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危機的状況における、政治家の情報発信について考えよう。

鈴木崇弘政策研究者、PHP総研特任フェロー
コロナ禍において政治の対応が問われてきている(写真:ロイター/アフロ)

 現在進行中のウクライナ問題のなかで、同国のゼレンスキー大統領の情報発信や各国議会などでの演説などが高く評価されている(注1)。このこともあり、ウクライナは、ロシアとの圧倒的な軍事力の差がある逆境のなか、劣勢が予想されたにもかかわらず、国際社会を味方につけて、現在も厳しい状況のなか、先行き不透明ながら、善戦を続けている(注2)。

 いずれにしても、このような国際情勢や軍事状況においては、国際関係の機微や軍事・物理的な状況なども複雑に絡むために一概に判断できないのではあるが、政治リーダーの情報発信やメッセージは、国内的には国民や住民の士気や行動などに大きな影響を与えるとともに、国際的には海外からの協力や理解などを獲得するうえで非常に重要な役割を果たすとともに、重要な意味を有するのである。

 今回のウクライナ問題および同国大統領の動きは、改めてそのことを再認識させた。

 現在、国際社会における最大の問題は、そのウクライナ問題に焦点が移った感があるが、今も不透明感が残り現在も進行中のコロナ禍においても、各国およびその政治リーダーの情報の発信・共有やメッセージが重要な役割を果たしてきている。

コロナ対応できず安倍総理は辞任した
コロナ対応できず安倍総理は辞任した写真:つのだよしお/アフロ

 日本では、コロナ禍のなかで、2つの政権が倒れた。そのうち、菅政権は、政策的には多くの実績があるにもかかわらず、情報発信・共有に失敗し、国民からの支持を失った。このことは、危機的状況における政治リーダーの情報対応が重要であるということを、改めて再認識させたのである。特に民主主義社会においては、政治リーダーは、どんなに的確な政治や政策を行っても、適切な情報の発信や共有ができなければ、国民や住民からの支持は得られないし、維持できないのである。

 他方で、現下のロシアのように、政治や政治に問題があっても、情報の発信とコントロールで国民からそれなりの支持が得られることもある。

 また現在の日本のように、それ以前の政権の政策や情報発信等に不満を持ち、懲りた国民は、たとえ政策的内容やその推進力は希薄でも、一見すると国民の意見や声を聞く姿勢や誠実そうな態度だけで、ある程度満足を示すこともあるのだ。現在の岸田政権への国民の支持は、そのことを示しているということができる(注3)。

 いずれにしても、政治リーダーと国民の間のコミュニケーションおよび情報の発信・共有は非常に難しく、困難を極めるものである。

菅総理もコロナ対応に失敗し退陣した
菅総理もコロナ対応に失敗し退陣した写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 筆者は、他の研究者とともに、昨年の春から夏にかけて、コロナ禍における政府の対応について研究した。筆者は、そのなかでも、特に政府や政治のトップリーダーなどのコロナ禍対策およびその情報の発信およびそれに対する国民の支持等について、日本と欧米・アジアの国・地域の比較研究を行った。また同時に、それらの情報等の社会的共有としての役割を担うマスメディアについても国際比較研究を行った。時期的には、安倍政権および菅政権の時期が対象である。

 そしてその成果を、次の2つのディスカッションペーパー(DP)にまとめて、この度公表した。

「政府の情報発信は適切だったのか?-今般のコロナ禍に対する各国の政府の対応-」

 嘉悦大学ディスカッションペーパー 嘉悦大学附属経営経済研究所 2022年5月

・要旨:

 2019年末に中国の武漢で発症したといわれる新型コロナウイルス(Covid-19)は、一昨年(2020年)当初から短期間で全世界に拡大した。世界規模で流行する「パンデミック」状態になった。

