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もう待ったなし! 製造業の「値上げ交渉」はどうしたらいい? 営業に教えたい4つの成功ポイント

横山信弘経営コラムニスト
中小製造業にとって「値上げ交渉」は重要課題(写真:イメージマート)

製造業の多くが原材料の高騰や為替変動、人件費の上昇などに直面し、コストの見直しを迫られている。しかも調達の不確実性は高まるいっぽうで、従来の価格を維持するのは難しくなってきている。

当然、持続的に成長するためには「値上げ交渉」が不可避だ。ただ、取引先との関係が深いと心理的な抵抗が生じやすい。営業パーソンが主体的に行動しなければ、いつまでも交渉はうまくいかないだろう。

そこで今回は、このような状況のなかで、どう値上げ交渉すべきかを解説する。値上げ交渉に悩んでいる、とくに中小製造業の組織マネジャーは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。

■中小企業ほど値上げ交渉に及び腰

帝国データバンクの調査(2023年7月)によると、コスト上昇分を価格に反映する「価格転嫁」は、いくらか進みつつあるようだ。価格転嫁率は43.6%まで上昇した。しかし依然としてコストの全額を転嫁できている企業は4.5%にすぎない。

しかも中小企業ほど値上げ交渉に慎重になっているようだ。交渉実施までに3~6か月程度の遅れが生じるケースも見受けられる。

このタイムラグは、中小企業における賃上げを先延ばしする要因にもなっている。労働分配率が高い中小企業ほど、収益が回復しにくくなる。

だからこそ値上げ交渉は「待ったなし!」なのである。とくにまだ十分に対策をしていない中小企業にとっては死活問題でもある。

■2種類の価格の特徴について

とりわけ中小製造業は、恒常的に「価格転換」の意識を持たなければならない。常に値上げ交渉をする姿勢が不可欠だ。

だが、カンタンではない。営業パーソンが正しい知識を身につけ、入念に準備をし、お客様の心理的なハードルを下げる工夫が必要だからだ。

そこで、まずは製造業における価格の種類と特徴に触れたい。今回はシンプルに、既製品、特注品2つのポイントを紹介しよう。

(1)既製品の価格

既製品はあらかじめ大量に生産し、在庫として保有する製品のことだ。価格は主に生産コスト(材料費、労務費、間接費など)、市場競争(類似製品の価格動向)、需要と供給のバランスをもとに決まる。

大量生産によるスケールメリットが働き、1単位あたりのコストを低く抑えやすいのが特徴だ。コストに魅力があるわけだから、値上げ交渉する際は、最も気を遣う対象と言えよう。

(2)特注品の価格

特注品は、お客様の仕様に合わせて一品一品生産する製品だ。そのため既製品と違い、設計段階が長い。開発費用が価格に含まれることも多い。

既製品と比べると値上げ交渉は難しくない。しかし特別な材料や高度な技術を要する場合は、コストが跳ね上がるケースもある。原材料のみならず、外部の技術者を使うなら、人件費も高騰しているからだ。

特注品の値上げ交渉も、丁寧にしていかなければならない。

■値上げ交渉を成功させる4つのポイント

それでは、値上げ交渉を成功させるにはどうしたらいいのか? 4つのポイントを解説しよう。

(1)日ごろの接触でよい関係を維持する

値上げ交渉は一方的な通達では絶対にうまくいかない。相手との信頼関係ができていることが大前提だ。もし単なる通達でうまくいくなら、人間が営業活動をする必要がない。

つまり「日ごろの接触」をして相手とよい関係を維持しておくことが最重要ポイントだ。それがないと、どんなに理屈に合った価格改定であっても難航するだろう。

(2)交渉の準備を徹底する

実際に交渉する際は、事前準備を徹底的にしよう。

交渉前には、相手のニーズや市場の状況をリサーチし、交渉シナリオを準備する必要がある。自社の強みや競争優位性をアピールできるようにし、相手にとってのメリットを強調することだ。

競合他社の価格設定や市場の動向もしっかり把握しておこう。お客様に質問されたら即答できるようにする。特注品であっても同様だ。資料などを使って、丁寧に説明できるように準備しておこう。

(3)根拠を明確にする

値上げ交渉の際には、その根拠を丁寧に説明することが不可欠だ。

「このようなご時世ですから……」

「ご存じの通り、原材料が高騰していますので、ひとつよろしくお願いいたします」

お客様だって厳しいのだ。これぐらいの説明で承諾してくれるような取引先はほとんどない。1回は受け入れてもらえても、2回目以降はない。

コストの上昇や市場の変化、原材料の価格上昇など、具体的なデータや資料を用いて根拠を説明すべき。特注品であれば、その都度、かかるコストの内訳を説明しよう。

コスト削減の取り組みを続けてきた経緯も詳しく説明すれば、取引先の理解も得やすくなる。

(4)代替案を用意する

交渉の場では、単一の値上げ案だけでなく、複数の代替案も準備しておこう。

たとえば値上げ幅を段階的に設定したり、特急料金を設けたりすることで、取引先が受け入れやすい条件を提示できる。選択肢を示すことによって、交渉が円滑に進む可能性は高まる。

なお、調査によるとステルス値上げは、「不快に感じる」という意見が多く見られた。説明不十分だと信用を大きく落とすので、十分に気をつけよう。

(※ステルス値上げ:価格を維持したまま内容量を減らすなどの隠れた値上げ)

■新規開拓の重要性

既存のお客様との関係が強固であっても、それだけに頼りきっていると値上げ交渉はうまくいかない。お互いに遠慮が生じるため、取引継続ありきでの判断が優先されることが多いからだ。

あまりに二の足を踏んでいると、営業パーソンが値上げ交渉に踏み切れなくなっていく。1回目はともかく2回目、3回目は「もう勘弁してくれ」「これ以上、値上げ交渉したらお客様に逃げられる」と営業パーソン自身が嫌がる。

とくに中小製造業で顕著だ。だからこそ日ごろから新たな取引先を探し、主体的に関係を築こうとする努力が大事だ。

新規開拓に力を注げば、値上げ交渉においても心理的に優位に立つ材料が増える。これこそが営業パーソンの存在意義とも言える。

■まとめ

値上げ交渉はカンタンではない。しかし原材料の高騰と調達リスクの高まりを考えれば、やるしかないケースがある。そのためにも製造や調達の部門と連携し、営業パーソン自らが適切な「値決め」ができるようにしておくのだ。

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経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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