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トルコ軍とアル=カーイダ主導の反体制派がシリア軍制圧地の奪還を試みるも、トルコ軍兵士2人が死亡し撤退

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

アル=カーイダとトルコ軍がM4高速道路沿線の要衝を挟撃

イドリブ県では、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構、トルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)が主導する「決戦」作戦司令室が20日、M4高速道路沿線上のナイラブ村の奪還を目的とする大規模作戦の開始を発表、同地に侵攻した。

ナイラブ村はM4高速道路沿線の要衝で、2月3日にシリア軍が制圧していた。

作戦開始に合わせて、トルコ軍も、ナイラブ村東西に設置している拠点から砲撃し、「決戦」作戦司令室とともにナイラブ村を挟撃した。

(Iswnews、2020年2月20日)
(Iswnews、2020年2月20日)

トルコ軍兵士7人が死傷し、作戦は失敗

「決戦」作戦司令室は、ナイラブ村に突入し、シリア軍との激しい交戦の末、一時その大部分を制圧した。だが、戦闘でトルコ軍兵士2人が死亡したため、「決戦」作戦司令室はナイラブ村一帯から撤退した。

トルコ国防省はツイッターのアカウントを通じて声明を出し、トルコ軍部隊が爆撃を受け、兵士2人が死亡、5人が負傷したと発表した。

国防省によると、これに対して、トルコ軍もシリア軍兵士50人を殲滅、戦車5輌、兵員輸送用の装甲車2輌、武装したピックアップ・トラック2輌、大砲1門を破壊したという。

なお、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、戦闘では、トルコ軍兵士2人のほかに、シリア軍兵士11人、「決戦」作戦司令室戦闘員14人が死亡した。

トルコ軍は、カフルルースィーン村に違法に設置された国境通行所から戦車、装甲車など55輌からなる増援部隊を新たに派遣、ナイラブ村西に設置している拠点を強化した。

ロシア軍の爆撃続く

一方、ロシア軍戦闘機は、イドリブ県のマアーッラト・ナアサーン村、シャフシャブー山一帯、アレッポ県のタワーマ村、タカード村、カフル・ヌーラーン村、アターリブ市一帯、ダーラ・イッザ市一帯を爆撃し、マアーッラト・ナアサーン村では住民1人が死亡した。

またアターリブ市でもシリア軍の砲撃で住民1人が死亡した。

イドリブ県、アレッポ県北東部でトルコの軍事作戦支持を訴えるデモ

シリア人権監視団によると、シャーム解放機構が軍事・治安権限を掌握するイドリブ市とトルコ占領下(いわゆる「ユーフラテスの盾」地域)の中心都市アアザーズ市(アレッポ県)で、金曜日の集団礼拝後に、トルコによる軍事作戦、国境開放、国連の介入、体制打倒、「シリア革命」継続を訴えるデモが発生した。

デモの様子を撮ったと思われる写真(シリア人権監視団、2020年2月20日)
デモの様子を撮ったと思われる写真(シリア人権監視団、2020年2月20日)

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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