なぜビジネス英語で「Had better」や「Why」は避けるべきか:「超速・英語脳のつくりかた」
何歳になっても英語は難しい。私は米国大学院に2年留学し外資企業(マッキンゼー)に14年間在籍し、米国の大学にも4年間勤務した。仕事で英語は一応使えているが、苦手意識は消えない。さすがに会議や交渉事、読み書きは大丈夫だがブレークやパーティの早口の雑談になると話が追えなくなることがままある。映画でも早口のスラングはさっぱりわからない。米国在住中は日本語を一言も使わない日々が続き、英語で夢を見ることもあった。だがそれだけ英語漬けの生活に身を置いてきても英語はなかなか上達しない。なんでこんなに英語は難しいのか。
自分自身の能力や努力の足りなさはいうまでもないが、最近、思うのが中高校時代に間違った思い込みをしてしまったことの弊害だ。実務でラーニングは続けていても、その前にアンラーニングが必要だ。特に敬語表現と英文での単語についての考え方を変える必要があると思う。
〇やっとすっきりさせてくれた一冊の本
最近、知人の勧めで「超速・英語脳のつくりかた」(葵崎昌莉著、大学教育出版)という本を知った。読んでみたら先に述べたような積年の私の疑問がつぎつぎに氷解した。これはなかなかすごい本である。この年にして目からうろこがたくさん落ちたが、いくつか紹介したい。
〇発音は単語より慣用句でセットで覚えよう
初心者のうちは知らない単語が多い。だからまずは単語を覚えるしかない。だが、英語の難しさは単語だけ覚えても読み書きはできても聞き取りができないところにある。そもそも英単語はトリッキーだ。一つの単語がたくさんの意味を持ち、文脈で意味も変わる。逆になる場合すらある。例えばTOO BADを「素晴らしい」という意味で使う場合があるのはご存じの方が多いだろう。前後のコンテクストとともに慣用句をたくさん丸ごと覚えてしまうのがいい。
同じ理屈で個々の単語にこだわっていると聞き取れない。そしてかっこよく発音できない。個々の単語の発音は簡単だし、受験英語でも覚えた。だがビジネス英語ではほかの単語とくっついて単語が単語でなくなる・・単語の途中の音がどんどん飛んで消えたり、単語の一部の音が次の単語と融解してほかの音に化ける。
例えば、皆さんがご存じの表現の「everything's gonna be alright(きっと、うまくいく)」は日本語風には「エブリシン・ガナビ・オーライ」と聞こえる。まったく初めて聞いた人にはこれが「every thing is going to be all right」という意味だとは分からない。よって「ガナビ―は将来こうなるという意味だ」と耳に覚えさせ、同様に「ワナビー (wannabe) は、want to be(…になりたい)を短縮したものだ」と覚えておく。
〇英語の歌では単語が融けてなくなる!
ちなみに英語の歌はこれの連続だ。歌ってみると英単語がいかに単語でなくなってしまう(融けてしまう)かよくわかる。僕はあるアマチュア合唱団に所属しているのだが、そこにピンキーの今陽子さんがゲストでいらっしゃって英語の歌のコツを教わったことがある。彼女は「英語の歌は単語をちゃんと読んだら歌えない」という。当時の楽譜を見返すと英語の歌詞のあちこちが線で消してあり、かわりにカタカナが書いてある。例えばカーペンターズのスーパースターは有名な名曲だ。簡単な単語ばかりでゆっくり唄えそうに思える。しかし歌詞を追うと必ず崩れて歌えない難曲に化ける。たとえばサビのところの「Don’t you remember, you told me you loved me baby?」をまともに発音するとメロディラインから激しく遅れる。ここは「ドンチュ・リメンバ・ユートーミー・ラーミー・べイビー」と発音して歌う。要は単語の存在を忘れ丸ごとフレーズを覚えればいい。私は「『トーミ―ラーミー』が肝だ。『ヤンボー・マンボー』みたいなものだ」と自分に言い聞かせて覚えた。そんなピンキーの助言を抱いて仲間とサントリーホールのコンサートで歌った日が懐かしい。
こうしたコツは学校英語では全く教わらなかったが、さきほどの「超速・英語脳のつくりかた」の前半ではまさにこの問題に焦点を当てている。単語を連続して慣用句で覚えるハフタメソッドという方法が提案してありなるほどと唸った。たとえば「the total projectsのtotalは藤堂となると連想すればいい(早く話すとトータルでなくなり、確かに「藤堂」に聞こえる)」という解説はさっきの「トーミ―・ラーミー」と同じ着眼である。なるほどである。
