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ニューヨーク・ニックスは上位進出の準備を整えたのか 敏腕地元ライターが戦力分析

杉浦大介スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 ニューヨーク・ニックスが上昇機運を感じさせている。

 ジェイレン・ブランソン、ジュリアス・ランドルを軸にまずまずのプレーを見せていた東の名門チームは、昨年末にトロント・ラプターズからOG・アヌノビーを獲得。RJ・バレット、イマニュエル・クイックリーを放出するという出血も小さくないトレードだったが、この大胆な動きは吉と出た。

 アヌノビー加入以降、ニックスは5連勝、年明けの10戦中8勝と勢いをつけてきた。現在、25勝17敗でイースタン・カンファレンス5位と好位置につけている。

 昨季はイースタンのプレーオフでセミファイナルに進んだニックスは、上位進出に向けて準備を整えたのか。さらに向上するために、あとは何をするべきなのか。アメリカ東海岸を拠点にし、HoopshypeのシニアNBAインサイダーとして活躍するベテラン記者、マイク・スコット氏(X(元Twitter) : @MikeAScotto)に意見を求め、ニックスの今後を占ってもらった。

インサイダー情報に定評があるスコット記者(本人提供) 
インサイダー情報に定評があるスコット記者(本人提供) 

 以下、スコット記者の1人語り。

 シボドーHCの目指すスタイルのチームに

 ニックスはアヌノビーを獲得したことで、より好バランスのチームになったと思います。アヌノビーはPGからPFまで4つのポジションを守れる好ディフェンダーであり、コーナーからの3Pを高確率で決めるシュート力も持った2ウェイプレイヤー(=攻守両面で貢献できる選手)。そんなウィングが加入し、フロアのスペーシングがよくなりましたね。

 ニックス側も2人の主力を放出するという高価な犠牲を払いました。クイックリーは昨季6マン賞の候補になり、先発時には平均25得点、5アシストをクリアした選手ですから、放出が痛手だったことは間違いありません。

 ただ、もともとガードは人員が余り気味だったのも事実です。ニックスはクイックリーが望むだけの額の新契約を与えられないと判断し、その上で早めにトレードし、対価を得ようとした動きは理解できます。クイックリーとバレットを差し出し、バレットよりもチームにフィットするアヌノビーを手に入れたのは賢明なトレードでした。

 控えメンバーの中では、クイックリーが去ったおかげでマイルス・マクブライドが重用されるようになり、そのマクブライドが活躍するという副作用も生まれました。アヌノビー、マクブライドという好守の選手が起用されることで、ニックスの守備が向上したんです。トム・シボドーの目指すスタイルに近いバスケットボールができるようになったのでしょう。

攻守両面で安定したプレーが売りのアヌノビー。写真はラプターズ時代のもの。
攻守両面で安定したプレーが売りのアヌノビー。写真はラプターズ時代のもの。写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 付け加えると、これはトレードとは無関係ですが、ミッチェル・ロビンソンが故障離脱して以降、アイザイア・ハーテンスタインの良さが目立っています。ハーテンスタインは今季終了後にFAになるビッグマン。このタイミングで優れたプレーをしているおかげで、よりいい契約を手にできるんじゃないでしょうか。こうしてアヌノビー、ハーテンスタインという開幕時とは違う選手がシーズン中にスタメンに入り、総合的にグレードアップしたと思います。

さらなる戦力アップのために

 アヌノビーを獲得したトレードの後でも、ニックスは依然として多くのドラフト指名権、契約最終年のエバン・フォーニエというトレード要員を抱えています。それゆえ、今季中にも、来オフも、チームを強化できるフレキシビリティーを備えていることは好材料です。そんな要素を踏まえた上で、今後さらに向上するために、ニックスには2つの方法があると考えます。

 まずは今のメンバーに加えて優れたSGを獲得し、現状の流れのまま、より上質なチームにすること。ブランソン、ランドルはオールスターレベルですが、いわゆるスーパースターの一段下と目されているスターたち。それでもアヌノビーを加えたニックスは好チームであり、ここでもう1人、上質なスタメンレベルの選手を補強すれば、さらに研ぎ澄まされたチームになるでしょう。

 もう一つのやり方は、複数のドラフト指名権を費やしてでも、今のチームに所属している選手たちよりも一段上のスーパースターを獲得することです。これまでに獲得候補として名前が出た中では、ドノバン・ミッチェル、カール・アンソニー・タウンズといった選手がそれに当たるのでしょう。

イースタンの2強に迫ることは可能なのか

 今季のイースタン・カンファレンスを見渡すと、ボストン・セルティックス、ミルウォーキー・バックスがやはりトップ2です。さらにフィラデルフィア・76ersは力を保ち、マイアミ・ヒートも決して見過ごせません。また、タイリース・ハリバートンがスーパースターに躍進したインディアナ・ペイサーズ、実績のあるクリーブランド・キャバリアーズも忘れてはいけません。

 現状、ニックスはシクサーズなどと同等の第2グループに含まれるか、それに続く位置いると思います。あくまで現在の戦力で一足早い予想を巡らせるのなら、ファイナルに進むほどの力はなく、プレーオフ第2ラウンドまで進出するチームだと見ています。カンファレンス・ファイナルまで上がってくる可能性もありますが、やはり昨季同様、第2ラウンドが精一杯ではないでしょうか。

 ニックスも1年前の今頃と比べて充実しましたが、同時にセルティックス、バックスも向上しました。他の強豪チームも力を保っています。イースタン全体のレベルが上がっており、その中でどれだけ食い下がっていけるかがニックスにとっての試練になります。

ブランソンの突破力は終盤の時間帯に鍵を握る
ブランソンの突破力は終盤の時間帯に鍵を握る写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ニックスにとって大きいのは、繰り返しになりますが、アヌノビーを獲得した後でもまだまだ動けるだけのフレキシビリティーを持っていること。スターレベルの選手を加え、勝負をかけられる位置にいるんです。

 さらなる補強を施した際、どこまでいけるかを推し量るのは容易ではありません。誰かを獲得したら、見返りに何かを放出せねばならないからです。ただ、複数のドラフト指名権に加え、フォーニエ、クエンティン・グライムスといった選手たちと交換にスター選手を獲得できたとしたら、面白くなるのかもしれません。

 オクラホマシティ・サンダーのように、ニックス以上に豊富な交換要員を抱えているチームもあるので、トレード期限までの上質な補強を楽観しすぎるべきではないのは事実。それでもニックスが今後、どう動いてくるかは非常に興味深く、私も楽しみに見守っていますよ。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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