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デビューわずか1年で大相撲夏場所を制した大の里 「新時代」突入へ希望ふくらむ若い力の台頭

飯塚さきスポーツライター
新三役で初優勝を決めた大の里(写真左)が賜杯を受け取る(写真:スポニチ/アフロ)

大相撲は新時代へ――。爽やかな初夏を象徴するように、若い力が躍動した。まだ大銀杏の結えない新三役の大の里が、後を追う阿炎を圧倒して賜杯を抱いたのだ。付出デビューからたったの7場所。故郷・石川県の大先輩である輪島の15場所を大きく上回る史上最速記録をたたき出した大器は、相手を寄せつけない豪快な相撲に息を弾ませた後、美しく繊細な涙でその目を濡らした。

初日から力強い相撲で圧倒 文句なしの初優勝

昨年5月場所でデビューし、わずか1年でつかんだ優勝。土俵下のインタビューで、新入幕で迎えた初場所から「優勝が、夢から目標に変わった」「その目標を達成できてうれしい」と語ったのが印象的だった。

国技館で取組を見守ったご両親に、昨年夏に取材した。「息子はよく、『何かを犠牲にしないと何も成し得ない』と言うんです」という話が胸に残る。小学1年生から相撲を始めたが、はじめはまったく勝てずに泣いていた。それを打破するべく、中学から地元の石川県を出て新潟の学校に行くことを自ら選んだ。15歳で親元を離れる大きな決断。そこで培った教訓だった。

すでに歴史に残る偉業を達成したにもかかわらず、「強いお相撲さんになっていきたいです」と優勝インタビューを締めくくった大の里。ご両親の言う通り、学生時代から常に高みを見てきたからこその言葉に思えた。

思い返せば、5人の横綱・大関総崩れから始まったこの夏場所。無論、上位陣が壁となって番付の重みを示すことは大変重要である。ただ、今回の大の里の優勝は、一度その壁に跳ね返された若い力が、十分な試行錯誤と鍛錬を積んで乗り越えられた結果であるとして、新しいスターの誕生を純粋に喜んでいいのではないかと個人的には思う。立ちはだかった上位陣も強かった。だからこそあらためて、大の里関おめでとう!先の春場所を制した尊富士に続き、新たな時代を築いていくだろう。

十両以下の土俵も注目 来場所の番付も楽しみに

十両では、ケガから復帰した若隆景が、14勝1敗の好成績で優勝。左右両方からの鋭いおっつけや、切れ味抜群の華麗な出し投げなど、華のある相撲で多くのファンを魅了してやまない若隆景。人気実力共に十分の貴公子の姿を、来場所はいよいよ幕内で見ることができそうである。

さらに、後を追って13勝2敗で今場所を終えた新十両の阿武剋も、大きな存在感を示した。以前筆者が阿武松部屋で言葉を交わした際は「数学が得意だった」と話しており、相撲内容にもその聡明さが垣間見える若き逸材。前に出る相撲で、着々と力をつけてきている。

実力者、そして若い力。共に、各番付で来場所以降の土俵も盛り上げてくれることだろう。すっかり初夏の香りが色濃くなった半袖の千秋楽を終え、まずは明後日の十両昇進力士の発表を楽しみに待ちたい。

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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