スペインに4発大勝!3試合クリーンシートの“完璧”な内容でなでしこジャパンがラウンド16へ
【4ゴールで快勝】
女子ワールドカップ、グループステージ第3戦。なでしこジャパンは強豪スペインに4-0で快勝し、首位でノックアウトステージ進出を決めた。
互いに次のステージへの切符を得ている状況だったが、ベストに近いメンバーを組んできたスペインは、明らかに勝ちに来ていた。直近3年間で2度、女子チャンピオンズリーグを制したバルセロナのメンバーも6人、ピッチに立っていた。ホルへ・ビルダ監督も、この試合でノックアウトステージへの勢いをつけたかったのだろう。
だが、日本の先発メンバーを予想することは難しかったと思う。これまで2試合に先発していたFW田中美南、MF長谷川唯、MF藤野あおばがベンチスタート。FW植木理子、ボランチにMF林穂之香が入り、ケガ明けで初先発となるDF高橋はなを3バックの一角に据えたのだ。
これで、今大会は負傷明けで調整中のFW浜野まいかを除くフィールドプレーヤー全員がピッチに立ったことになる。
スペインは立ち上がりからテンポ良くパスを回し、選手が流動的にポジションを変えながら攻め手を探ってきた。一方、日本はあえてプレッシャーをかける位置を高くはせず、中盤でコンパクトなブロックを形成。精度の高いクロスを入れてくる両サイドハーフには、DF清水梨紗とMF遠藤純が目を光らせ、自陣の守備時は5バックでスペースを消した。
「スペインは個がうまいと分かりきっていたので、割り切って、はっきりやるところははっきりプレーしました。(相手が)流動的な動きに対しては、ボランチの選手とディフェンスラインでしつこいぐらい声を掛け合って対応しました」
高橋はそう振り返った。ボールが動き、選手が動いても、隙間にパズルをはめるように誰かがスペースを埋めていく。ただボールに合わせてスライドするだけではなく、緩いパスは容赦なく狙いに行った。ボール保持率は21%まで下がったが、戦略的な日本の守備に苦しんだスペインに怖さはなかった。だからこそ、高い位置でボールを奪う場面も見られた。そして、攻撃では素早い切り替えとテンポのいいカウンターが炸裂した。
前半は、3本のシュートがすべてゴールに直結している。
先制点は前半12分。DF熊谷紗希から左サイドのMF遠藤純に長めのパスが通ると、遠藤がワンタッチで強烈なクロスをゴール前に入れる。そこに、トップスピードで走り込んだMF宮澤ひなたがGKマリア・ロドリゲスをかわして先制。
さらに29分、自陣中央でボールを奪うと宮澤がドリブルで持ち上がり、左を並走する植木にパス。ペナルティエリア内に進入した植木が右に持ち出して足を振り抜くと、対峙したDFイレーネ・パレデスの足に当たってGKの頭上を抜く2点目が決まった。
40分にはダブルボランチの長野と林で奪ったボールを、植木が宮澤にスルーパス。宮澤はファーストタッチでエリア内まで進入し、右足でゴール左上を揺らした。
後半、池田監督は前線に藤野、右にDF守屋都弥、ボランチに長谷川を投入。67分には田中(美)も入り、4点目を狙いに行った。そして82分、守屋のスローインに抜け出した田中がドリブルでエリア内にカットイン。またぎのフェイントでパレデスの足を止めるとそのまま左足を鋭く振り、ゴール左上に突き刺した。
4点をリードした日本は最後まで危なげなく試合を進め、完勝を収めた。
【3試合クリーンシートの守備とダブルボランチの運動量がカギに】
ここまでの完勝は、さすがに予想していなかった。しかも、メンバーを固定せず、3試合とも大胆に変えてきたことに驚かされた。
池田監督は先発メンバーを選ぶ考え方について、「対戦相手の組み合わせ、(個々の)コンディションや巡り合わせもあります」と説明。また、3試合ともリードしながら進められた中で交代の手を打ちやすかったことにも触れ、試合内容を賞賛。「戦いながら選手層の厚さを生み出せているのは嬉しい限りです」と話した。
結果的に、この試合でも、85分のMF杉田妃和の投入を含めて5つの交代枠をフルに使い、選手の経験値を高めつつ、疲労の蓄積を分散することができた。
「ちょっと出来過ぎだったかなと思います」と、試合後に明るい表情で話したのはキャプテンの熊谷だ。
「ビッグチャンスを与えなかったのは後ろとしても自信になるし、(前線が)カウンターをしっかり決めてくれるところがチームを精神的にも助けてくれました。ボールを持たれても最後のところでやられなければ自分たちはやれる、という成功体験はすごく大きなものだと思います」
