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「カズさんを前にしたらただの若造」40歳を迎える中村憲剛が語る53歳三浦知良のすごさとは

金明昱スポーツライター
カズのすごさについて熱く語ってくれた中村憲剛(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

「みんな簡単に『カズさんを超えろ』と俺に言うんですが、無理ですよね」

 10月31日に40歳の誕生日を迎える中村憲剛にとって、53歳でピッチに立つ“キングカズ”こと三浦知良(横浜FC)は雲の上の存在だ。

 しかし、復帰できるかも未知数だった大ケガを乗り越えたのだから、その強靭なメンタルがあれば現役を長く続けられるのではと思ってしまう。

 1年前のことだった。2019年11月2日、川崎フロンターレのホームで迎えたJ1第30節のサンフレッチェ広島戦で、中村は左膝前十字靭帯を損傷した。全治7カ月と診断され、長らくリハビリ生活が続いていた。

 39歳で負った大ケガ。痛みが引かなければ、この先、試合に出られないかもしれないという不安もあっただろう。

 それでも、フロンターレの大黒柱はピッチに戻ってきた。

 8月29日、J1第13節の清水エスパルス戦に77分から出場。301日ぶりに公式戦のピッチに立つと、85分には左足で鮮やかなループシュートを決め、千両役者ぶりを発揮した。

「その日を目標にというか、試合に出てチームの勝利に貢献することを目標に頑張ってきました。リハビリをすることではなくて、出場して、チームに貢献することが目標。やっぱりあの日、出られただけでも僕自身はうれしかったんですけれど、そこで点が取れたことは、等々力(競技場)にサッカーの神様の存在を感じましたね」

 最高の形での復帰戦――と言っても過言でないだろう。

 立て続けに、うれしい出来事があった。第18節(9月23日)の横浜FC戦でスタメン出場を果たすと、試合後には憧れのカズとユニフォームを交換。

 カズの偉大さをより深く感じたのは、53歳6カ月28日のJ1最年長出場記録を打ち立てたことに加え、自分が大ケガから復帰したことも大きい。

「自分がまだできるというよりも、自分の中ではカズさんがすごいな、ということしかありませんでした。もうずっと自分の中でヒーローですから。僕も40歳になりますが、結局、カズさんを前にしたらただの若造。40歳になるからこそ分かるカズさんのすごさがあります。ここから自分が13年後にJ1の試合で、スタメンで長くプレーできるかといったら、俺は絶対できないと思う。ケガしたからこそ思うのですが、ベタなんですけれども、やっぱり練習はすごく大事だなということを改めて感じました」

 純真無垢なサッカー少年のようにカズの偉大さを熱く語る中村に「本当にカズさんのように長くできそうな感覚はありませんか?」と聞いてみた。

 すると少し苦笑いを浮かべながらこう言った。

「絶対にないですね。ないというか、もう想像がつかないです。僕自身が今18年目ですから。だから13年後ということは、今のキャリアの半分以上を40を過ぎてからこなさなきゃいけないわけです。もう考えられないです。自分のすべてを捧げる覚悟でないと絶対にできないと思います。とにかくカズさんのストイックさはすごいとしか言いようがないです」

 J1首位を走る川崎フロンターレで、40歳を目前にしながらも主力でプレーする中村でさえも、カズには追いつけないと言い切る。

 もちろんこの先、いつまで現役を続けるかは分からない。

 それでも少年の頃からヒーローだったカズの背中を見てきた中村には、その“境地”が少しずつ見えきているのかもしれない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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