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【ガザからの報告】⑧ (24年1月27日)後編―高価な野菜と子どもの病気―

土井敏邦ジャーナリスト
(子どもたちは感染症に苦しんでいる/撮影・ガザ住民)

【近隣全域が戦車の標的に】

(Q・家に戻って、家族13人が住めるということは、戦車から攻撃で家は全壊したのでないんですね?家のどの部分が破壊されたのですか?)

 家の全部が破壊されたわけではありません。部分的な破壊です。家の一部、とりわけ屋上部分に穴が開きました。ガザ地区北部から避難してきた親戚などを受け入れられるように屋上にテントを建てていました。戦車に狙われたのは、「3階」として使っていた屋上部分です。私の家は2階建てで、幸い下の階には大きな被害は及びませんでした。戦車の砲身の角度からして砲撃できるのは高い部分ですから。

(Q・2階と1階は無事だったんですね?)

 そうです。私たちの家族は2階に住んでいました。だから幸運でした。屋上にいたら、私たちも殺されていたでしょう。

(Q・なぜあなたの家を標的にされたのですか?)

 なぜ自分の家が砲撃されたのか、わかりません。私たちは民間人だし、ハマスなど武装組織とまったく関係はない。むしろ私も父も弟も、家に避難していた人たちもハマスを嫌っていました。私と父はいつもハマスを非難していたんです。ハマスに関係ある人を家に近づけないようにし、ハマスと関係のない人とだけ付き合うようにしていました。だから、なぜ私の家が砲撃されたのか理由がわかりません。ただ、何千という家が理由もなくイスラエル軍に破壊されています。

(Q・どのように戦車は砲撃したんですか?)

 イスラエル軍が砲撃したのは私の家だけではありません。私の地区全域が砲撃されました。私の家の近隣で7から10軒の家が砲撃されています。近所では何人も死傷者が出ました。だから私の家だけが狙われたのではないんです。今朝、ラファから戻ったばかりだから、はっきりした情報はありませんが、私の周囲だけでも10人ほどの人が殺されています。私の隣人たちです。近所の6階の家の屋上は完全に破壊されました。そこに13~14発の砲弾が撃ち込まれたんです。

(日々続くイスラエル軍の空爆に怯える住民/撮影・ガザ住民)
(日々続くイスラエル軍の空爆に怯える住民/撮影・ガザ住民)

【テント生活の困難】

(Q・テント生活では食べ物はどうしていましたか?)

 食べ物はほとんど缶詰でした。野菜も買うことができなかった。野菜はトンネルによってエジプトから密輸されたもので、とても高価でしたから。例をあげてみます。1キロの玉ねぎが、30シェケル(9ドル)。1キロのトマトは20シェケル(約7ドル)。1キロのシニ(パレスチナの野菜)は、27シェケル(8.5ドル)。ピーマン25シェケル(6ドル)。ニンニク1キロ45シェケル(約14ドル)・・・・。我われは大きな家族などで、たくさんの野菜が必要になります。だからとても費用がかかるんです。

(Q・それらの缶詰は支給されたものなのですか、それとも買うのですか?)

 だれも至急してくれません。買わなければいけないんです。ハマスがガザに入ってくる支援物資を無料では配布はしません。それを没収し、関係のある商人に送り売っています。もし金がなければ、餓死してしまいます。食べるものがないのですから。

私たちの主な食べ物は主にサンマなどの缶詰とレンテル(豆)などを調理していました

 きれいな水もありません。ある国際機関が、化学物質のタブレットを配布ました。きれいでない水にこのタブレットを入れるようにと言われました。それによって水が浄化され、それで使えるようになるというのです。もし必要なら、私は4~5リットルの水にこのタブレット1錠を入れました。きれいな水ではなかったが、他に選択肢がなかったんです。私たちは雨水を集め、そこにこの錠剤を入れました。

 健康状態は深刻でした。子どもたち全員(私の子どもが3人、妹の子が2人)が、ラファでの避難中に病気になりました。インフルエンザ、腹部の感染症などです。こんな水を使っていて、食事もひどいものでしたから。とくに缶詰は賞味期限が過ぎているか、過ぎようとしているものばかで、ゴミとして捨てられる類のものでした。そんな食べ物を食べたら、子どもたちのおなかがどうなるかわかるでしょう。

(Q・家に戻った今、あなたたちの主食は何ですか?)

 今はたくさんの小麦粉があり、パンを食べています。12月の下旬から1月初旬にかけて、アメリカなどの干渉によって、エジプトが大量の小麦粉をガザに搬入しました。それを店から買うことができます。1キロの小麦粉が4~5シェケル(約1.5ドル)です。とてもいい値段です。

【強まるハマスへの怒り】

(Q・ラファなどで、人びとはハマスについてどういう話をしていたのですか?)

 私が会った全ての人がハマスやガザ地区の指導者シルワールを、「悪魔の息子」と呼んでいます。いつも侮辱しています。ハニーヤ(最高指導者)やメシャル(前・最高指導者)など、ハマスの指導者たちはすべて人びとを侮辱し攻撃していました。

(Q・日本の新聞はガザ住民の42%がハマスを支持していると報道しているが?)

 ノー、ノー、ノー!それはまったく違います!事実は全く反対です。ほとんどの住民はハマスに反対しています。それが事実です。もしあなたがここへ来て、調査をしたら、ほとんど人が、「この苦難の責任はハマスにある」と答えます。10月7日にイスラエルを攻撃し犯罪を犯し、1000人以上のイスラエル人を殺した。その責任はハマスにあるのです。もちろんイスラエル軍は残忍な軍隊です。あらゆる場所を破壊している。しかしハマスに責任がある。なぜならハマスがそれを始めたのだから。

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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