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グランプリファイナル銀メダリスト・山本草太 ロックナンバー『Teeth』で見せる新境地

沢田聡子ライター
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

プログラムの選曲には、フィギュアスケーターの意志がみえることがある。新しいエキシビションナンバーに『Teeth』を選んだ山本草太には、新境地を開拓しようという強い思いがあるのかもしれない。

右足首の骨折により雌伏の時を経た山本にとり、今季は飛躍のシーズンとなった。昨年12月のグランプリファイナルで銀メダルを獲得し、今年3月の世界選手権にも出場した。今季のプログラムは、ショート『Yesterday』・フリー『ピアノ協奏曲第2番』ともに山本の伸びやかなスケーティングが映えるスローなナンバーだった。自らの良さを最大限に活かす選曲も、躍進の要因だったといえる。

対して、4月29日から開催されたプリンスアイスワールド横浜公演で披露し、5月26日のファンタジー・オン・アイス幕張公演でも滑った『Teeth』(振付:佐藤操氏)はハードなロックナンバーだ。気まぐれで魅力的な恋人に翻弄される男性の心情を歌う『Teeth』のタイトルが意味するのは、彼女の心にある“牙”だという。

レザー風の黒い衣装をまとって登場する山本は、シャープな所作でハードな曲調を表現しながら滑っていく。山本の卓越したスケーティングが曲と一体になり、リンクから客席まで風が吹いてくるような疾走感が醸し出される。観客の目の前で足を止めて行うアピールも、そこまでの山本の滑りにスピードがあるからこそ活きる振付だろう。改めて、質の高いスケーティングはフィギュアスケートの基本であることを感じさせられる。

ジュニア時代は清新な滑りが印象的だった山本も、もう23歳だ。ビターな恋愛を歌うロックナンバーをワイルドに表現できる、成熟したスケーターに成長した。右足首の骨折については3回も手術を行っており、想像を絶する苦しみを経験したであろう山本が、今もその滑らかなスケーティングをみせてくれていることに感謝したい。

このプログラムを披露したプリンスアイスワールド横浜公演の初日後、囲み取材に応じた山本は「今シーズンは試合数も自分の中ではすごく多かったシーズンで、成長もすごく感じた」と振り返っている。

「いい時も悪い時もあったとは思いますが、なんとか最後まで滑り切ることができました」

「まずはオフシーズン、『一回休みたい』と思ってはいたのですがなかなか、結局新しいエキシビション(『Teeth』)の振り付けだったり(があって休めず)…。そのエキシビションも、自分の今までのイメージとはまたガラッと変わったナンバーだったので、結局練習をすごく頑張っていた」

「来シーズンに向けて、新しい技も習得を見据えて、いろいろなことにチャレンジしながら頑張っていけたら」と語った山本は5月18日、Twitterに4回転ルッツを着氷させる動画をアップしている。技術・表現の両面で貪欲に前進し続ける山本は、来季の競技会ではどんなプログラムをみせてくれるのだろうか。

ライター

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(フィギュアスケート、アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。2022年北京五輪を現地取材。

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