8回目の日食体験 皆既日食とエルニーニョ
現地時間4月8日12時21分、メキシコ北部のクアトロシネガスで皆既日食が見られました。私は今回で8回目の皆既日食体験でしたが、これまでの中でもっとも思い出深いものになりました。
なぜなら現地は薄雲と時折り厚い雲がかかり、日食が始まってからも全天ほぼ曇り。そして皆既(太陽がすべて隠れる状態)5分前でもまだ曇りの状態で、あたり全体、重苦しい空気に包まれていました。ところが皆既が始まる寸前に、太陽が雲の薄い切れ間に入り、そこからダイヤモンドリングが見えました。そしてそのあと約4分にわたりコロナやプロミネンスが見られたのです。
プロミネンスは太陽から噴き出す炎のようなもので、太陽活動が強い時に見られます。今回は肉眼でもはっきりと見えて多くの観測者が感動されていました。
想定外の曇天
ところで今回の皆既日食、結果オーライではありましたが、本来はもっとよく晴れる想定でこの場所が選ばれていました。
ツアー主催者によるとクアトロシネガスは4月の晴天率が高く、昨年のロケハンでもよく晴れていたといいます。
本来なら、天気にそんなにナーバスにならなくてもよい砂漠の町なのに、なぜ今年はこんなに気をもむ天気になったのでしょう。
衛星画像ではアメリカ中央部にある低気圧(Lの文字)から寒冷前線がメキシコ~太平洋にかけて伸びていて、それに関連して雲の帯が存在しています。そしてこの低気圧の進みが遅いため、雲の帯がなかなかとれずアメリカ中部などでは、雨の皆既日食となったところも多くありました。
ではなぜ低気圧の動きが遅かったのかというと、おそらくカナダ東部~アメリカ東海岸でブロッキング高気圧が強まったからだと思われます。
エルニーニョの影響か
気象の世界では、「風が吹けば桶屋が儲かる」というようなことがよくあります。まったく関係が無いと思われる現象が遠く離れた地域に影響を与えたりするのです。これをテレコネクションと言いますが、その代表的なものが「エルニーニョ」(東部太平洋で海水温が高くなる現象)です。
実は昨年の春から、そのエルニーニョが続いています。この春で終わりを迎えると予想されていますが、その影響は今年も続くと見られ、世界各地で異常気象の発生が懸念されています。
メキシコ北部の長引く曇天を単純にエルニーニョに結びつけるわけにはいきませんが、皆既日食が見られるかどうかドキドキさせた一因にエルニーニョの影響があったかも知れない、と考えるのは一理あるような気がします。
参考
2020年6月18日掲載記事「372年ぶり夏至の日食、予報は曇り時々晴れ」
2016年3月7日掲載記事「インドネシア皆既日食が見られる確率は30%か?」