「テストの結果だけに注目することがないよう」(萩生田文科相)は、子どもたちを救うかもしれない
小学校の学級編制標準を現行の40人から35人に引き下げるにあたって、テストの点数など目に見える効果を求める声もある。そこに「テストの結果だけに注目することがないように」とクギをさしたのが、萩生田光一文科相だ。これは文科相としては最大の功績になるかもしれない。
35人に引き下げるための義務標準法改正案にかんする審議が、3月12日から衆議院文部科学委員会(衆院文科委)で始まっている。全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果で35人学級の効果を評価して教育内容の充実に活用すべきではないか、との質問を自民党の馳浩議員から受けた萩生田文科相は次のように答えている。
「今回、40人を35人に引き下げるときに一部、エビデンスを声高に主張する方がいた。私は、小学校の教育現場で平均点が上がることがエビデンスなのか、みんなの理解度や習熟度が上がることがエビデンスなのか、それだけではないのではないかと一生懸命申し上げてきた」
35人学級を導入するための2021年度予算について、麻生太郎財務相と萩生田文科相の大臣折衝が行われたのは昨年12月17日のことだった。小中学校での少人数学級の実現を目指した萩生田文科相だったが、麻生財務相に小学校だけでの導入に抑え込まれた。とはいえ、約40年ぶりに学級人数上限を引き下げることを財務相に認めさせたのは、快挙だった。
その次の日の会見で麻生財務相は、「40人学級、団塊の世代なら60人学級ですからね。あのころの人の程度が極めて悪くて、35人学級のほうが程度がいいという証明をしてもらわないと具合が悪いんじゃないですかな」と述べている。押し切られた悔しさもあるのか、35人学級の効果を目に見えるかたちで示せ、と言っているのだ。
12日の衆院文科委での馳議員の質問も、こうした麻生財務相発言の延長線上にあるといえる。35人学級の効果を目に見える全国学力テストの点数で評価しろ、というわけだ。
それに対して萩生田文科相は、全国学力テストの点数だけで少人数学級の効果を評価することはできない、と反論したことになる。「テストの結果だけに注目することがないようにお願いしたい」と明言もしている。麻生財務相をかなり意識しているのではないかともおもわれる。
35人学級の効果を全国学力テストの点数で評価するとなると、子どもたちや教員はいっそうのテスト対策を迫られることになるだろう。いまでも全国学力テストでの順位を上げるための対策で通常の授業に影響がでるなど、テスト対策への問題が指摘されている。
衆院文科委での議論しだいでは、そこに拍車をかけかねない。テストで教育の効果を測ろうとする、点数至上主義をさらに助長することにもなる。
そうなると、子どもたちも教員も、テスト対策に追いまくられる。点数をとるためのテクニックばかりが優先されて、学ぶことの本質が見落とされる大きなデメリットがそこにはある。
そこに歯止めをかけるきっかけになりそうなのが、萩生田文科相の発言である。萩生田文科相は、テストの点数だけでなく、不登校が減ることやクラスの仲が良くなることなどもエビデンスだと述べ、「トータルで子どもたちのためになっているか」という大きな視点から評価することが大事だと強調している。
この発言をきっかけに、35人学級にかんする衆院文科委での議論が「トータルで子どもたちのためになっているか」に重きをおくものになってほしい。そこから、テストの点数だけで評価してしまう日本の教育そのものを変え、ほんとうに子どもたちのための教育につながっていくかもしれない。