グループステージ3試合で無失点。スペインも含めて、相手に決定的なチャンスをほとんど作らせていない。その守備の安定感がチームを支えている。3試合でフル出場したのは熊谷、DF南萌華、GK山下杏也加の3人だけ。メンバーが変わってもチャレンジとカバーの関係性が明確で、曖昧なパスがなく、危険な奪われ方からカウンターを招く場面がほぼない。
コスタリカ戦で3バックに入ったDF三宅史織は、昨年11月にスペインと対戦し、0-1で敗れた映像を試合の2日前に全員で見たと話していた。その試合では、3バックにして日が浅い中でさまざまなチャレンジを試み、ミスも多く出た。それを再度確認したのだという。
「映像を見直して、うまく行っていなかったところを確認しました。4バックの相手に対してどこがミスマッチになるか、どういう運び方をしてくるのか。どういうふうにやられたのか、選手ごとの特徴も確認しました」
そのように、毎試合の抜かりない準備が、3試合連続のクリーンシートにつながった。
そして、この試合では攻守の歯車を動かすダブルボランチ、長野と林の運動量が際立っていた。前線、サイド、時には最終ラインの選手と相手を挟んで自由を奪い、攻撃の起点となるMFアレクシア・プテラスや、決定力のあるFWジェニファー・エルモソに仕事をさせなかった。
今大会は、試合ごとに詳細なスタッツが公開されている。それによると、林は両チーム合わせて最長の11.81kmを走っている。
【決定力急上昇の理由】
そうした全体の安定感が、アタッカー陣の力を引き出している。前日の練習後、宮澤はスペインとの試合を心待ちにしているようだった。
「耐える時間は増えると思いますが、一方的に回される展開になるとは思っていないです」
そう話していた通り、最高の結果を出した。攻撃陣は宮澤が初戦に続く2ゴール、初先発の植木が1ゴールと結果を残し、チームを勢いづけた。植木は守備的プレスの回数が「74」を記録しているように、前線からのハードワークも光った。また、後半、左サイドのMF猶本光が、交代で入った藤野と左右を入れ替えていたように、臨機応変なポジションチェンジも見られたし、交代で入った守屋と田中の連係でゴールが生まれたことも、全体が同じベクトルを向いていることを示す。
シュート8本で4ゴール。3試合で計11ゴール。日本が悩み続けてきた決定力不足解消へのヒントがこの試合にあるとすれば、それこそ最大の収穫かもしれない。
開幕戦に続き、この試合でも先制点を含む2ゴールを挙げた宮澤は、「ああいう(ゴール前の)シーンで一番、大事になるのは気持ちだと思います。思いきり足を振ったら何かが起こるかもしれないですから」と、気持ちの面でヒントを掴んだようだった。
田中は、「雰囲気やチーム状態も含めて伸び伸びプレーできています。変な緊張もないし、萎縮していない。それがチームとして(いい方向に)出ていると思います」と、やはりメンタル面の好影響を指摘した。
もちろん、スペインのようにゴール前でただコースを消すのではなく、ファウル覚悟でボールを奪いにくる相手もいる。そうしたことも想定し、ゴールの奪い方も相手によって変える必要はあるだろう。この試合でもセットプレーのゴールは生まれなかったが、新たなトリックプレーが見られた。
「セットプレーは宮本(ともみ)コーチが分析して、選手と共有しています。相手を見て分析したり、男子のセットプレーでデザインしたものを使えるのではないかと話したりして、パターンが増えていくイメージです」
池田監督はそう話し、セットプレーのバリエーションの多さを示唆した。ノックアウトステージでは、そうした点でも注目したい。
次は中4日で、8月5日にA組2位のノルウェーと対戦する。
FIFAランキングは、11位の日本に対してノルウェーは12位。ノルウェーは開幕戦でニュージーランドに敗れ、一時はグループステージ敗退の危機に瀕したが、フィリピン相手に6ゴールを決め、得失点差でなんとか勝ち抜いた。前線にはバルセロナのFWグラハム・ハンセン、バロンドール受賞歴のあるFWアダ・ヘーゲルベルグら強力なアタッカーがいるが、ここまでの試合を見る限り、そうした個があまり生かされていない印象だ。オフザピッチでは選手の不満が報じられるなど、チームの雰囲気は決して良くはなさそうだ。ただし、4日の準備期間で、何が起こるかわからない。空中戦の強さやシュートレンジの広さなどには警戒しつつ、世界が注目する試合で、エキサイティングな試合を見せてくれることに期待したい。
試合は8月5日、日本時間17時にキックオフとなる。