怒れる「貧困女性」たち 「使い捨て」への告発がはじまった

写真はイメージです。(写真:アフロ)

会社に「権利行使」をする女性非正規たち

 コロナ禍により、非正規の雇い止めや派遣切りが拡大している。4月から3ヶ月の有期雇用の契約を締結・更新した労働者が6月末で不更新となるケースが多いとみられ、厚労省によれば、5月25日から6月19日までの1ヶ月弱の集計で、非正規の解雇や雇い止めの相談は約8000人に達し、6月中には1万人に達する勢いだ。

 こうした中、個人加盟の労働組合・総合サポートユニオンによれば、コロナ関連の労働相談において、会社に対して権利を行使するまでに至る労働者には、女性の労働者が多い傾向があるという。同組合では、コロナ禍で組合に加入した新規組合員のうち女性は7割にのぼる。そのほとんどが非正規雇用だ。

 なぜ彼女たちは立ち上がったのだろうか。本記事ではその理由を考察しながら、実際に組合でたたかっている女性の背景を紹介していきたい。

女性非正規たちが立ち上がる背景とは

 非正規雇用には誤解が蔓延している。非正規問題は「男性が深刻」だという「神話」が未だに日本社会には根強いことがその最たるものの一つだ。

 一般的に想定されている大規模な雇い止めや派遣切りのイメージも、10年前のリーマンショックの際に焦点化された製造業の男性ではないだろうか?

 しかし、いまやサービス業を中心とした女性労働者の雇い止め・派遣切りが深刻な問題となっているのである。

 その理由は、第一に、コロナ禍の直撃を受けているのが、客足減少や営業自粛の影響を非常に受けやすい飲食・小売などのサービス業である。そこで勤務している非正規労働者は、圧倒的に女性の割合が高い。これらの業界でも、非正規は真っ先に切られてしまう。

 第二に、女性非正規が声を上げている背景として、自身が家計の主たる担い手になっているケースが多いということが考えられる。労働相談の中でも、シングルマザーのような単身世帯であったり、共働きであっても配偶者が低賃金の正社員や非正規雇用であったりするなど、「家族の収入があるから、自分の収入がなくなっても生活は大丈夫」とは言えない状態にある女性が多いのだ。

  こうした中、会社が雇用を守らず、家族にも頼れない中で、会社に対して団体交渉を行うしかなく、意を決して労働組合で立ち上がる女性非正規たちが増加していると見られる。実際に、総合サポートユニオンで声をあげた二人の女性派遣労働者の事例を見てみよう。

緊急事態宣言で休業、営業再開後もシフト激減、さらに派遣切り

2年9ヶ月勤務してきた職場が突然の休業

 Aさん(40代)は、都内有数のターミナル駅付近にある大手百貨店の地下に店舗を構える和菓子屋に勤務している。1日8時間・週5日のフルタイムでシフトに入り、勤続期間は既に2年9ヶ月に及び、実質的な職場のリーダーの業務を担っている。

 ただし、Aさんは正社員ではない。株式会社ニキスタッフサービスという派遣会社の派遣社員であり、同社と2年9ヶ月の間、3ヶ月ごとの不安定な雇用契約の更新を続けていた。

 Aさんはこれまでシングルマザーとして、一人で子どもを育ててきた。子どもは既に独立したが、現在は年金生活者である88歳の父親と生活し、自身の手取り約20万円で父親を養いながら生活している。

 そんなAさんをコロナ禍が直撃した。今年4月の緊急事態宣言の実施により、都内の百貨店が一斉に休業となり、Aさんの勤務先の和菓子屋も休業となってしまったのだ。派遣会社は、休業は「不可抗力」であり、会社都合の休業補償をする法的義務はないとして、休業補償を拒否した。

 そのとき、Aさんは頭が真っ白になってしまったという。やむなく、残っていた有給休暇を全て使い切り、なんとか乗り切ることにした。しかし、これからは病気や家族の用事があっても、欠勤するしかなくなってしまうというリスクを負うことになってしまった。

営業再開後に待っていた苦難…収入激減、そして派遣切り

 5月中旬、ようやく百貨店は営業を再開した。ところが、本当に大変なのはこれからだった。コロナ感染対策の影響で来客が減少したため、シフトが大幅にカットされてしまったのだ。

 これまでは月20日間勤務していたところ、5月の出勤はわずか7日間だけ。しかも、店舗の営業時間も感染対策で縮小になったため、1日あたりの給与も減少。このシフト削減についても、派遣会社は一切補償を認めなかった。有給休暇はもう残っていない。5月の収入は絶望的だった。

 そして、追い打ちをかけるように、Aさんは6月末での和菓子屋との派遣契約の終了を言い渡された。同時に、派遣会社との雇用も6月末で切られると伝えられた。4月から3ヶ月間、休業補償もされないまま、派遣会社からも放り出されてしまうというのだ。

 コロナ禍の中で雇い止めをされたら、次の仕事が決まるとは思えない。求人すらほとんどないのが現状だ。Aさんは、言い知れない不安や焦燥感に駆られる毎日を過ごすこととなった。