 そのような危機的な状況において、世界中の各国・地域の政府は、さまざまな対策や政策をとり、国民・住民等に対して情報発信を行い、社会との関係性や社会運営で試行錯誤を続けてきている。現時点では、コロナ禍は、その方向性がみえ始めてきている面もあるが、現在も進行中であるために、それらのことについての評価はいまだ難しい面がある。他方、この世界における試行錯誤や経験は、今後の危機状況における世界や国際関係における非常に貴重な知見になると考えることができる。日本政府の対応やそれに関する情報発信について、海外の国々と比較しながら検証および考察していくことは、同パンデミックの早期収束・終息および今後の世界的な感染症問題への対応を考えていく上で非常に意味があると考える。

 そこで、本稿では、欧米やアジアの国々や地域などの経験等を、日本のそれと比較しながら、検討していく。またその政府対応における専門家の役割や意義についても、国際比較を行った。

 上述の比較研究に基づいて、日本政府の対応および専門家の活用・役割等について、提言もおこなっている。

 なお、コロナ禍は進行中ではあるが、本論稿の対象期間は、日本の安倍政権および菅政権時に主に限定していることを付言しておく。

・キーワード:

 Covid-19、危機的状況、情報発信、リーダーシップ、専門家

「コロナ禍におけるメディアの動き・対応」

 嘉悦大学ディスッカションペーパー 嘉悦大学附属経営経済研究所 2022年5月

・要旨:

 2019年末に中国の武漢で発症したといわれる新型コロナウイルス(Covid-19)は、一昨年(2020年)当初から短期間で全世界に拡大した。世界規模で流行する「パンデミック」状態になった。

 そのような危機的な状況において、世界中の各国・地域のメディアは、さまざまな動きや対応をとり、その状況に関する情報発信を行い、社会に影響を与えてきた。

 そこで、本稿では、欧米やアジアの国々や地域などのメディアの動きや役割等について、日本のそれと比較しながら、検討していく。

 上述の比較研究に基づいて、このような危機的な状況における日本のメディアの対応および活用の仕方・役割等について、提言もおこなっている。

 なお、コロナ禍は進行中ではあるが、本論稿の対象期間は、日本の安倍政権および菅政権時に主に限定していることを付言しておく。

・キーワード:

 危機的状況、メディア、SNS、社会的役割、情報共有

岸田総理は、これまでの政権の経験を踏まえて、どのように危機や困難を乗り越えていくのだろうか
岸田総理は、これまでの政権の経験を踏まえて、どのように危機や困難を乗り越えていくのだろうか写真:松尾/アフロスポーツ

 詳しい内容については、ぜひそのDPの本文を読んでいただきたいが、今回のコロナ禍における政治や政策の情報の発信・共有は、今回だけの問題・課題ではない。国際的そして社会的に危機的な状況において、民主主義的社会、特にSNSなどにより情報の発信・共有が錯綜し混乱しやすい状況において、平時から戦時・非常時に切り替わるなか、世界および国や社会をどのようにして円滑に運営し、特に非常事態や困難を克服し、マネージメントしていくかということに関する知見や知恵は、グローバル化し、デジタル化する時代において、これまで以上に必要とされてきているのである。その意味では、現下のコロナ禍の経験や知見から、私たち人類や世界・国・社会は、多くのことを学ぶことができる。その多くのエッセンスの一部は、そのDPから十分に学べると確信している。

(注1)たとえば、「ゼレンスキー大統領に学ぶスピーチ術、日本の国会演説に『7つの工夫』あり」(千葉佳織:株式会社カエカ代表・スピーチライター、DIAMOND ONLINE、2022年5月3日)など参照。

(注2)このような状況に対して、ロシアの現状はプロパガンダによると主張する方もいますし、様々な意見が錯綜しているという状況があることもりかいしておくべきでしょう。

(注3)実はこのようなことは、2009年の政権交代後の稚拙な政権運営に懲りた国民が、2012年の第二次安倍政権を誕生させ、その後の政権運営でも多くの問題があったが、国民は同政権およびその後の安倍政権も支持し、同政権は連続在職日数2822日という歴代最長を記録した。

政策研究者、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。経済安全保障経営センター研究主幹等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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