任天堂は米国でもパルワールドを訴えられるのか?
「任天堂から特許訴訟の"パルワールド"、日本以外でPS5版発売 "心象最悪すぎ" "あまりにも品がない"批判も」というニュースがありました。ポケットペア社が、2024年9月25日に「パルワールド」のPS5版を世界68の国と地域(ただし日本を除く)で販売開始したというお話です。言うまでもなく、同社は日本で任天堂とポケモン社に特許権侵害訴訟を提起されていますので、日本での展開は少なくとも現時点では様子見とするということでしょう。
特許権は特許が成立した国(地域)の中でしか有効ではありません(属地主義)。したがって、任天堂は日本の特許権に基づいてポケットペア社を訴えることはできますが、米国での行為についてはどうしようもありません。米国での販売や提供を差し止めたい(あるいは損害賠償を請求したい)のであれば米国で特許権を取得する必要があります。
では、パルワールドに関連する(と推測される)特許出願の米国での現状はどうなっているのでしょうか?以前の記事では、任天堂とポケモン社の共同出願であって、かつ、最近になって出願と特許登録が行われた特許4件が、訴訟で使用されている可能性が高いとの推測を行いました。
それらの特許出願の分割の大元は2021年12月22日に出願された特願2021-208276と特願2021-208275まで遡ります。この2件を優先権の基礎とする米国出願が何件かあります(米国以外の海外出願は確認できていません)。その中で、今年になってから出願されたものはUS20240286040A1とUS20240278129A1の2件あります。いずれも、Track One(日本でいう早期審査)が請求されています。
クレームの大雑把な構成は、前者はキャラクターにプレイヤーが乗って空を移動すること、後者は戦闘キャラクターをモンスターに投げて戦闘させることです(なお、このアイデアだけで特許化しようとしているわけではないので念のため)。前者は日本の特許7545191等、後者は特許7528390等に類似しています。
しかし、しかしこれらの出願は、日本のように即登録とはいかず、まだ審査係属中です。細かい話になりますが、前者には米国特許法112条(記載要件)と103条(進歩性)によるNon-Final Rejection(非最終拒絶)が、後者には米国特許法101条(特許適格性)によるNon-Final Rejectionが通知されています(※この部分本記事の初稿では間違いがありました、すみません)。
やっかいなのは101条の方です。101条は特許適格性を扱う条文です。抽象的アイデアは特許化できません(これは、日本でも米国でも他国でも同じです)が、ソフトウェア関連発明は抽象的アイデアとみなされ、101条により拒絶される可能性があります。現在の日本の審査運用では、システムの動作を明確に記載しておけば、ソフトウェア関連発明が抽象的アイデア(特許法上の発明に該当しない)として拒絶されることはあまりない(もちろん、新規性・進歩性で拒絶されることはあり得ます)のですが、同等の発明を米国で出願すると101条で拒絶されることはたまにあります。ソフトウェア関連発明の審査の厳しさは時期により変化していますが、現時点では、概ね米国の方が日本より厳しいと言えます。
101条の拒絶に対しては、おそらくは補正により何らかの実装寄りの限定をするしかないと思われますが、被疑侵害物件(「パルワールド」)が充足するような形で補正しなければならないのでちょっと頭を使うところです。また、101条の審査はグレーゾーンがあり、正直、審査官ガチャ的な要素があるのも悩ましいところです。なお、US20240278129A1の分割親出願にも(同じ審査官による)101条のNon-Final Rejectionが通知されています。
本記事執筆時点では、US20240286040A1については審査官インタビューが行われ、US20240278129A1については審査官インタビューがリクエストされた状態です。ということで、任天堂は米国での訴訟も念頭において着々と準備は進めているものの、直ちに訴訟できる状態ではないと思われます。もちろん、これら以外に隠し球のキラー特許があって、それで権利行使する可能性はあります。