まるでスポンジ?でも和菓子!中尾清月堂さん「ふくさ餅」の粒あんと求肥は溢れるような瑞々しさ
「袱紗」という文字。なんと読むかご存知でしょうか。
正解は「ふくさ」。冠婚葬祭の際に、お金を入れたご祝儀袋やご香典袋を包む一枚の布のことを申します。勿論シーンによって色合いは異なりますが、お持ちではないという方もドラマや他の方が使用している場面に遭遇したことがあるかと思います。
実は、和菓子の世界にもその名もまさに「ふくさ」というお菓子が存在するのです。
でこぼことしたあまりにもインパクトの強い外観は、スポンジのような…抹茶やほうじ茶、黒糖味なんかもございますが、オーソドックスなものほどスポンジのようにも見えます。材料そのものはどら焼きの皮とほぼ同じなのですが、配合や作り方が異なるのです。ざっくり申しますと、どら焼きやカステラはふんわりと仕上げるために適度に空気を含ませるのですが、ふくさの場合はふっくらと仕上げるために強かなコシ、すなわちグルテンを出さなくてはならないので、粉とお砂糖を合わせ、そこへ卵を加えます。
一般的などら焼きやスポンジケーキと逆なんです。蒸しあげるように焼いた一枚生地の中に、あんこなどを乗せて四方から折りたたむようにして完成です。
さて、ふくさを作っていらっしゃるお店は多々ございますが、今回は創業1870年の老舗和菓子屋さん、富山県「中尾清月堂」さんの「ふくさ餅(黒つぶあん)」をご紹介。
一見水分量が少なそうにも見えますが、全くぽそぽそしていないんです。むしろしっとり…!
確かにほろほろと破片がいくつか落下することもあります。ですが、中に包まれているとろりと非常に緩やかなこし餡と求肥と一緒にいただくと驚きの一体感。咀嚼した瞬間、皮の隙間ひとつひとつへあんこが染み込んでいくよう。今にも内側から流れ出してきてしまいそうなほどとろりとした粒餡と求肥にはなかなか出会うことがありません。その滴るような瑞々しさは味わいにも反映されており、そのまま喉を流れていっても違和感のないような優しく慎ましやかな甘味。たしかに素朴な風味と豊かなあんこのうまみは実感できるのですが、なにか一味違うのです。おそらく、いわゆる小豆のあんこだけではなく、その中に白手亡の白餡も配合されているのではないでしょうか。
そのため、小豆餡のコクが飛び込んできても、一呼吸おいてさらりと引き際の良いあっさりとした後味へバトンタッチ。あんこの味わいが二段階になっているような、上品であり不思議な余韻です。たっぷりのごろりとした大粒の丹波大納言は、こんなにきれいに形を保っているにもかかわらず、皮の食感は皆無で舌先で潰せてしまうような柔らかさ。こちらの素朴な風味も、中尾清月堂さんの粒餡のポテンシャルの高さかと思います。
そのインパクトの高さ故に、売り場に並んでいたら一瞬戸惑ってしまうかと思います。ぜひそこで一歩踏み出して、あんこと生地のコンビネーションを様々なふくさで味わってみてくださいね。