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もう見た?『シン・仮面ライダー』賛否両論が出る理由と、もっと楽しむ方法を解説

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー

庵野秀明監督による仮面ライダーシリーズのリブート作『シン・仮面ライダー』が公開されてからもう一ヵ月以上になりますが、ようやく見てきました。

シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバースの他作品『シン・ゴジラ』、『シン・ウルトラマン』と比較すると、興業的に苦戦している様子の『シン・仮面ライダー』。
「Yahoo! JAPAN 映画」でのレビューは平均3.4点(4/19時点)と上映中作品の中ではやや辛い評価になっており、他のサイトでも3.5点前後が多い模様です。
詳しく評価を見てみると、絶賛するコメントも沢山ある一方で酷評も多く、結果として中間辺りに落ち着いた様子でした。まさに、賛否両論という感じです。

個人的には充分楽しめましたが、どうして賛否が分かれるのか・・・
実際に鑑賞をした印象や、他のシン・シリーズとの違いなどを踏まえて分析してみます。
また、GWなどを利用してこれから見る人のための楽しみ方も、記事の後半で説明します。
まだ未鑑賞の方は、楽しみ方だけ読んでくださってもかまいません。

>賛否両論の理由を分析!!

『エヴァンゲリオン』シリーズにしてもそうですが、庵野秀明監督・脚本の作品は評価が分かれることが多いですが、その中でも『シン・仮面ライダー』は賛否が分かれた感じがします。
今回はその理由を分析してみます。

※ ここから若干のネタバレ記述がありますので、気にされる方は「分析」部分は読み飛ばして、この記事下部にある「楽しみかた」の項目をご覧ください。

理由1:冒頭のアクションシーン

それでは、まず、YouTube「東映映画チャンネル」で限定公開されている冒頭映像です。
(少々グロテスクなシーンもあるので、苦手な方はご注意ください)

どことなく昔ながらの特撮を思わせる雰囲気があったり、庵野監督の世界観が感じられるシーンがあったりと、なかなかいい感じの冒頭です。

が・・・

2分20秒辺りからの戦闘シーンが少しバイオレンスです。
血糊が飛び散り、赤く染まる画面。敵の体が千切れ飛ぶシーンもあります。
YouTubeをスロー再生してみたところ、実際にはそれほど露骨にグロテスクな物は描かれていませんでしたが、演出の効果で、かなり残酷なものを見せられた気持ちになります。

まず、ここのシーンが苦手な人には受け入れられなかったようです。
カッコイイシーンですが、苦手な人にはこの血しぶきはきついかもしれません。
冒頭でいきなりグロシーンを見てしまい、その後の映画が楽しめなくなってしまったという人も一定数いるのでしょう。
もっとも、これ以降、多少の流血はありますが、冒頭ほどのバイオレンスシーンはありません。こういうシーンが苦手でも、ここさえ我慢できれば普通に楽しめます。
逆に、冒頭を見てバイオレンス・アクションを期待すると、少し肩透かしを食らうことになるかもしれません。

ついでに、ちょっと科学的検証!

以下では、仮面ライダーのパンチ力がどれくらい強いのかを考えてみました。

仮面ライダー:100tのパンチの破壊力は!?
仮面ライダー:100tのパンチの破壊力は!?

刃物並みのキレ味。仮面ライダー、驚異のパンチ力!

映画『仮面ライダー1号』では、仮面ライダー1号のパンチ力は100tという設定になっていました。
この100tのパンチがどれくらいの力なのかを考えてみます。
まず、プロボクサーのパンチ力と比較してみましょう。ボクサーのパンチ力には諸説ありますが、150kg前後くらいで、世界最高クラスの選手でも400kgほどだと言われています。遊戯用のパンチングマシーンだともっと大きく出るかもしれませんが。
1t=1000kgなので100tは100000kgです。
つまり、100tのパンチは、最高クラスのボクサーのパンチの250倍のパンチ力ということになります。

とまあ、これでは比較にならないので、考える方向を変えて、包丁で物を切るときの切っ先にかかる圧力を計算し、拳の大きさに当てはめてみました。すると、その力は1~10tくらいの力になりました。
拳に1tの力が加わったなら、刃物のように切断する力を持つという推定ができます。
ということは、100tのパンチは、思いっきり刃物を押し付けたときのような切れ味と破壊力でしょう。
もしも実際に100tものパワーのパンチを、何の改造も受けていない人間が食らえば、刃物で切られるように体が千切れてしまうはずです。

特撮テレビドラマシリーズの仮面ライダーはそれほどバイオレンスな戦いをしませんでしたが、『シン・仮面ライダー』冒頭の戦闘シーンは、仮面ライダーの戦闘能力を、これまでよりリアルに描いたと言えるかもしれません。

理由2:初代『仮面ライダー』へのオマージュ

ストーリーは新たに組み立てられていますが、作中には初代へのオマージュと取れる演出が沢山出てきます。また、特撮ドラマ作品全体へのオマージュらしき映像も多くみられます。

敵が泡になって消えるとか、仮面ライダー1号には変身ポーズがない点なども、もとの仮面ライダーに忠実なのですが、それ以降の仮面ライダーしか見ていないと違和感かも・・・。

また、ところどころに、特撮感の強いCGやコマ落としのような、古い特撮作品を思わせる演出も出てきました。
撃たれたコウモリオーグがバタバタと飛び回るシーン、バイクでの疾走、トンネルの中で敵の仮面ライダー(大量発生型相変異バッタオーグ)と戦いなど、どこか懐かしい感じのする演出でした。音楽の効果も効いていて、特撮ならではのスピード感や迫力があります。
ただし、集中して見ると、ディティールに違和感を覚えたり、ちょこまかした動きや安っぽい映像に見えてしまうかもしれません。
かつてのSD画質でなら違和感なく見られていた映像表現でも、現代の高画質では粗が目立ってしまう部分もあるでしょう。
この辺りの演出も、賛否が分かれた原因だと思われます。

