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2度目の悲劇はありうるのか。清水エスパルス戦でガンバ大阪が勝利以上に見せるべきモノとは

下薗昌記記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家
J2降格が決まった瞬間、呆然とする遠藤保仁。あの悲劇を繰り返してはいけない。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 2012年12月1日午後5時23分は、ガンバ大阪にとってクラブ史上初となるJ2リーグ降格が決まった瞬間だ。

 あれから10年――。「西の横綱」だった名門は、再びの危機に見舞われている。

片野坂体制1年目の目標はJ1残留に下方修正

 「強いガンバを取り戻す」はずだった2022年、7月には事実上の無冠が決定しチームは低迷。8月3日に行われたファン・アラーノの加入会見で、小野忠史社長は「いよいよ残り11試合となった今季のリーグ戦。J1残留を果たすためにも一つも落とせない試合が続きます」と話したが、クラブのトップも今季の目標を大幅に「下方修正」せざるを得ない現状が続いている。

 「シックスポイントゲームというくらい勝点3が欲しい試合」と片野坂知宏監督がその重要性を語っていた7月30日の京都サンガ戦は新型コロナ感染の影響でメンバー構成もままならず、主力の大半を欠く京都サンガに四苦八苦。食野亮太郎の移籍後初ゴールで先手を取りながらも、アディショナルタイムに東口順昭が与えたPKで痛恨のドローに終わった。

 タイムアップの瞬間、百戦錬磨の東口や昌子源が、ガックリと崩れ落ちた光景に、「この展開でも勝てないのか」と記者席で嘆息した悪夢のようなシーズンがフラッシュバックした。

 アビスパ福岡戦が延期となったことで1試合消化が少ないものの清水エスパルス戦を前にしたガンバ大阪の立ち位置は危険水域に足を踏み入れている。

 前日にヴィッセル神戸が勝利したことで2試合少ないものの、17位の降格圏内に転落。しかし、目先の順位以上に危機感を覚えるべきは、シーズン終盤を迎えた段階で、絶対的なエースが不在という現状だ。

 近年、すっかり残留争いの常連になった感があるガンバ大阪において、最も厳しい状態にあったのはレヴィー・クルピ監督の後を受けて、指揮を執った宮本体制。16位でバトンを受け取った(正確に言うなら受け取らざるを得なかった)宮本恒靖監督は、就任当初こそ1勝3敗3分と苦しんだものの韓国人エースのファン・ウィジョが驚異的なゴールラッシュを見せ、クラブ記録に並ぶ9連勝の巻き返しでJ1残留に成功した。

 そして新型コロナ感染の影響でシーズン序盤に出遅れ、クラブ史上例がない超過密日程に苦しんだ2021年は、宮本監督が電撃更迭。後を受けた松波正信監督のもとで再び、J1リーグ残留を目標に掲げたが、パトリックが数少ないチャンスをことごとくゴールに結びつけ、チーム最多の13得点。やはり頼りになる前線の軸の存在でガンバ大阪は危機を乗り切ったのだ。

クラブ史上例を見ない、FW陣の低調な得点数

 宇佐美貴史がアキレス腱断裂で不在となったのは片野坂監督にとっても不運だったが、今季のガンバ大阪のFW陣はかつてない低調な状況である。

 近年のチーム得点王の数字を見れば明らかであろう。

2012年 レアンドロ14点(15試合で)、佐藤晃大11点

2013年(J2リーグ) 宇佐美貴史19点

2014年 宇佐美10点、パトリック9点

2015年 宇佐美19点

2016年 長沢駿9点、アデミウソン9点

2017年 長沢10点

2018年 ファン・ウィジョ16点

2019年 アデミウソン10点

2020年 パトリック9点

2021年 パトリック13点

2022年 レアンドロ・ペレイラ2点、山見大登2点、パトリック1点、坂本一彩1点、食野亮太郎1点(2試合で)

 今季のJ1リーグにおけるチーム得点王はそれぞれ3点を決めている小野瀬康介とダワンのMF陣。

 本来、最前線で点を取るべきFW陣の得点を振り返るとレアンドロ・ペレイラと山見大登がそれぞれ2得点、パトリックと坂本一彩、食野亮太郎がそれぞれ1得点という状態だ。

 もっとも、クラブも現状打破に向けて、三顧の礼で招いた指揮官をバックアップしているのは事実である。元日本代表の鈴木武蔵と食野を新たに補強し、7月31日にはファン・アラーノが鹿島アントラーズから電撃移籍。パリ五輪世代でもある山本理仁も東京ヴェルディから完全移籍で加わったが、負傷でデビューが遅れる見込みだ。

 戦力的に厚みが増したガンバ大阪は8月14日、勝点2差で上を行く清水エスパルスと再びの「シックスポイントゲーム」に挑む。

 もちろん目先の勝利も必要になるが、清水エスパルス戦で見せるべきは攻守両面における確固たる方向性である。

 今季は3バックと4バックを併用してきたガンバ大阪だが、京都サンガ戦から2週間のインターバルを挟んだ今、もはや時間不足、戦力不足は言い訳にならないはずだ。

 二桁得点を目標にする鈴木と、得点とアシストの合計で「10スコアポイント」を目指す食野。

 いかに点を取るのか、誰に点を取らせるのかーー。清水エスパルス戦でその方向性が打ち出せれば、目先の結果以上の収穫になる。

 J2降格という悲劇は選手の顔ぶれに関係なく、容赦無く降りかかってくる。

 10年前の12月1日、遠藤保仁は言った。

 「いいメンバーがいても、勝てない時は勝てないものだと改めて感じました……」

 常勝軍団としての道を再び歩めるのか、それとも「かつて強かったクラブ」に甘んじるのか、が決まる残り11試合である。

記者/通訳者/ブラジルサッカー専門家

1971年、大阪市生まれ。大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)でポルトガル語を学ぶ。朝日新聞記者を経て、2002年にブラジルに移住し、永住権を取得。南米各国でワールドカップやコパ・リベルタドーレスなど700試合以上を取材。2005年からはガンバ大阪を追いつつ、ブラジルにも足を運ぶ。著書に「ジャポネス・ガランチードー日系ブラジル人、王国での闘い」(サッカー小僧新書)などがあり、「ラストピース』(KADAKAWA)は2015年のサッカー本大賞で大賞と読者賞。近著は「反骨心――ガンバ大阪の育成哲学――」(三栄書房)。日本テレビではコパ・リベルタドーレスの解説やクラブW杯の取材コーディネートも担当。

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