「茨城のシールズ、標榜したことない」 市民団体代表、産経に抗議 「北とグル」発言も否定
【GoHooレポート2月29日】産経新聞は2月11日、ニュースサイトで「『茨城のシールズ』建国記念の日に街宣 北ミサイルは『北と中国、米国がグル』」と題する記事を掲載したが、取材された市民団体「Sauda@ibr」(そうだあっといばらき、以下「そうだ」)の女性代表が「茨城のシールズ」と標榜したことはないなどと抗議し、訂正や謝罪などを求めている。日本報道検証機構が調べたところ、この記事が出るまで「そうだ」が対外的に「茨城のシールズ」と称したり、メディアなどでそう呼ばれたりしたことは一度もなかったことがわかった。「そうだ」は記事掲載翌日に同社本社と水戸支局に抗議文を送付し、当機構も16日、同社広報部に質問状を出したが、同社はいずれも返答していない。
記事は、「『茨城のシールズ』を標榜する市民団体」が2月11日午後、JR水戸駅南口で行った署名集め活動の模様を、水戸支局の桐原正道記者が「そうだ」共同代表の花山知宏さん(39)=法律事務所勤務=への取材や自身の感想も交えてリポートしたもの。紙面には掲載されなかったが、ニュースサイトに4ページにわたり掲載され、大きな反響を呼んだ。
花山さんによると、桐原記者から取材を受けたのは、11日午後3時半ごろから15分程度。記者が「記事になりづらい。期待しないでください」と言い残して帰った後、連絡がないまま、その日の午後6時11分ごろニュースサイトに掲載された。花山さんはまもなく記事に気づき、当日夜のうちにツイッターで複数の事実誤認を指摘。翌日、桐原記者に電話して直接抗議したものの、記事の削除はできないとの返事だったため、抗議文を送付した(フェイスブックにて全文公開)。その後、花山さんは当機構の調査に応じ、取材経緯や事実関係を説明した。なお、当日の模様はライブ配信動画2本に30分あまり録画され、桐原記者が花山さんに話しかける場面も残っていたが、話し声はほとんど録音されていなかった。(*1)
「茨城のシールズ」と「標榜」の事実は確認できず
産経の記事で、「そうだ」は「『茨城のシールズ』を標榜する市民団体」と報じられた。「標榜」は通常、主義主張などを公然と示すことを意味するが、花山さんによると、「そうだ」が「茨城のシールズ」と対外的に称したことは一度もなく、学生中心のシールズ(SEALDs)とは全く別団体。シールズと連携したことも連絡を取り合っていることもないという。「茨城のシールズ」は桐原記者から出てきた言葉だと主張。記者の「そうだあっといばらきは『茨城のシールズ』として活動しているのか」との質問に対し、花山さんは、シールズが「そうだ」設立のきっかけになったことは認めつつ、シールズとは役割や活動スタイル、年齢層も異なると説明したという。
記事の後半には、「シールズなどに影響を受けて昨年の7月に設立した。茨城のシールズを目指したい」とのコメントも引用されている。花山さんは今後、シールズなど安保法制反対グループと連携する可能性はあるが、「茨城のシールズを目指したい」と発言した事実はないと否定している。これも記者から「茨城のシールズは目指さないのか」と問われ、「目指す方向は同じかもしれないが、活動スタイルも役割も違う」などと説明したという。仮に、自ら「茨城のシールズ」と標榜していたのなら、「茨城のシールズを目指したい」という発言が出てくるのは不自然と考えられる。したがって、このようなコメントを引用していること自体が、花山さんが現に「茨城のシールズ」と標榜していると説明していなかったことをうかがわせる。
加えて、「そうだ」はこれまで何度か新聞報道などで取り上げられたことがあるが、「茨城のシールズ」と呼称された例は一つも見つからなかった。インターネット上でも、産経の記事の掲載以前に「茨城のシールズ」と称した例は見当たらず、「Yahoo!リアルタイム検索」で1月24日〜2月10日のツイート数を調べてもゼロ。現在、ネット上には「茨城のシールズ」という表現が出てくるページが大量に存在するが、いずれも2月11日以後、産経の記事の影響を受けて作成されたものばかりとみられる。
