若者のパートナーは「クルマ」から「スマホ」へ
自由時間とこづかいを使い、若年層の欲求を満たす先は
「若者の車離れ」という言葉が社会現象の一つとして語られている。今世紀初頭には言葉そのものは登場しているようだが、本格的に使われ始まったのはITバブル崩壊前後からだろうか。その原因・理由として多種多様な分析が成されているが、今回は「車の役割をスマートフォンが担ってしまっているから」との説をまとめることにする。
今どきの若年層の消費性向・趣味趣向を推し量る一つの指標として、以前「大学生はこづかいを何に使っているのか」などで解説記事を展開した、東京工芸大学が2013年10月発表の「イマドキのキャンパスライフに関する調査」を挙げる。ここに掲載されている各種データを見返すと、興味深い動きが頭の中に浮かんだ。次のグラフは昔の大学生と今の大学生で、時間とこづかいの使い方の変化を示したものである。
自由時間とこづかい。若年層が自分の趣味趣向、娯楽など欲求の充足に費やすツールである。かつての若年層は飲み会やコンパ、買い物、音楽鑑賞のためのオーディオ機器、自動車、映画鑑賞、異性との交流にそれらを消費していた。
切り口を変えて表現してみよう。かつての若年層は知人とコミュニケーションをしたり、異性と楽しいやりとりの時間を過ごしたり、音楽鑑賞をしたり、買い物をしたり、日常とは異なる雰囲気・環境を楽しむため、時間やこづかいを消費していた。
これらの行動を果たすため、昔は多分に自動車へ時間とこづかいが投入された。自動車を駆って異性とドライブをしたり、旅行に出かけたり、買い物の足として用いたり、コミュニケーションのツールにすら成り得た。昔の青春映画を観れば、必ずそこには自動車が物語の中心に座っていた。
しかし今はどうだろうか。ほぼ同じ役割を携帯電話、特にスマートフォンに担わせることができる。ソーシャルメディアやチャット、オンラインゲームで知人とコミュニケーションをし、異性と楽しいやりとりの時間を過ごせる(本当に異性なのか否かは別として)。音楽鑑賞も可能、オンラインショッピングによる買い物もできる。疑似的ではあるが、世界のどこへでも瞬時に旅立つことすら出来てしまう。それどころか異世界、夢物語や二次元の世界にまで足を運べる!
そう、若年層の趣味趣向は昔も今も概要的には変わらない。たとえ一部が疑似的であったとしても、自動車と比べてより容易に、より安価に、より便利で、より安全なツール「スマートフォン」を手に入れたので、それを使っているに過ぎない。旧世代のツールはもう必要ない。「クルマからスマホへ」は、若年層の趣味趣向、欲求を充足するためのツールにおける、世代交代なのである。
スマホシフトを後押しする周辺環境の移り変わり
スマートフォンでは出来ない事柄もたくさんある。しかし多くの若年層は満足してしまっている。あえてこの理由、「クルマからスマホへ」の世代交代を後押しする要因を、その両者「以外」で挙げるとすれば、若年層が持つリソース(特に金銭周り)の減少と生活環境の整備が挙げられる。
生活環境はそこそこ充足し、不平不満で爆発寸前というものではない。ただし自由に動かせるリソースはそれほど多くは無く、経済的に将来への不安は山ほど。何しろ自分より上の世代は、しきりに「日本はダメだ」「未来は暗い」と自虐的な話を繰り返し、呪文のように叫んでくるのだから! 当然、責任やリスクは極力避けるようになる。このような若年層の行動性向は、すでに数年前から指摘されているもので(「若年層「自動車無くてもいいヤ」その理由は「責任やリスクは極力避けたい」!?」)、何ら不思議なものではない。
「ローンを組んで自動車を買い、アウトドアを楽しもう」!? 面倒だし危なっかしいし無駄使いになるよ。家の中でそこそこの満足感が得られるし、安全で安心で金銭的リスクも低いツール(携帯電話、スマートフォン)があるんだから、それでいいじゃん!? 別に遠出する必要も無いし(俗にいう「ワンマイル族」)……若年層の主張、行動性向には、しっかりとした理由がある。それは十分理にかなった、現状を分析した上での決断によるものである。
世代交代は続く、後戻りは難しい
若年層離れの現状を受け、自動車業界では努力を続け、関心を引き寄せようとしている。そして今現在でもなお、移動手段として自動車が重要な存在であることに変わりは無く、生活必需品としてのそれなりな需要は発生している。
しかしかつての若年層が抱いていた自動車への憧れ、さまざまな娯楽・欲求を満たすためのツールとしての自動車は、すでにその座を失っている。今後さらにデジタル技術が進歩し、スマートフォンやそれに続くであろう新しいIT機器から、自動車が若者の「欲求充足ツール」としての座を取り戻すのは、まず不可能。それほどまでに若者を取り巻く周辺環境は変化し、スマートフォンは便利で有益で魅力的なツール足りえる存在として、若年層の目に映っている。
自動車業界の施策、努力による、かつての「栄光」を奪還するという試みは、果たしてもくろみ通りとなるのだろうか。極めて高い難易度を有するハードルな気がしてならない。
■関連記事: