ベレーザが皇后杯4連覇!リーグ女王・浦和との激闘で貫いた攻撃哲学、苦しいシーズンで掴んだ成長の証
【4連覇達成】
2020年12月29日に行われた皇后杯決勝。ディフェンディングチャンピオンの日テレ・東京ヴェルディベレーザと、今季のなでしこリーグ女王の浦和レッズレディースの一戦は、壮絶な打ち合いの末、4-3で勝利したベレーザが大会4連覇を達成した。
昨年始めにオープンした京都府のサンガスタジアムは、客席とピッチが近い。試合後は力を出し尽くした選手たちが発散するエネルギーと、名勝負の余韻に浸る観客の熱気が充満していた。
今回の激闘の背景には、浦和とベレーザがこれまでの対戦で積み重ねてきた“因縁”がある。両者は直近の2シーズンで6度対戦し、結果はベレーザの4勝2敗。昨年の皇后杯決勝は、リーグ女王のベレーザが決勝で浦和に1−0で競り勝ち、国内タイトルを総なめにした。
一方、今季は森栄次監督の下、6季ぶりのリーグ女王に返り咲いた浦和に対し、ベレーザは3位と悔しい結果でリーグを終えている。今季のリーグ戦の対戦成績は1勝1敗だった。
同カードは1試合平均3.5点と多数のゴールが生まれてきたが、今年の決勝戦はそれを上回るシーソーゲームとなったのだ。ベレーザのFW小林里歌子は、「(合計で)7点入る試合はこれまでになかったので新鮮でしたし、2点追いつかれて、取り返して取られて…という展開も初めてでした」と、これまでとは異なる勝利の味を噛み締めるように語った。
立ち上がりにペースを握ったのは浦和だった。エースのFW菅澤優衣香と、ベレーザ戦で勝負強さを発揮してきた20歳のFW高橋はなの2トップが、立ち上がりからフルスロットルでゴールを狙う。9分にはDF清家貴子のクロスに合わせた菅澤のヘディングが右ポストを叩いた。
しかし、最初の決定機をものにしたのはベレーザだ。前半11分、小林のパスをゴール前で受けたMF遠藤純が左足を振り抜き、ゴールネットを揺らした。
攻守が目まぐるしく切り替わる中、浦和は20分すぎに清家が負傷退場を余儀なくされる。右サイドのキーマンを失ったが、ボランチのDF佐々木繭が同ポジションに入り、MF水谷有希をボランチに投入して仕切り直すと、33分には高橋が決定機を迎えたが、シュートは左ポストに阻まれた。一方、ベレーザは41分にFW宮澤ひなたがCKのこぼれ球に詰めてリードを2点に広げる。しかし後半、53分にMF栗島朱里のフィードに右サイドから抜け出した高橋がニアサイドの上を抜く強烈なゴールで1点差に迫ると、69分には、MF塩越柚歩の浮き球パスを受けた菅澤が技ありのループシュートで同点に追いついた。そして、試合はラスト20分間でさらに動きを見せる。
追いつかれた4分後、ベレーザはDF清水梨紗のスルーパスを受けた小林が決めて、再びリード。しかし、浦和は78分に“最強の切り札”を投入。経験豊富なFW安藤梢が積極的な仕掛けで流れを作り、86分にはMF猶本光の絶妙のパスを引き出して右隅に決め、3-3に追いついた。しかし、喜びも束の間、88分には、ベレーザが再び勝ち越す。MF木下桃香のドリブル突破から、ゴール前に走り込んだ小林の力強い右足のスイングがゴールを揺らした。これが決勝点になった。
ピンチの後にチャンスあり――。2度のビハインドを覆した浦和の粘りを、ベレーザの執念が上回った。終了を告げる笛が鳴った後、ベレーザは今季での引退を発表していたGK西村清花の下に、全員が駆け寄って喜びを分かち合った。
スピード感溢れるプレーと運動量で右サイドを活性化した清水は、「本当にいいチームと試合ができて良かったです」と、浦和へのリスペクトを口にし、試合後のオンライン取材では試合をこう振り返った。
「試合の中で2回追いつかれたのですが、ネガティブにはならず、3点目を(86分に)取られたあとは時間がなかったのですが、『もう一回(点を取りに)いってやろう』という気持ちが出ていました。気持ちの部分でも相手を上回ることができたのではないかと思います」
今季、11年目でキャプテンを引き受けた清水の表情には、以前とは異なるリーダーの風格が刻まれている。ベレーザは昨年からメンバーの半数近くが替わり、避けては通れない“産みの苦しみ”を味わった。清水自身もケガがあり多難なシーズンだったが、皇后杯では5試合で1ゴール4アシストと、攻撃的サイドバックの真価を示している。鮮やかな復活の背景には、揺るぎない思いがあった。
「(ケガから)復帰してからは、グラウンドの中で表現することを意識してきました。『頑張ってるな』と(チームメートから)思ってもらえるキャプテンになりたいし、グラウンドで一番頑張っている選手になれるようにこれからもプレーしていきます」
表彰式では、主将として初めてのカップを、満面の笑顔で、誇らしげに掲げた。
【4-4-2システムへの挑戦】
試合直後にピッチの上でインタビューを受けた永田雅人監督は、控え目な佇まいを崩そうとはしなかったが、言葉には溢れんばかりの喜びを滲ませた。
「我々は、『ボールを持って(試合を進め)、次の一点を取って勝つ』という哲学を持っているので、それを見てもらいたかったし、勝ちたいと思っていました。相手も素晴らしかったので、すごく楽しいゲームでした」
2015年からリーグ3連覇を果たした森栄次監督の後にチームを引き継いだ永田監督は、個の成長にフォーカスすることでチームを進化させてきた。18年と19年は国内タイトルを独占したが、今季は森監督の下で成長著しい浦和にリーグ連覇を阻まれた。だが、永田監督は、「結果は成長の先にあるもの」という考え方で、「たとえ試合に勝っても、成長のない現状維持は後退である」という姿勢を貫いてきた。
ベレーザはユース世代の代表に選ばれ、トップレベルで経験を積んだ選手たちが多い。主力の大半は20代前半の若手選手だが、今季は主力の移籍やケガなどで昨年から先発メンバーの約半数が入れ替わり、10代の若手選手たちが出場機会を掴んだ。
昨年と今年の皇后杯決勝の先発11名の平均年齢は、昨年が23.3歳、今年は21.8歳と若返っている。20歳のMF菅野奏音や、この試合でフル出場した19歳のDF松田紫野、堂々たるプレーで決勝ゴールをアシストした17歳のMF木下桃香も、今季主力に定着した選手たちである。脈々と流れるクラブの育成哲学を受け継いでいくことも、永田監督がこだわってきたことの一つだ。
「リーグ戦で若い選手を多く使ってそれが積み重なったところもありますし、そういう選手が下からどんどん出てくる。(ベレーザの)歴史やサッカー哲学、育成哲学を継続させてきたことが、今回は(皇后杯の)連覇につながったのではないかと思います」
今季のリーグ戦では、昨年までの4-3-3のフォーメーションから4-4-2へと変更し、中盤や前線はポジションも試合によって変えながら選手を起用してきた。その狙いの一つは、前線の主力が抜けた中で、今季の選手たちの特徴を生かせる形であること。もう一つは、「(選手がサッカーに対して)いろんな見方が持てるようになって、不確定な状況に臨機応変に対応できるようになることを目指しています」というように、複数のフォーメーションやポジションを経験することで選手が新たなスキルを獲得し、本来のポジションに戻った時に視野が広がったり、プレーの選択肢を増やせるように成長を促すことだ。
これまで結果を出してきたスタイルを変える決断には、相当な覚悟が必要だっただろう。シーズン当初は、選手それぞれの葛藤や迷いも感じられた。また、シーズン中に多数のケガ人が出てしまったことも、チームが乗り越えなければならない試練だった。リーグ戦は18試合しかなく、今季はコロナ禍で短期集中のスケジュールだったため、そうした中で取りこぼした前半戦の勝ち点が、リーグ戦のタイトルに届かなかった一因でもあるだろう。
それでも、皇后杯が終わってみれば、長い目で見て得たものは大きかったのではないだろうか。
リーグ戦では大黒柱のMF長谷川唯が鮮やかなゴールをいくつも決め、八面六臂の活躍でチームを支えた。小林はエースとして結果を残し、MF三浦成美は、センターバックやサイドアタッカーでもプレーし、ゴールに絡む回数が増えた。そして、10代の木下や松田をはじめ、多くの選手が成長のきっかけを掴んでいたように思う。