 (なお、派遣会社のこうした対応は法的・社会的に問題がある。詳しくは下記の記事参照)。

【参考】「派遣切り」の多くは違法? 「本当」は厳しい派遣法を読み解く

'''団体交渉の結果、全派遣社員の休業補償が0から6割へ'''

 Aさんが派遣会社に対して声を上げる覚悟を決めたきっかけは、和菓子屋の社員や他の派遣会社からの派遣社員が全員、休業手当が払われていたことだった。他の会社では払われているなら、法律上の義務がなくても、この会社だって声を上げれば払わせることができるはず、そう思ったのだ。

 Aさんは、個人加盟の労働組合・総合サポートユニオンに相談し、派遣会社とたたかうことに決めた。組合員となり、団体交渉をしながら、雇用調整助成金を活用させて、休業補償全額支払いと雇用継続を求めた。

 最初は一切補償を拒否していた派遣会社は、2回に渡る団体交渉の結果、対応を変えた。Aさんに有給休暇の残日数を戻したうえ、Aさんのみならず、同様に休業で給与の減少した同社の派遣社員に対して、法定上の「平均賃金」ではなく、「日額」の6割で休業補償を払うことを約束した。

 緊急事態宣言での休館中はもちろん、5月中旬以降のシフト削減期間も対象となるという。Aさんが声をあげたことにより、今回新たに休業補償を支給されることになった同社の派遣社員は、約50人に及ぶ。

 Aさんは「道が開けたと感じました。私が声を上げて、他の社員にも補償が支払われるのが嬉しかったです。報われたように感じました」と言う。しかし、休業補償は全額ではない。6割では、生活は苦しいままだ。自身の雇い止めも撤回されていない。「会社とたたかっていきたい」。Aさんはそう決意を固めている。

担任まで任されている保育士を「派遣だから問題ない」と派遣切り 

正社員時代の長時間残業やパワハラを経て、あえて選んだ「派遣」

 次に紹介するBさんは、都内の認可保育園で勤務する20代の派遣労働者だ。

 Bさんにとって、実はこの職場は3つめだ。これまでの2つの職場の保育園では、正社員として働いていたが、あえて派遣を選んだ。前職の2社があまりに過酷な労働条件だったからだった。

 一つ目の保育園は、子どもへの虐待やパワハラが蔓延し、残業代は全く払われず、行政の監査に、偽造したタイムカードを提出するほど悪質さを極めていた。給与も低く、正社員にもかかわらず手取りは月14万円ほど。Bさんは1年で退職した。

 2つ目の保育園は、園の立ち上げから3年半働いた。続けられたのは、同僚たちがいい人たちばかりだったからだ。しかし、立ち上げ当初に10人いた同僚たちは、3年のうちに一人を残して全員退職してしまった。あまりの人手不足で、業務が非常に過剰になっていたのだ。

 園長は「私の会社からの評価が下がる」と残業を怒るが、そもそも書類仕事が終わらない。昼食すら食べられない日も多く、終電になるまで残業をすることも多かった。園長に怒られないよう、やむを得ず同僚たちと深夜にこっそりと残業を繰り返した。当然、残業代は払われず、手取りは月20万円以下。仕事ができない自分たちが悪い、そう思い込まされていた。

 4年目、将来を見据えてパートナーと引っ越すことになったことを理由に、退職せざるをえなくなった。引越し先からの長時間の通勤には耐えられなかったからだ。パートナーがBさんを園から引き離すために、あえて遠い地域を選んだことを知ったのは、後になってのことだった。

 そんなBさんが三社目として選んだのは、派遣会社ウィルオブ・ワークでの派遣社員としての勤務だった。派遣なら残業がなく、勤務時間に流動的なシフトの多い保育園でも、毎日同じ時間帯で働けると聞いた。また、もし派遣先がひどい職場に当たってしまっても、別の派遣先に変えられ、安定して働けると期待したのだ。この時点でBさんは、まさか派遣会社から雇用を切られることになるとは、予想だにしていなかった。

クラス担任なのに、新年度開始3ヶ月で派遣切り

 派遣会社から紹介されたのが、社会福祉法人高砂福祉会が経営する、足立区立の認可保育園だ。Bさんの現在の状況は、筆者のこちらの記事でもしている。3つ目の案件として出てくる派遣の保育園の事例の「Aさん」が本記事のBさんだ。

【参考】保育士の「ストライキ」が続出 コロナ禍の「税金着服」に怒りの声

 昨年度から始めた同園での1日8時間、週5日の勤務には、そこまで不満はなかった。ところが、コロナ禍によって、直接雇用、派遣社員を問わず、職場の非正規職員に休業補償が6割しか払われないという問題が発生した。当初は、派遣社員には休業補償が払われないと言われたり、相手の会社に聞くようにと派遣会社と派遣先との間をたらい回しにされたりしたという。

 そこに、Bさんの派遣契約が6月末で切られることになってしまった。Bさんは昨年度こそ担任が付いていなかったが、今年度からはクラス担任を任されるようになっていた。それなのに、新年度が始まってわずか3ヶ月で派遣契約を打ち切るというのである。

