「10分後に雨が降る」予想はなぜできる? 17日スタート「おかえりモネ」の中の天気
5月17日(月)から、NHK朝の連続テレビ小説で新しいドラマ「おかえりモネ」が始まります。まだドラマが始まる前にドラマの内容を予想するというのもなんですが、この朝ドラは、「気象予報士」や「防災」もテーマになっています。そこでスタッフ一覧を見ると、気象考証はNHK気象キャスターの斉田季実治さん、さらに気象予報士で気象講師の中島俊夫さんや尾又泰二さんも加わっており、気象の検証は相当念入りに行われている事が期待できます。
実写が難しい気象のドラマ
これまでも気象や気象キャスターを扱ったドラマや映画はいくつかありましたが、どういうわけか「気象」のリアルな部分になると、過剰な演出があったり、ありえないような天気だったり、実際に気象に携わっているものとしては苦笑してしまうようなものも過去にはありました。
もちろん「天気の子」のように細部にまでこだわったアニメもありましたが、実写による天気表現は再現性が難しいので、今回の「おかえりモネ」は、気象現象がどのように描写されているのか、気象会社や気象予測の現場がどう表現されているのか、たいへん楽しみです。また「神は細部に宿る」と言いますが、制作者の方からすると自然現象は映像などの制約があるので、他のドラマより神経を使うのではないかと個人的には思っています。
天気予報は未来を予測できる世界
そこで第一週の予告編を見ると、西島秀俊さん扮する朝岡気象キャスターが、「おおよそ10分後、雨が降り出すと思います」と断言します。そして事態はそのように変化して、主人公のモネが「すごい!天気予報って未来が分かる!!」と感動し、これが彼女が気象の道に進むきっかけになるようです。
では朝岡気象キャスターは、なぜ10分後に雨が降ると予想できたのでしょう。ドラマの資料によると、「風向きや雨雲のようすから天気の変化を正確に言い当てた」となっています。空のようすや雲の形などから天気を予想する事を、「観天望気(かんてんぼうき)」と言って、古来「夕焼けは晴れ」などのことわざとして伝承されています。朝岡気象キャスターは、おそらく、そうした知識も豊富でしょう。
しかし、それだけで10分後の予想ができるのでしょうか。
本当に分単位での予測が可能なのか?
答えはもちろん可能です。というより、実は朝岡気象キャスターが「おおよそ10分後・・・」と言った時には、すでに上空では雨が降っているので、ほぼ外しようが無いのです。
ちょっと簡単な計算をしてみましょう。雨粒の落ちてくるスピードは雨粒の大きさによって違いますが、平均的には秒速5メートルほどです。秒速5メートルに60を掛けると1分に300メートル、10分では3000メートルになります。
つまり、朝岡気象キャスターが「10分後」と言った時には、3000メートル上空には、すでに雨粒(雪)注)が存在している事になります。
この存在している雨粒は地上の人間にはまだ確認する事はできませんが、レーダーならリアルタイムで雨滴を感知するのはたやすい事です。
私が推測するに、朝岡気象キャスターは常日ごろから五感による天気変化に敏感な方だと思います。まず自分の五感で雨の接近を感じ、その上で、スマホなどで得たレーダー画像等から上空の雨粒を確認していたと思います。
ただ、レーダーの画像が100%正しいわけではありません。地上付近の空気が乾燥していたり雨粒が小さい場合は、雨粒が落下途中に蒸発して地上に届かない事があります。この場合は”ハズレ”となりますが、ドラマの予告編では雨の”ザァーッ”という音で、かなり強く降っていた様子が表現されています。
実はこれも理にかなっています。逆に言えば、レーダーで強く感知していないような弱い雨雲だと、予報を外すリスクがあるのでキャスターとしては「10分後に降り出す」という強い表現はできません。強い表現ができたのは、その現象がそれなりのインパクトのある現象だったからと言えるわけです。変な言い方かも知れませんが、天気予報は大きな変化ほど当てやすいのです。
ドラマの始まりの年は線状降水帯が
今回のドラマはNHKの公式サイトによると、宮城県気仙沼の離島・亀島で育った主人公・永浦百音(清原果耶)が、気象を通じて成長していく物語です。
今後、物語がどう展開していくのか興味深いのですが、実は、物語の始まりの2014年(平成26年)というのは、気象関係者にとっては記憶に残る気象災害があった年です。この年は、梅雨はほぼ平年並みに明けたのですが、8月になって台風(11号・12号)が接近すると、それにともない東日本から西日本で豪雨が多発するようになりました。のちに「平成26年8月豪雨」と命名されましたが、とくに8月19日~20日にかけては広島市内で大規模な土砂災害が発生しました。
一般には「広島豪雨」とも呼ばれていますが、この時の豪雨の特徴は瀬戸内海方面から積乱雲の群れが次々と線状に同じ地域に流入してきた事です。いわゆる「線状降水帯」です。(動画参照)
この豪雨をきっかけに「線状降水帯」という呼び方が有名になり、気象庁は今年の夏から「線状降水帯予報」を発表する事になりました。物語の始まりである2014年は、いわば、そのきっかけになった年でもあります。
ドラマ予告編の中で、モネは「天気を勉強する事によって誰かの役に立ちたい・・」との意思を表明しますが、ドラマを通じて多くの方が気象についての関心を深められればいいと思います。
参考
NHK「おかえりモネ」公式サイト https://www.nhk.or.jp/okaerimone/index.html
注)上空3000メートルでは雪の場合が多いが、落ちてくる間に雨滴となる。