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「テレワークを求めたからクビ」 緊急事態の差別に“怒り”の声

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 政府は、飲食店などに午後8時までの時短を要請する一方で、企業などに対してはテレワークの推進を求めて、「出勤者数の7割削減」を目指すとした。

 この間の感染拡大をうけて、多くの企業がすでにテレワークの導入や出勤者数の削減を始めている。

 だが、一部の企業では、正社員にはテレワークを認めるのに、非正規雇用労働者にはテレワークを認めないという差別的対応をしていると“怒り”の告発がSNS上でなされている。

事務系の派遣社員ですが会社の方針で毎日通常出社してます

社員はテレワークです。

派遣会社を通じてテレワークの相談をしたところ「そんなに家にいたいなら辞めてもらってもいい」とのことでした!

私のところも派遣ですが、同じくそう言われました。正社員はテレワーク推奨で派遣は月〜金のフル出勤です。派遣の命はどうでも良いのかと悔しくなります。

https://twitter.com/tahochan1122/status/1347151361889038343?s=20

 これらのツイートの通り、テレワークで差別することは命の差別であり、怒りを覚えるのは当然のことであろう。

 さらに、正社員であってもテレワークを認められない事例や、求めたことを理由としたハラスメントが相次いで起こっており、非常に深刻な状況だ。

テレワークの非正規差別は違法

 非正規雇用労働者だからといって、テレワークで差別するのは違法である可能性が高い。 

 正規・非正規にかかわらず、使用者は労働者に対して安全配慮義務を負っている。緊急事態宣言下で、“不要不急”の仕事のために出勤させて、高い感染リスクに晒すことは安全配慮義務に反するとも考えられる。

 また、非正規労働者に対する不合理な待遇差や差別的取り扱いは禁止されており、テレワークの実施について非正規労働者だからといって差別することは法律で禁じられている(労働契約法20条、パートタイム・有期雇用労働法8条・9条)。

 非正規雇用労働者のなかでも、間接雇用である派遣労働者がテレワークで差別されるケースが多いが、派遣先企業は派遣労働者の安全管理について労働安全衛生法上の責任を負うとともに、派遣先で直接雇用する労働者と同一の業務環境にある場合には、派遣労働者にも同一の安全管理の措置を講じる義務があるとされている。

テレワークを求めたらクビ?

 だが、4月に緊急事態宣言が発令された際には、こうした法を無視する企業があり、多くの派遣労働者がテレワークから排除された。

 派遣会社・エキスパートスタッフの派遣労働者であったAさんの事例を見ていこう。

 Aさんは、株式会社YUIDEAに派遣され、6回の契約更新を重ねて一年以上就業していた。Aさんの働く部門では、昨年3月27日から、YUIDEAに直接雇用されている社員はテレワークに移行した。

 だが、昨年4月に緊急事態宣言が発令され、政府が派遣先企業に対し「派遣労働者についても、派遣先が自ら雇用する労働者と同様に、積極的なテレワークの活用をお願いいたします」との通達を出した後も、YUIDEAはAさんをテレワークに移行させなかったという。

 Aさんはその通達を示しながら、「派遣社員にもテレワークをさせてほしい」とYUIDEAに要望したが、Aさんが派遣社員だからという理由で拒否されたという。そればかりか、感染リスクを下げるためにAさんが2日間の休みを取得したところ、YUIDEAは、「テレワークにこだわったから」「最短で辞めてほしい」などとして、派遣切り(労働者派遣契約の中途解約)したという。

 さらにAさんは派遣会社のエキスパートスタッフからも6月末で雇い止めされ、テレワークを望んだだけでクビにされた形だ。

テレワーク差別に立ち向かう方法

 冒頭で紹介した通り、今回の二度目の緊急事態宣言発令に際しても、テレワークから非正規雇用労働者を排除する動きがすでに始まっている。

 また、正社員からも、使用者や上司からテレワークへの移行を妨害されたり、テレワークをすると嫌がらせをうけたりするという相談が数多く寄せられている。

 だが、コロナ感染拡大が著しい今、テレワークできるかどうかは命にかかわる問題であり、テレワークでの差別は許されることではない。

 では、私たちはテレワークについての非正規差別をどのようにやめさせることができるのだろうか。

 第一に、テレワーク差別の実態を広く告発して可視化する方法がある。すでにTwitter上では、「#テレワークできない」「#テレワーク差別に抗議します」などというハッシュタグをつけたツイートが広がり始めている。

 この間、ハッシュタグをつけて多くの人が一斉にツイートするTwitterデモが様々なイッシューで成果を上げているが、テレワーク差別についても多くの非正規雇用労働者がSNS上で繋がって声を上げれば、企業や国も更なる対策を迫るプレッシャーになるだろう。

 第二に、個人加盟の労働組合に加入して勤務先の会社にテレワークを要求する方法がある。労働組合には団体交渉権と団体行動権(ストライキ権)が保障されており、テレワークを要求してそれらの権利を行使することが可能なのだ。

 具体的には、テレワークへの移行を要求して団体交渉を実施し、勤務先の会社が認めなければストライキを行うと通告することができる。会社側がストライキを回避するために、労働者側の要求を認めることもありうる。また、職場でたった一人でも要求できるが、職場で複数人が労働組合に加入してストライキを予告すれば、会社との交渉力は格段に高まり、テレワークへの移行を認めさせることのできる可能性も大きくなるといえる。

 第三に、もしも個人で会社にテレワークを要求して、報復的な派遣切り・雇い止めに遭いそうになった場合、それは不当解雇にあたることを強調しておきたい。とりわけ非正規雇用労働者は声を上げると、会社が報復的に雇い止めを行うケースが多々あるが、それは違法であり、前出の個人加盟の労働組合で交渉すれば撤回させられる可能性もある。

参考:怒れる「貧困女性」たち 「使い捨て」への告発がはじまった

 最後に、今週末に、個人加盟の労働組合・総合サポートユニオンが実施する「緊急事態宣言下のテレワークに関する集中相談会」を紹介しておこう。勤務先がテレワークに移行させてくれないとか、テレワークに移行できたがその労働条件に不安があるという方は、ぜひ相談してみてほしい。

テレワーク緊急相談ホットライン

「緊急事態宣言下のテレワークに関する集中相談会」(主催:総合サポートユニオン)

電話相談:1月9日(土)13時〜17時、1月10日(日)12時〜15時、1月11日(月・祝)13時〜17時:0120-333-774(通話・相談無料)

メール相談:常設(順次返信します): info@sougou-u.jp

常設の無料労働相談窓口

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

仙台けやきユニオン 

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団 

03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団 

022-263-3191

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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