【エースの存在感と3トップの攻撃力】
皇后杯では決勝まですべての試合を2点差以上で勝ち抜いてきたが、それは、皇后杯で4-3-3に戻したことと無関係ではない。4-4-2でプレーの幅を広げた選手たちが、使い慣れたフォーメーションで伸び伸びとプレーした。中でも、清水が「やっぱり、4-3-3の3トップがゴールを決めるのがベレーザの強みだと思いました」と語ったように、小林、宮澤、遠藤の3トップがゴールを量産したことは、タイトルを獲得できた大きな要因の一つだった。
小林は、リーグ戦ではケガで離脱した時期もあったが、14試合で13ゴールとチーム内でトップのゴール数を記録。皇后杯では6ゴールで得点王に輝いた。
昨年までワントップでチームを牽引してきたFW田中美南が移籍し、覚悟を持って臨んだシーズンだった。小林は元々、ポストプレーから突破、チャンスメイクまでこなせるオールラウンダーだが、ストライカーとしての意識がより強くなった。準々決勝のノジマステラ神奈川相模原戦(○5-0)後には、その変化についての思いを次のような言葉に込めた。
「去年は気持ちの中でどこかで田中さんに任せている自分がいたし、『点をとってくれるだろう』という気持ちが少なからずありました。今年、田中さんが抜けたことで、『自分が決めないとチームが勝てない』という気持ちでやってきました。そのメンタルの違いはすごく大きいと思います」
4-4-2の2トップから、皇后杯では4−3−3のワントップに戻り、微修正も求められる中で、プレーに波があったことも認めている。それでも、大事なところでは結果を残した。決勝の4点目のゴールには、誰もがエースと認める説得力があった。
そんな小林の活躍を頼もしく感じ、刺激を受けていたのが遠藤だ。準決勝のマイナビベガルタ仙台レディース戦(○4-1)でハットトリックを決め、決勝戦では先制点でゴールラッシュの口火を切った。元々アタッカーの選手だが、昨季は代表とチームでサイドバックに挑戦。最終ラインでのプレーに慣れた今季は、「左足でボールを持つときにオープンな形で持って、一旦逆サイドだったり、FWを見てプレーを変えています」と、ディテールを追求。精度の高い左足からクロスで多くのゴールを演出した。皇后杯では3トップの左サイドで攻撃を活性化し、セットプレーのキッカーとしても結果を残した。成長著しい20歳のレフティーは決勝戦の後、表情を引き締めてこう語っている。
「(相手との駆け引きで)自信がついてきたこともありますし、1対1の場面は緊張することなく、冷静に決めることができました。そこは前よりも成長していると感じます。今後はもっと自分からボールを呼び込むことや、最後に(小林)里歌子さんが決めてくれたように、苦しい時に決められるような選手になることが課題です」
今大会は3ゴール3アシストの結果を残した宮澤も、新境地をひらいた一人だ。サイドとトップの両方でプレーする中で、プレーの判断が早くなり、相手との駆け引きを楽しむ余裕も見られるようになった。
「今シーズンは2トップでプレーする時期もあって、2トップの関係性や360度を見なければいけないことなど、新しい発見がありました。皇后杯はサイドでプレーできる懐かしさを感じながら、自分の持ち味であるドリブルやスピードを生かせたことが、結果につながったのかなと思います」
類まれなスピードを武器としながら、線の細さがどことなく儚げな印象も与えたルーキーイヤーと比べると、フィジカル面とメンタル面、スキルが向上し、プレーの躍動感に、力強さが加わった。
結果にかかわらず、こうした成長のストーリーでも楽しませてもらったシーズンだった。
2021年、日本女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」がスタートする前の最後の公式戦で、女子サッカーの魅力が詰まった試合を見せてくれたベレーザと浦和。両者の対戦は、プロリーグでも、観客を呼べる好カードの一つになるだろう。
※文中の写真はすべて筆者撮影