こんなムンクは見たことがない!世界初公開作品も。大人気作家クナウスゴール氏とムンク美術館による夏展示
北欧ノルウェーといえば『叫び』の画家エドヴァルド・ムンクという巨匠の出身国として知られている。観光客が多く訪れる夏、ムンク美術館で開催される新展覧会では、ムンクの知られざる作品が大特集される。
143作品のうちの多くは、これまでほとんど展示されてこなかった無名のものばかり。そのいくつかは国内外で初公開となる。『叫び』などの「これぞムンク」という絵は一切ない。
今展示では、欧米でベストセラー作家として知られているノルウェーの大人気作家カール・オーヴェ・クナウスゴール(Karl Ove Knausgaard)氏がキュレーターとなった。赤裸々な私生活を描いた小説シリーズ『わが闘争 父の死』は日本でも邦訳されている。
威厳あるオーラを放つクナウスゴール氏は、ノルウェーでは良くも悪くもその言動が大きな注目を浴びる。
偉大な作品を残しながら、物議を醸し、世間を騒がせるという点では、ムンクとも共通点がある。そのクナウスゴール氏が好んで選び抜いたムンクの作品は未発表・無名のものばかり。すでに現地ではオープン前から大きな話題を呼んでいる。
ノルウェー人のムンク愛は深く、そのため審査基準も厳しい。それでも、3日のプレス発表会直後は国内メディアが素晴らしいと賞賛した。
「ムンクはノルウェーという国のシンボル。そのような画家の展示に関わることができて光栄です」と語る同氏。「森に向かって」という展示テーマの通り、ノルウェーの自然、喜怒哀楽を表現する人間の絵画が飾られている。
同氏は『Under the Stars』の絵を見つめながら(トップ写真)、「なぜこの絵が今までそれほど注目を浴びてこなかったのか、理解できない」と話す。
「ムンクの作品は有名すぎて、もはやアイコンになってしまいました。だからこそ、ムンクらしくないムンクを見せたかった。ムンクというアイコンのない世界観を表現したかったのです」とクナウスゴール氏は語る。
「私は2千ページに及ぶ本に長編を書くことができる。しかし、ムンクはこんなにも小さなキャンバスの中に、たくさんのものを詰め込んでいる。私にとって表現手段に文字は必要不可欠です。ムンクは文字なしで、世界や感情とつながることができている。すごいことです」。
クナウスゴール氏は言葉で説明するよりも、来場者にはただ絵を見てほしいようだった。「話しすぎたかな」、「あまり詳しくは話したくはないんです」と、つぶやきながら館内の展示を紹介していた。
館内には、ムンクが手掛けた彫刻も置かれており、見たことのないムンク作品ばかりが並んでいる。
最後の部屋には、たくさんの巨大なポートレートが並んでいた。「ムンクはずっと人を描き続けてきました。彼が残したこの絵は、彼の人生を支え続けてきた大切な人々です。彼らに支えられていると自覚していたから、この人たちを描いたのだと私は思っています」と締めくくった。
クナウスゴール氏と共に、キュレーターとして今展示を企画したカーリ・J・ブラントセイグ氏。世界初のお披露目作品をいくつか教えてもらった。
「『叫び』や有名作品がないことにがっかりする日本人旅行者の方もいるかもしれないけれど、きっと楽しめるはず」と同氏は話した。
- 『Morning in the Garden』(1911-12)
- 『Painted by the wall』(1942) クナウスゴール氏が「お気に入りの1枚」と最初の部屋で真っ先に紹介した1枚
- 『The Pathfinder』(1911-12)
- 『Jealous Motif』(1929-30)
- 『The Human Mountain: Sunrays』(1927-29)
- 『Old Man』(1908)
- 『Seated Man, before』(1932)
展示は5月6日から10月8日まで。ムンク美術館公式HP
Text:Asaki Abumi