、将来にも金銭面ではあまり期待できないのが主要因。いわば自己防衛本能の現れ。自然な反応として消費をセーブにしているにもかかわらず、鞭打つ形で若年層に消費を強要するのは無理な話には違いない。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
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