少年時代に心を支配された『サスペリア』。自ら再生する喜び ルカ・グァダニーノ監督インタビュー
1977年。ある映画のキャッチコピーが日本で社会現象となった。
「決して、ひとりでは見ないでください」。
その映画とは『サスペリア』。今から考えると、ちょっと大げさなコピーだが、こうして「煽る」感じが1970年代らしい(もっと言えば、この時期の東宝東和のコピーらしい)。実際に作品を観ると「ひとりでは見られないほど」怖くはないし、むしろ過去の作品とは違う美意識に溢れた映像と、ゴブリンの音楽、女だけの妖しい世界など、ホラー映画に革命を起こしたことが記憶されている。
そんな『サスペリア』に長年、囚われてきたフィルムメーカーがいる。イタリア出身のルカ・グァダニーノ監督だ。前作は、アカデミー賞作品賞候補にもなった『君の名前で僕を呼んで』。男同士の恋を切なすぎるほど繊細に、リアルに描いた監督が、次に用意したのが『サスペリア』のリメイクとは、やや意外。来日したグァダニーノ監督に、そのあたりから聞いてみた。
「イタリアで『サスペリア』が公開されたとき、私はまだ6歳だったのでさすがに観ていなかった。イタリアや日本でブームになったことも後から聞いていて、期待を高めて13歳で初めて観たときは、まさに脳天直撃だよ! それからの人生、『サスペリア』は折にふれて頭の中を駆け巡り、私を支配してきた。こうして映画監督になった一因の映画でもある」
じつは『サスペリア』がリメイクされるという話は、10年以上前から持ち上がっていた。グァダニーノが、オリジナルの『サスペリア』の脚本を書いたダリオ・アルジェントとダリア・ニコロディから、リメイクする権利を獲得したからだ。当初、グァダニーノはプロデューサーとして別の監督(デヴィッド・ゴードン・グリーン:2018年の『ハロウィン』を監督)にオファーするも、製作費の面から頓挫。2015年、自ら監督することを決意し、その時点で「リメイク」ではなく「オマージュ」にすると宣言した。
「とりあえずダリオ・アルジェントの『サスペリア』は頭からすべて消去した。前作はバレエの寄宿学校が舞台だが、バレエの要素はあくまでも背景。今回はコンテンポラリー・ダンスのカンパニーにして、バレエとは違う、パワフルな動きを魔女の集団とリンクさせようとしたんだ。カンパニーを仕切るマダム・ブランには、ピナ・バウシュ、マーサ・グレアム、マリー・ウィッグマンというコンテンポラリー・ダンスやモダンダンスの開拓者たちのイメージを入れ込んだよ」
こうグァダニーノが説明するとおり、新たな『サスペリア』はダンスとホラーの完全融合が試みられ、これまでのどんな映画にもなかった「ダンスが凶器となる」衝撃シーンも用意される。この演出について「ダンスも、ホラーも、肉体を変容させるからですか?」と尋ねると、グァダニーノは
「まぁ確かにそうだけど、そこまでは私も考えなかったな」
と、謎めいた笑みを浮かべるのだった。
「レディオヘッドのトム・ヨークに音楽を頼んだのは早い時期で、ロケ地探しや美術の制作も一緒に見てもらいながら、使う楽器も含めて1年くらい話し合った」
「ティルダ・スウィントンには、マダム・ブランの他に2役を特殊メイクで演じてもらった。今回が5回目の起用になる彼女との仕事だから可能だった」
「夢のように挿入される衝撃シーンの数々は、物語に重要な意味を占める。何度か観直すことで、より楽しめるはず」
メインの男性キャラをティルダ・スウィントンが演じているなど、言われなければ絶対にわからない! こうしたルカ・グァダニーノ監督の発言からして、彼の新たな『サスペリア』は、オリジナル版から「スタイル」として大きな改変が試みられ、「そのまま」の再生を期待する人は呆気にとられるかもしれない。しかし、人々の記憶に残り、社会現象にもなった映画を、単純に甦らせても意味はない、というのがグァダニーノの心意気でもある。
1970年代には『エクソシスト』『オーメン』『キャリー』など今も語り継がれるホラーの名作が生まれたが、『キャリー』はリメイクされたものの、新たな視点もなく、成功に至らなかった(リメイク版の主演、クロエ・グレース・モレッツは今回の『サスペリア』に出演。衝撃の姿を披露する)。現代に復活させる意味を込めた、ルカ・グァダニーノの『サスペリア』は、賛否両論はあるものの、新鮮な映画体験となるのは間違いない。
『サスペリア』
1月25日(金) 、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
配給:ギャガ
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