 その理由について、派遣会社は「コロナによって自宅で子どもを見る保護者がいるので、保育士が余るからと派遣先から言われた」、派遣先は後から「コロナとは関係なく、新しい直接雇用の保育士を採用したから」とちぐはぐな回答をしている。

 担任なのに3ヶ月で契約終了することについて、利用者との信頼関係を損ねるのではないかと尋ねても、派遣先の高砂福祉会は、「派遣だから問題ない」とはっきり言い放っている。

 Bさんの契約解除については、園児や保護者に対して説明する機会もなんら与えられていない。

 そして、切られたのは高砂福祉会との派遣契約だけでなかった。派遣会社のウィルオブ・ワークは、新たな派遣先を探すことも一切しようとせず、Bさんをあっけなく雇い止めした。7月からBさんは突然、失業状態に放り出されてしまうことになった。

「おかしいことにはおかしいと言わなければ」

 Bさんは、パートナーの男性とほぼ半々で、なんとか生活費を支え合っている。パートナーは正社員ながら、収入は手取り月20万円を割り込んでおり、Bさんのほうが収入はやや多いほどだ。そんな中での休業補償カットや派遣切りで、結婚や子育てなどの将来が、一層不透明になってしまった。

 結局、Bさんは総合サポートユニオンに相談し、派遣先と派遣会社に団体交渉を申し入れることにした。

 組合は派遣切りの理由について、派遣会社の説明を信じるなら、税金で毎月払われる運営費からBさんの賃金分を保育園が「着服」するためだが、休業補償カットに抗議したBさんを排除するための可能性もあると睨んでおり、いずれにせよコロナ禍を理由とした派遣切りと言えるだろう。

 組合の要求の結果、Bさん自身を含む職場の非正規全員に休業補償が全額支払われることに決まった。ただ、派遣切りは撤回されておらず、Bさんは引き続き、派遣会社に撤回を求めていくつもりだ。

 Bさんが今回声をあげたのは、経済的事情だけではない。Bさんには、前職まで労働条件について何もできないままだったことへの「後悔」があったという。

 あのとき声を上げていれば、前の職場で、いまでもみんなで働けていたかもしれない。同じように、今回休業補償について何も言わなければ、今後もずっとブラック企業や不安定な非正規雇用で働き続けることになってしまうのではないか。「おかしいことにはおかしいと言わなければいけない。ユニオンの存在を知ったことで、そのことに確信を持てた」。Bさんはそう話している。

コロナ禍で非正規労働者を支援する労働組合への支援・相談を

 AさんもBさんも、二人とも派遣社員でありながら、家計の主たる担い手であり、配偶者の「補助」として働いているのではない。派遣会社が休業補償を払わなかったり、雇い止めをしたりすることで、彼女たちや家族の生活は一気に不安定になってしまった。

 そんな中、労働組合に加盟したことで、雇い止めの撤回こそまだ交渉中だが、会社に対して3ヶ月分の休業補償の増額や全額支払いを認めさせることができた。

 派遣会社の責任と、労働組合でたたかう意義について、筆者はこちらの記事も書いていているので参照してほしい。

【参考】無責任な派遣会社は「社会悪」 国の呼びかけも法律も無視して「派遣切り」が横行

 しかも、AさんもBさんも、同じように非正規で働いている自分以外の周りの人にまで、増額や支払いの影響を広げることができている。一人が立ち上がって労働組合でたたかうことが、他の大勢の生活を助けることにつながるのである。

 このように、国や家族を頼れない中で、非正規雇用の労働者を支える労働組合の役割が注目されている。今、まさに困っている非正規のための労働相談も受け付けている。ちょうど下記の日程でホットラインも実施予定だ。ぜひ相談してみてほしい。

(なお、Aさん、Bさんの加盟する総合サポートユニオンのように、個人加盟の労働組合の多くは、少人数の組合員の組合費や、一般市民からの寄付によって成り立っている。正社員が大勢加入している大企業の企業内労働組合と異なり、財政上の基盤が安定的とは言い切れないのが実態だ。労働組合や支援団体への社会的な支援の広がりにも期待したい)。

コロナ禍の休業・解雇・生活相談ホットライン

日時:7月5日(日)10時~20時

番号:0120-333-774(相談無料・通話無料・秘密厳守)

対象:全国の労働・生活相談を抱えている方。学生や外国人の方も対応可。

参加団体:さっぽろ青年ユニオン/仙台けやきユニオン/みやぎ青年ユニオン/日本労働評議会/首都圏青年ユニオン/全国一般東京東部労働組合/東ゼン労組/総合サポートユニオン/首都圏学生ユニオン/ブラックバイトユニオン/NPO法人POSSE外国人労働サポートセンター/名古屋ふれあいユニオン/連合福岡ユニオン/反貧困みやぎネットワーク/反貧困ネットワーク埼玉/反貧困ネットワークあいち

常設の無料労働相談窓口

NPO法人POSSE 

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

仙台けやきユニオン 

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団 

03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団 

022-263-3191

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。