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虐待を受けている子どものために周囲ができることは? 当事者グループ「インタナリバティPJT」に聞く

大塚玲子ライター
(c)Miki Hasegawa

 「虐待、その後の人生」。先月、Yahoo!ロッジでこんなイベントを開催しました(定形外かぞく交流会)。話をしてくれたのは「インタナリバティPJT(プロジェクト)」のメンバー、橋本隆生さん、ヤマダカナンさん、サクラさんの3人です。

 「インタナリバティPJT」は、虐待を受けた経験のある当事者グループ。メンバーは、写真家・長谷川美祈さんの作品(虐待を経験した子どもの内面の叫びを表現する写真集「Internal Notebook」*)の被写体になったことを機に知り合い、今年1月にグループを立ち上げました。

  • *2018.11イタリアで刊行予定です

 3人は自らの経験を語ることで、少しでも多くの人たちに虐待について考えてもらおうと、各所で講演活動を行っています。

 「虐待を受けているかもしれない子どもを見つけたとき、どうしたらいい?」

 これは、イベントの際に参加者からあがった質問の一つです。尋ねたのは、とある学校の先生でした。気になる子どもにどう声をかけていいかわからず、悩んでいるとのこと。

 ケースバイケースであることはもちろんですが、3人はそれぞれ、自らの経験から思うところを話してくれました。以下、その内容を一部お伝えしたいと思います。

*一、二回では話せないことも

 「僕は何度も助けを求めた」。そう話すのは、橋本隆生さん(30代男性)です。

 父親とその再婚相手から激しい虐待を受けていた小学生時代、最もSOSを発した相手は、学校の先生でした。祖父母も親せきも近くにおらず、「頼れる大人が、先生しかいなかった」からです。

 しかし残念ながら、先生は何もしてくれませんでした。一度は家庭訪問しようとしてくれたものの、橋本さんの親が拒否した際にそのまま引き下がってしまい、途中からは声をかけてくれることもなくなったそう。「散髪屋のおばちゃん」に話したこともありますが、このときも何もしてもらえませんでした。

 いまや虐待を受けた子どもを見つけた人は通報することが義務であり(児童虐待防止法)、虐待を通報する児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」もありますから、ここまでスルーされることはないとは思いますが、子どもからSOSを受け取った大人は、ためらわずに早く通報したいものです。

 もし、子ども自身はSOSを発していなくても、周囲が「この子は虐待を受けているかも」と気づいたときは、どうすればいいでしょうか? 橋本さんはこう話します。

 「一、二回声をかけて終わりではなく、話しかけ続けてほしいと思います。僕も最初はSOSを出していたけれど、中学生にもなると大人は信用していなかったので、たぶん一、二回声をかけられても、『うるせえよ』としか思わなかった。

 いきなり本題(虐待の話)に入りづらければ、最初は挨拶だけでもいい。『しつこいな、こいつ』と思われるくらい、声をかけ続けてくれる大人がほしかったです」

 大人が子どもに声をかけるときは、すぐに答えを出さないように気を付ける必要がありそうです。

*気にかけてくれた先生

 「大人に、虐待のことを話してはいけないと思い込んでいた」というのは、サクラさん(40代女性)です。

 サクラさんは保育園の年中のとき、時計の見方を覚えるため、母親から厳しく特訓されていました。答えられないと必ず殴られ、そのことを園の先生にこぼしたところ、先生は母親に対して「まだ、そこまで無理をさせなくていいですよ」と伝えてくれたそう。

 しかしサクラさんはその後、「先生に告げ口した」ということで、母親から袋叩きにされてしまいます。以降は「こういうことを人にいうと、余計つらいことになる」と思い、誰にも何も言えなくなってしまったということです。

 「でも、その先生のことは恨んでいないです。その後も私を心配して、『まだおうちで時計の練習してるの?』って聞いてくれたので、『先生が来てくれたからよくなった、ありがとう』って嘘をついて(笑)。いい先生にあたったと思います」

 せっかく子どもからSOSを受け取っても、下手をするとこんなふうに、子どもがさらに虐待にさらされる危険もあるわけですが、それでも大人はスルーすべきでないのでしょう。いまは通報窓口があるので、難しいケースは、専門家に判断をあおぐこともできます。

*友達も気づいたらアクションを

 ヤマダカナンさん(漫画家・40代女性)は、「大人にSOSを出したことはないけれど、友達にはSOSを出していた」といいます。

 「数年前に虐待の記憶をたどり始めたとき、中学生のときの友達に聞いてみたんです。『当時、私は虐待のことを何か言ってた?』って。そうしたら、私の身体にあざや切り傷があって、友人が『どうしたん? 痛そうやな』と私に聞いてくれたらしく。私は最初『殴られた』と答えたあと、『嘘やねん、自分で絵の具で塗ってん。めっちゃ上手いやろ?』と答えたそうです」

 ヤマダさん自身は記憶にないそうですが、友達にはサインを発していたのです。こんなふうに、先生や大人には言えなくても、友達になら言える子どもも多いのかもしれません。

 「大人が声をかけ続けていても、反応するのには、その子のタイミングがあります。あなたを気にかけているよ、という態度を示してほしい。それから子どもたちも、もし友達が虐待を受けていると気づいたら、先生に言うなり『189』に電話するなり、なにかアクションしてあげてほしいです。インタナリバティPJTでは今後、小・中学生向けにも、話をしていけたらと思っています」

 盲点でしたが、子どものことに最も気づきやすいのは、たしかに子ども同士かもしれません。誰かが虐待を受けているかも、と気づいたとき、具体的に何をすればいいかがわかっていれば、力になってくれることはありそうです。

 以上、今回のイベントでうかがったお話の一部を、紹介させてもらいました。「インタナリバティPJT」の活動に興味がある方は、以下のリンクをご参照ください。

●「インリバのブログ」

●「internaReberty PROJECT Facebookページ」

●Twitter「internaReberty(インタナリバティ)」

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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