「茨城のシールズ」とラベリングされたことについて、花山さんは「シールズに迷惑をかけることになる。構成団体でも、連絡を取り合っているわけでもないのに」と指摘。「そうだあっといばらきは、自分たちの意思で集まり、メンバーが相談しあって工夫しながら世論に訴えるという活動を行ってきた」とも述べ、独自性を否定されたことに憤りを覚えると話している。
「北と中国、米国がグル」と宣伝した事実を否定
2月11日、「そうだ」メンバーは「バレンタインアピール宣伝」と銘打って、「戦争法廃止」を求める署名集めやチラシ入りティッシュの配布活動をしていた。だが、通行人に向かってマイク等で主義主張を宣伝するような行動は一切していなかったという。しかし、見出しだけを見ると「北ミサイル『北と中国、米国とグル』」という趣旨の主張を「街宣」(街頭宣伝)したかのような誤った印象を与える可能性が極めて高い(本文を注意して読めば、見出しのような主張を通行人に向けた宣伝したわけではないことがわかる)。
記事には、桐原記者の取材に対して花山さんが「あれはミサイルというよりロケット。日本を攻撃しているわけではない」「北朝鮮のトップと中国のトップ、米国などが話し合って決めたはず。私たちに見えないところで、米国や北朝鮮にメリットがある。彼らはグルだ」と答えたと記されている。
これについて、花山さんは、記者の方から「北朝鮮のミサイル発射」(とメディアが称する事案)について見解を問われ「あれはミサイルというよりロケット。日本を攻撃しているわけではない」との認識を示したことは肯定(なお、「北朝鮮ミサイル発射」報道の問題点については、【GoHooコラム】「北朝鮮ミサイル発射」という”大本営発表”、および「事実上の弾道ミサイル」という表現の陥し穴参照)。一方で、「北朝鮮がロケット発射によって何らかのメリットを得ようとしているのではないか」「各国のトップが見えないところで協議しているかもしれない」という趣旨の話はしたという。だが、取材時に「グル」という表現を使ったことは全くないと強調。記者の口から「グル」という言葉を聞いた覚えもないと話した。
そもそも、記事で引用された国際情勢に関するコメントは「私も詳しいわけではないので、記事にできるような内容の話ではない」と断って話したものにすぎないという。そのため、花山さんは、産経に対する抗議文の中で「拡声器で市民に『北と中国、米国がグル』と訴える宣伝行動であるかのように描く本件記事は、行動の目的を歪曲して伝えるのみならず、行動に参加した者を愚弄し、侮辱するものであり、断じて許しがたい」と非難している。
「署名は50〜70代の世代が多い」にも反論
記事には、「『戦争法廃止』の署名運動はハードルが高いようで、若者は逃げるように立ち去っていた。署名に足を止めるのは、50~70代ぐらいの世代が多いようだ」とも記されていた。
これは記者個人の印象に基づく記述とみられるが、花山さんは、この日は1時間弱で44筆の署名を集め、その多くが高校生をはじめとする若い世代だったと反論している。その模様の一部が収録されたライブ配信動画にも、若い女性やカップルとみられる人たちが署名に応じている様子がうつっており、これを見た限り「50〜70代くらいの世代が多い」との印象は裏付けられなかった。ただ、署名簿には年齢の記載はなく、実際の年齢層を検証することは困難とみられる。
このほかにも、花山さんは、メンバーの1人が一風変わったヘルメットや花粉症予防でマスクを着用していたのをとらえて「かつての学生運動を彷彿とされる姿」と形容するなど、読者に「過激派」「特異な集団」との印象を与える表現が多々みられたと抗議文で指摘している。
花山さんは、当機構の取材に対し「桐原記者とは以前から(自身が勤務する法律事務所の)裁判取材などで顔を合わせ、信頼関係で話をする部分もあった。このような歪曲報道で信頼関係が損なわれたことは大変遺憾。真摯な反省と謝罪を求めたい」とコメントしている。
(*1) 花山さんらが2月11日の署名活動の模様を撮影したライブ配信動画(ツイキャス《1》、《2》)。
(*2) 花山さんが桐原記者から取材を受けたのは「11日午後2時半ごろから」と記したのは「11日午後3時半ごろから」の誤記でした。お詫びして訂正します。(2016/3/1 13:00)