読み書きの英語は単語の積み上げでできている。受験英語が役に立つ。しかし聴き言葉、話し言葉はそういうとらえ方自体が間違っているのかもしれない。慣用句、あるいは3,4個の単語のセットをひとつの単語とみなして覚えた方がいいだろう。
〇英語に敬語はない、という大きな嘘
もう一つ、実務の英語で気を付けるべきは敬語である。もう35年も前の話だが、留学を終えて転職しマッキンゼーに入って驚いたのが英語の敬語の難しさである。ビジネスレターを書いてエディターにみてもらうといつも真っ赤になって帰ってきた。
米国人に面と向かっての会議ではストレートにどんな意見を言って何も問題はなかった。だから手紙でも「私はこう思う、なぜなら〇〇だ。だからあなたには3つの選択肢がある」とかストレートに書いていた。だが「論文ならそれでいいがビジネスではストレートな書き方は間違い」と正された。たとえば「I think you had better」はとても失礼な表現である。「I would appreciate it if you could .. 」というもって回った表現に変えるのが鉄則だと。直截さこそ英語の世界と考えていた私にとっては逆カルチャーショックだった。
〇ビジネスでは、HAD BETTERよりSHOULDをつかうべし
高校の英語の授業では多くの人が「HAD BETTERはSHOULDより柔らかな表現だ」と習うだろう。私も同じでなるべくSHOULDを使う表現を避けていた。しかし、実は逆だった。
「超速・英語脳のつくりかた」によると(108ページ)主張の強さからいうと実はHAD BETTERは最も強い言い方で、次がMUSTらしい。それからHAVE TO、そしてYOU ARE SUPPOSED TO。その次がYOU NEED TO、その下が実はSHOULDだった。これは驚きである。高校生の時から「SHOULDやMUSTよりもHAD BETTERをつかったほうが丁寧だ(それこそHAD BETTER!)」と信じていたのに!?
ちなみにSHOULDは意外にもやんわりお勧めする程度の表現らしい。もっと丁寧で婉曲なのは「YOU MIGHT WANT TO」だそうだ。なるほどカッコいい。まるで女王陛下に向かって執事が言いそうな表現だ。ありがとう、葵咲さん(この本「超速・英語脳のつくりかた」の著者。海外駐在の長いビジネスウーマンだから実務家への助言が的確だ)。これからは私も年相応に柔らかく「YOU MIGHT WANT TO」に乗り換えよう。
〇ビジネスでWHYを発するのは失礼!
「WHY DO YOU THINK SO?」は僕がマッキンゼー時代に外国人の部下によく使っていた表現だ。乱暴でも丁寧でもなくニュートラルな表現だと思っていた。そもそも中学英語の教科書で習った5W1Hの一つである。しかし、この本によるとビジネスでWHYを使うときつい表現――問い詰めて責めている感じ――になるらしい。やばい!マイケルにもボブにもジェニーにもWHYと問い詰めて悪いことをしていた。俺は知らなかっただけだ。ごめんなさい。
正解は「WHAT MAKES YOU THINK SO?」だ。言われてみたらよく聞く表現だ。そういえば、たまに私も「WHAT BROUGHT YOU THAT SOLUTION?(なんであんな方法をとったの?)」とひどい失敗をした部下には聞いていた。あまり責めるとかわいそうだと思ったからだ。それと同じ理屈だが普段からそういう表現を使うべきだった。
ちなみにこうした表現は英語脳を作るコアになる。「何があなたをそう考えさせるに至ったのか。私はその何か(根源的元素)を知りたい。決して貴方(の人格や能力)そのものに疑問があるわけではない」という感じはまさに英語っぽい。罪を憎み人を憎まないという考え方にも通じる。これも、よっしゃ肝に命じよう。
〇中級から上級へ
英語教本の多くは初心者向けだ。中級から上級、特にビジネスの実務で使う人に向けた解説書は数少ない。本人たちも自分でたくさんの英語に触れたらなんとかなると思いがちだ。しかしそこには落とし穴がある。受験英語で学んでしまった間違った常識や思い込みも悪さをする。今回読んだ「超速・英語脳のつくりかた」は数十年ぶりに読んだ英語の学習本だったが、日本人の多くが陥りがちな落とし穴を丁寧に解説してありとてもためになった。ぜひ一読をおすすめしたい。