広島3位の中村健人が今年のドラフトで最大のサプライズと言われる理由
今年もプロ野球ドラフト会議が終わった。12球団が支配下77名、育成51名の128名にプロの扉を開く中、小園健太投手と松川虎生捕手の市立和歌山高バッテリーがともに1位で指名されたり、東北楽天が昌平高の吉野創士外野手を一本釣りするなど、1位指名からサプライズがあった。
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だが、今回のドラフトで一番大きなサプライズは、広島が3位でトヨタ自動車の中村健人外野手を指名したことだろう。
中村はパワフルな打撃でトヨタ自動車の四番を任されており、都市対抗東海二次予選では、第三代表決定戦で勝利を決定づける満塁本塁打も放っている。実力的には当然と言っていい指名がなぜサプライズかと言えば、中村が慶應義塾大の出身だからだ。
日本の野球界は、早稲田大と慶應義塾大のOBが中心となって普及・発展してきたと言っても過言ではない。その歴史が示すように、プロでもアマチュアでも早慶の出身者が要職を担うケースがよく見られる。特に社会人野球では大手企業の役員クラスにも早慶OBが多いことから、野球部員も将来の指導者候補と目されることが少なくない。
そうした経緯で、1990年代までは野球界にも早慶の選手を特別視する傾向があった。
「早稲田のキャプテンを下位指名するわけにはいかない」
「慶應のエースが社会人の内定を得た。無理に指名するのは避けよう」
プロ球団のスカウトがそう考えた結果、卒業後に社会人へ進んだ早慶OBは、なかなかドラフト指名されなくなった。特に野手は、早稲田が1995年に巨人から2位指名された仁志敏久(日本生命)、慶應義塾は1996年に近鉄から6位指名された大久保秀昭(日本石油・現ENEOS監督)を最後に、二十数年間ひとりも指名されていない。
二十数年間の壁はなぜ破られたのか
その間、最近でも慶大卒業時に指名漏れしたことがサプライズと言われ、2年後には確実にプロ入りすると目された谷田成吾(当時JX-ENEOS)でさえ、指名されることはなかったのだ。毎年のように、早慶出身の新人が社会人にデビューする。注目すべき活躍を見せる選手も多いのだが、「2年でプロ入りしたい」と目を輝かせて言われると、「この選手は、早慶の壁を破れるだろうか」と思ってしまう。
そんな中での中村の指名だ。広島は、中村を3位で指名したあとも、愛工大名電高の田村俊介を4位、大阪ガスの末包昇大を6位と、即戦力と将来性を買ったスラッガー・タイプの外野手を3名も指名している。これは、日本代表でも主軸を務めている鈴木誠也が、今オフにもメジャー・リーグに挑戦することを示唆しているのか。いずれにしても、広島には即戦力の外野手である中村を、どうしても獲得したかった事情があるはずだ。
一方、慶應OB周辺の声を聞くと、大きなお世話だと自覚しながらも、「トヨタ自動車で野球に打ち込んでいられるのに、あえてプロ入りするリスクを中村はどう考えているか」と口にする人はいる。だが、40~50代の人たちが社会に飛び出した時代とは異なり、若い世代から終身雇用の感覚は希薄になっており、大企業からでも平然と転職する時代なのだ。プロに挑戦するリスクより、プロ経験があればセカンド・キャリアにも役立つと考えるのは自然なことだろう。
あるスカウトは、中村の指名についてこう言った。
「中村君の名前が上がった時は少し驚きましたけど、よくよく考えれば、これまで早慶に配慮してきたことが普通ではないのかもしれない。今後、早慶出身の社会人選手に気を遣わずにアタックするケースは増えるかもしれませんね」
まずは、中村がプロの世界でどこまで飛躍してくれるか。それを楽しみにしていたい。
(写真提供/小学館グランドスラム)