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遅れてきた「日本最期の人口ボーナス」東京23区で子どもの数が増えている場所

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

東京だけ子ども数が増加の件

「前回の記事(参照→「30年間で子どもの数50%以上減少」都道府県別にみる子どもが産まれず、若者が消えていく現象)で、47都道府県中、唯一東京だけが2005年から2020年にかけて子ども(0-14歳)人口が増えているという話に触れた。

合計特殊出生率だけで判断してしまうと、東京は全国最下位であるため、「東京は子どもが産めないエリア」と勘違いしてしまうが、子どもの数も出生数も「増えているのは東京だけ」が正しい。それも当然で、子どもの数も出生数も人口依存するものだからである。

事実、出生数だけでみても、東京だけが実数を増やしていて、残りはすべてマイナスである。

しかし、当然だが、東京が増えているからといって、すべての区市町村で増えているわけではない。増えているところと減っているところが二極化している。

今回は、2005-2020年期間において唯一子どもの数が増えている東京の市区町村レベルまで細分化して見ていきたい。

東京の市区町村別子ども数増減

まず、1990年から2005年の15年間は、東京も全体的に子どもの数は減少していた。マップにするとわかりやすいが、江戸川区と稲城市以外はすべて減少である。

特に、北区、豊島区、新宿区、中野区、渋谷区、品川区と北から南へ続くラインの区が3割以上もの減少であった。

それが、2005年以降大きく様変わりする。

23区の中で減少しているのは、練馬区、足立区、葛飾区、江戸川区の4区のみで、他はすべて増加に転じている。

中でも、千代田区、中央区、港区といった東京の中でも高所得層の住む3エリアだけが80%以上の増加である。詳細にいえば、千代田区は84%増、港区は108%増、中央区は123%増にもなる。元々、子どもの人口の少なかった千代田区はともかく、中央区も港区も2倍以上に子供の数を増やしている。中央区に至ってはあまりに子どもが増えすぎて小学校が足りないという事態も起きている。

これは、子どもを持つ家族がこの3区に移住してきたためというのではない。なぜなら、この3区の出生率も東京の中で群を抜いて上昇しているからだ(参照→東京中央区の出生率トップ「結婚も出産も豊かな貴族夫婦だけが享受できる特権的行為」となったのか?)。この3区に住む夫婦が子どもを産んでいるのである。

減ったところと増えたところの違い

一方で、2005年までプラスだった江戸川区はマイナスに転じ、それまで出生率も23区中でトップ3だった江戸川区、足立区、葛飾区という東京の出生数を支えてきた下町3区がすべて減少基調になってしまったのである。

厳密には、2005年から急激に減ったのではなく、2014年頃まではこの下町3区は上位のままだった。潮目が変わったのは2015年以降である。

全国都道府県別に見れば、東京、大阪など大都市では子どもの数の減少は抑えられているが、地方は大きく減らし、東北などは30年間で半減している。全国で起きていることのミニチュア版が東京都内で起きている。

子どもの数が増えているのは、所得の高いエリアだけで、中間層が多く住む周辺エリアから減少に変化してきている。

これを「東京では高所得で裕福な夫婦が増えた」などと頓珍漢な分析をしてはいけない。確かに、東京23区において6年以内に子どもを出産とした夫婦の世帯年収中央値は1000万円を超える。しかし、それは全体的に高所得者が増えたわけではなく、高所得夫婦が東京に一極集中した結果である。

23区内で子どもの数が増えているところと減っているところの大きな違いといえば、家族向けタワマン新築件数の差だろう。出生は人口依存なので、タワマン入居などで人口が増えればそれだけ増えることになる。

提供:イメージマート

東京の「終わりの始まり」

しかし、とはいえ東京も安泰ではない。2015年以降はつるべ落としに出生数は落ちている。今後もその減少傾向は続く。

なぜなら、そもそも東京に来る人口も減るからだ。東京への人口集中の大部分は20代の移動によるものだが、そもそも20代の人口はこれから激減していく(生まれてこなかったので)。

東京における「日本最期の人口ボーナス」は終了したのである。別の言い方をすれば、本来2005年までに起きるはずだった第三次ベビーブームが、若者が人口集中した東京では、晩婚・晩産による後ろ倒しでバラけて生じたに過ぎない。

ただでさえ、絶対人口が減る上に、23区では1000万円以上の世帯収入がなければ半数が結婚・出産ができなくなっている東京で、ボリュームの大きい中間層の未婚化、無子化はむしろより加速するだろう。

万が一、タワマンに住む高所得パワーカップルが1組あたり6人も7人もの多子世帯になってくれるのならば問題はないが、多子化はありえない高所得層ほど、すでに生まれた子の教育費などに投資をするようになり、新たな子を産むことはなくなるからだ。それは、この20年の所得別の出生動向で証明されている。

東京に限らずだが、全体的に所得中間層が結婚し、第一子を産むようにならない限り、出生減の流れは止められない。現在かろうじてプラス(マップの白いエリア)のうち、大田区、板橋区、小平市、西東京市などは早々にマイナスになる。

2020年から15年後にあたる2035年に、同様のマップを作成したとすれば、多分1990-2005年と同様の全体的に真っ赤な図表となるだろう。

提供:イメージマート

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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