理由3:会話の長さや、セリフ

全体的に『シン・仮面ライダー』は会話シーンが多い印象でした。
この辺り、エヴァンゲリオンを思わせる感じですね。

本作の世界観を簡単に説明すると、敵の組織「SHOCKER」は、深く絶望を抱えた人間を救済するために人類を滅亡させて苦痛から解き放とうとしています。仮面ライダーや政府や情報機関の男たちはSHOCKERの計画を止めようと奮闘します。

敵もキャラクターごとに信念を持っていて、ただ戦うのではなく会話でのやり取りも多いです。仮面ライダーたちの側もSHOCKER側をただ殲滅するのではなく、操られている人たちを解放しようとしたり作戦を立てて行動したりと、単純なバトル作品ではありません。

庵野作品のファンなら楽しめると思いますが、迫力ある映像やアクションシーンを楽しみたいという観客には、ちょっと難しくて、退屈な部分かもしれません。

それから、キャラクターのセリフが、わざとらしく感じられる人もいるかと思います。
重要人物であるケイの英語が混ざるセリフは、どうしてもルー大柴さんを思い出してしまいます。敵のオーグたちの口調や緑川ルリ子の「私は常に用意周到なの」というセリフの多用も目立ちます。その辺りも、登場人物たちのキャラが強い特撮作品らしさと言えそうですが、違和感の原因にもなっています。

このように本作は、ちょっとした「違和感を無視して楽しむ」か「作られた部分まで好きになる」人は高評価になり、「違和感で冷めてしまう」と、低評価になるという傾向がありそうです。

>映画『シン・仮面ライダー』の楽しみかた!!

ここからは、まだ未鑑賞の人に向けて、ネタバレ少なめで『シン・仮面ライダー』を10倍楽しむ方法(※数値に根拠はありません)を紹介します。

初代『仮面ライダー』をちょっと知っておく

仮面ライダーがどんな作品だったのか、特に現在のシリーズではなく初代の『仮面ライダー』について知っていると作品世界観に入りやすいと思います。『シン・仮面ライダー』は、あくまでも新しい作品として作られているので設定や展開は違いますが、共通点や初代を意識した部分も多くあるので、仮面ライダーを少し知っておくほうが楽しめます。

ちなみに、YouTube「東映特撮YouTube Official」では、本編が話数限定で公開中です!

シン・シリーズを一通り見ておく

できれば、エヴァンゲリオン新劇場版4作、シン・ゴジラ、シン・ウルトラマンを見ておくと、より『シン・仮面ライダー』を楽しめるでしょう。

さすがに、映画6作品を予習するのはつらいという人も、ゴジラ、ウルトラマンだけでも見ておくといいと思います。特に『シン・ウルトラマン』を見ておくと、本作を見た際にちょっとニヤッとできると思います。

また、初代の『仮面ライダー』や、シン・シリーズを見ていなくても、エヴァンゲリオンに代表される庵野監督の作品の世界観が好きなら、それだけで楽しめると思います。

せっかくなら楽しむ気持ちで!

ネットを見ると、酷評コメントもありますが、楽しもうという気持ちで見るのが一番!!

かつて、クエンティン・タランティーノ監督は『デス・プルーフ in グラインドハウス』という映画で、古い時代の低予算B級映画へのオマージュを込めて、フィルムの傷やノイズを再現したり、ストーリーもB級作品風に組み立てたりしました。
制作予算が巨額で、タランティーノ監督作。と、期待が大きかっただけに、いろいろと不評もあった作品でした。映像の作り方も、汚い醜いとネガティブに思った人が多かったようです。
そんな作品も、余計なことを考えずに力を抜いて見ると結構楽しめました。

同じように、あまり力を込め過ぎず、楽しもうという前向きな気持ちで見るのが、一番の楽しむポイントでしょう。

  1. アクションよりも、会話が多め。
  2. 少しグロテスクなシーンがある(PG12、苦手な人はYouTube上の冒頭映像を確認)。
  3. 特撮風の演出にちょっと違和感を覚えることがある。

この3点さえOKなら、きっと楽しめると思います。

おまけ:公開中だと、さらにいろいろ楽しめる!!

配信されてから見ればいいという人もいるかと思いますが、上映中ならではの楽しみ方もあります。

たとえば、この記事のサムネイルにも使った写真ですが・・・

サンマルクカフェ(チョコクロ、アイスコーヒーS)
サンマルクカフェ(チョコクロ、アイスコーヒーS)

サンマルクカフェはシン・仮面ライダーとのコラボを展開していました。
一定額以上の購入で限定グッズのプレゼントもあります。

他にもコラボキャンペーンをしている企業もいろいろあります。
こういったコラボは上映が終わるとほとんどがなくなってしまうので、今しか楽しめません。

また、いつもは甘くないパンを選ぶのですが、この包み紙のためにチョコクロを買ってみたら、めちゃくちゃ美味しかったり!
と、コラボのおかげで新たな楽しみへと広がることも!!

他にも、劇場では鑑賞者特典が配られていたり(配布終了の場合もあります)、劇場でシン・仮面ライダー仕様のドリンクなどが売られていたりもします!

気にはなっているけど「配信で見ればいいや…」と言う人も、どうせなら劇場で見るのもアリかもしれませんよ!

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

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