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マッハ25に到達できる伝説の「エアロスパイクエンジン」考案から50年経っても実用化できない訳とは

エアロスパイクエンジン「ロケットダインXRS-2200」 出典:NASA

本記事では、マッハ25にも到達できると言われた伝説のエアロスパイクエンジンをご紹介します。原理が提案されてから50年経った今でも実用化には至っていない、その理由に迫っていきましょう。

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■幅広く使用されているロケットエンジンとは

1998年11月4日にマーシャル宇宙飛行センターの試験設備で試験中のRD-180 出典:NASA
1998年11月4日にマーシャル宇宙飛行センターの試験設備で試験中のRD-180 出典:NASA

皆さんも良く知る現代のロケットエンジンは、コニカル型やベル型のノズルを採用しています。特にベル型は、釣鐘の形をしたカーブ曲線を持つ大型噴射ノズルで、燃焼室から高圧ガスを噴出し、ノズルの内壁に沿ってガスを膨張させることで推力を得ています。燃料の噴射効率が高いことが特徴ですが、デメリットもあり、飛行中の大気圧、つまり高度によって開口比などの最適なノズル形状が異なるのです。

スペースシャトル 出典:NASA
スペースシャトル 出典:NASA

例えばスペースシャトルのエンジンを例にとると、真空中の噴射速度は秒速4,400メートルに到達しますが、海面高度では秒速3,500メートル程度しか発揮することができないのです。そのためロケットは、エンジンを多段式にして複数のノズル形状を用意することで、地上や真空などその高度に最適なノズルを使用しています。また、高度上昇に応じてノズル形状を変化させる伸展ノズルや、膨張率の異なるベルノズルを多段式としたデュアル・ベルノズルなどが研究されています。

■常に100%の能力を発揮できる「エアロスパイクエンジン」

円形のエアロスパイクノズル 出典:NASA
円形のエアロスパイクノズル 出典:NASA

一方、今回ご紹介する「エアロスパイクエンジン」は、高度に関係なく能力を発揮することのできる画期的なエンジンなのです。このエンジンは、噴き出るガスの中央に、スパイクと呼ばれる突起が突き出された形状となっています。

ベル型ノズルでは外壁に沿ってガスが噴出されていましたが、エアロスパイクエンジンはガスをスパイクに沿わせて噴出することができるのです。結果的に海抜0メートルから真空中まで、周囲の大気圧に関係なくほぼ100%の能力を安定して発揮できるのです。

ベル型ノズルのエンジンとリニアエアロスパイクエンジンの比較 出典:NASA
ベル型ノズルのエンジンとリニアエアロスパイクエンジンの比較 出典:NASA

このエンジンが実用化できれば、多段式ロケットではなく、単機で宇宙を往還することのできるスペースプレーンが実現できるかもしれません。

しかし、エアロスパイクエンジンの開発には技術的に困難な点があります。それは、中央に位置しているスパイクが、高温ガスの温度で溶けてしまうという問題です。突き出ている構造がゆえ、スパイクの冷却が困難であり、いまだ実現はされていないのです。

■エアロスパイクエンジンの開発に成功した「ベンチャースター」

ベンチャースター 出典:NASA
ベンチャースター 出典:NASA

それでは、過去にエアロスパイクエンジンの開発に成功した例をご紹介します。それは、2011年に退役となったスペースシャトルの後継機として開発が進められていた「ベンチャースター」です。

液体酸素・液体水素を推進剤とするリニアエアロスパイクエンジンを利用して、どの高度でも高い推進能力を有するよう設計されています。しかし、リニアエアロスパイクエンジンの製作に関して、従来のベル型エンジンのノズル部の役割を果たす、V字型湾曲部分に、予想以上の温度差及び物理的圧力がかかり、歪みが大きくなるという問題が発生していました。

そして、様々な技術的課題を克服することができず、ベンチャースター計画を凍結を迎えてしまったのです。夢のエンジンですが、その開発には相当の困難を伴うということですね。

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