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小中学校でのオンライン授業、どこへいったのだろうか?

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:Anmitsu_hime01/イメージマート)

 大学ではオンライン授業が日常になってしまい、それに対する不満が学生からは湧いているようだ。小中学校でもデジタル化やICT利活用の議論は活発化しているが、オンライン授業はどこにいったのだろうか。

■きっかけは安倍号令からの一斉休校

 2024年3月末までに文科省が実現したいとしていた小中学校での「1人1台端末」が、今年3月末までには達成される。大幅な前倒しとなったわけだ。

 そうなった大きな要因は、新型コロナ(新型コロナウイルス感染症)だった。日本でも感染拡大の懸念が強まった2月27日、安倍晋三首相(当時)が全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請する考えを突然に表明し、3月2日から一斉休校に突入した。

 最初の非常事態宣言が東京都をはじめ7都府県に発出されたのは4月7日だったので、それよりも前に学校は非常事態を強いられたことになる。もちろん、学校現場はパニックとなった。

 そうしたなかで急速に注目されたのが、パソコンなどのICT端末を利用したオンライン授業だった。突然の休校といった事態に陥ったとしても、オンラインであれば授業が継続できるという考えだった。萩生田光一文科相や文科省が多用した「学びの保障」が確保されるというわけだ。

 それには、「1人1台端末」が大前提だった。そして、財務省の強い反対を押し切って、大幅な前倒しが決まったのだ。

 しかし、小中学校でのオンライン授業の議論があまり聞こえてこない。どうしてなのだろうか。

■オンライン授業の議論はいらないのか?

 1月27日に文科省は、「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」の第8回会合を開いている。そこで、「中間まとめ」の骨子案が示されている。

 デジタル教科書を使うメリットとして、「授業支援システムとの連携により、教師側の画面で児童生徒がデジタル教科書に書き込んだ内容を見ながらの授業の進行がしやすくなり、クラス全体に対して特定の生徒の書き込んだ内容を共有して指導を行うことなどができる」とされている。これもオンライン授業ではなく、ICTを使った教室での授業を想定しているものでしかない。

 同じ日には、ビッグデータやICTの専門家と学校教育関係者などで構成される文科省の「教育データの利活用に関する有識者会議」の第4回会合も開かれ、論点整理に向けた検討資料が提出されている。デジタル化により多岐にわたる教育データが得られる可能性が高まるが、どのような教育データを集め、どのように利用していくかを論点にすることが方向づけられている。

 教室でのICT端末の利用や教育データの利用については、議論が着実にすすめられているわけだ。しかし、オンライ授業についての議論は活発に行われているようにはおもえない。

 1人1台端末の導入を前倒しした、そもそもの理由が疎かにされすぎているようだ。目先ばかりにとらわれて、先を見据える姿勢が欠如しているようにみえる。教育のデジタル化やICT端末利用について、もっと根本的なところを見据えた議論が必要なのではないだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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