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中国のトップインフルエンサー「口紅王子」が傲慢発言でSNS炎上 涙の謝罪に視聴者の反応は?

中島恵ジャーナリスト
李佳琦氏の微博(ウェイボー)のトップページ(筆者撮影)

中国で流行しているライブコマース(直播)でトップの売り上げを誇る有名インフルエンサー、KOL(キー・オピニオン・リーダー)の李佳琦(リー・ジアチー、Austin)氏がSNSで炎上し、騒ぎとなっている。

視聴者の反感を買う発言が要因

発端となったのは9月10日の配信だ。このとき、李氏は中国の有名国産化粧品ブランド「花西子」のアイブロー(1本79元=約1600円)を宣伝していたが、ある視聴者の女性から「(値段が)高い」というコメントが入った。

通常、インフルエンサーはライブ配信中、視聴者の感想やコメントなどにすぐに反応しない場合もあるが、このときは「え、一体、これのどこが高いっていうの? 適当なこと言わないで」と反論したのだ。

さらに、このコメントをきっかけにして、「長い間、あなたの給料が上がっていないのはどうして? あなた、まじめに働いているの? 給料が上がらないのはあなたのせいでしょう?」などと、コメントした視聴者を責め立てるような発言をしたのだ。

李氏のこの態度に、多くの視聴者は反感を持ち、批判が殺到した。あまりに多くの批判が殺到したことを受け、李氏は11日夜、ライブ配信で涙を流しながら謝罪。その様子は各メディアでも報道され、ニュースとなった。

謝罪する李佳琦氏(微博より筆者によるスクリーンショット)
謝罪する李佳琦氏(微博より筆者によるスクリーンショット)

李氏はまた、約3000万人のフォロワーを抱える微博(ウェイボー)にもコメントを投稿。

「多くの方々を失望させてしまい、申し訳ありませんでした。私自身も、もともと化粧品の販売員をしていて、皆さんのお仕事の大変さはよくわかっています。しかし、皆さんの期待を裏切ってしまいました。本当にごめんなさい」と謝罪した。

これに対し、12日夜の時点で約680万の「いいね」、約28万件のコメントがついていたが、上位に掲載されていたコメントを見る限り、李氏に対して手厳しいものが多く、「李佳琦は傲慢になり(人が)変わったようだ」「(李氏は)この視聴者の女性に対してだけでなく、地道に働いている、あらゆる労働者を愚弄した」などと書かれていた。

李氏のライブコマースを視聴している人の多くは若者だが、中国では若者の失業率が高いことが社会問題となっており、経済状況も悪化している。そんな中、数十億円とも言われる資産を持つ李氏の発言は、視聴者にとって「バカにされた」「何様のつもりだ」と感じさせるものだったようだ。

ライブコマースで一躍人気者に

李氏といえば、中国では知らない人がいないほど有名なインフルエンサーであり、芸能人並みに人気がある。

1992年に湖南省で生まれ、ロレアルの美容部員として働いた経験を持つ。その際に培った販売手腕を活かし、インフルエンサーの道に入ったが、ライブコマース(ライブ配信で商品を紹介、販売する手法)で、その才能を開花させた。

自ら(販売したい商品の)口紅をぬり、機関銃のようなトークと、そのルックスで「口紅王子」という愛称で呼ばれるようになり、一躍、トップのインフルエンサーの座に上りつめた。

2020年には上海市内に約1000平方メートル、日本円に換算して約20億円の豪邸を購入したことが話題となり、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。だが、2022年6月3日、天安門事件の前日に行われたライブコマース中に、戦車の形を彷彿とさせるケーキを頬張っている途中、突然、配信が遮断されたことがあり、しばらく姿をくらましていたことが話題となった。

今年も11月11日の「独身の日」(ダブルイレブン、双十一)のセールには、日本企業の化粧品や日用品などを含む、国内外の数多くの商品をライブコマースで販売することが予想されているが、「共同富裕」政策を実施する中国では、芸能人や富裕層は槍玉にあがりやすい。

2021年、同じくトップインフルエンサーであり、「ライブコマースの女王」ともてはやされていたVIYA(薇婭)氏が脱税を行ったとして、約240億円の罰金を科せられたこともあった。今回の一件は、彼にどういう影響をもたらすことになるのだろうか。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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