登場した「寝室にも床暖房付き」マンション。贅沢ではなく、子育て世帯に利点が多い理由
23区内で、まもなく分譲を開始するマンションで、興味深い工夫が実現する。
それは、床暖房の工夫……といっても、いまどき、床暖房はたいていの分譲マンションに付いており、珍しいものではない。今回注目したいのは、その設置場所である。
通常、マンションに付けられる床暖房はリビングダイニング部分なのだが、そのマンションでは、主寝室(最も広い個室)にも床暖房が設置されているのだ。
これまで、分譲マンションでリビングダイニングと寝室の両方に床暖房を設置した事例は、都心部の超高級物件で見たことがある。しかし、スタンダードクラスのマンションで「寝室にも床暖房を付ける」ことはなかった。「オプションで、設置可能」ならあったが、全住戸の主寝室に床暖房付きは極めて珍しい。
寝室に床暖房など贅沢、といわれそうだが……
寝室に床暖房を付けるなど、贅沢すぎる、といわれそうだ。
しかし、その利点は大きい。
まず、寒い冬の夜も暖かな部屋で就寝できるので熟睡できそうだ。室温が上がるが、温風が出るわけではないので、肌や髪が乾燥しすぎることがない。朝起きたら、喉が痛い、というようなことも起きにくい。温風によりホコリが舞い散る、という不快な現象が起きないのも床暖房の長所だ。
シニアになれば、そのありがたさが身にしみる住宅設備となる。
それだけでなく、若い世代にとっても「寝室の床暖房はよい」といえる状況があり、一時的に主寝室を子供に譲る場面も想像される。それは、受験生がいる家庭に起きがちな出来事である。
理想的な「頭寒足熱」をつくる、床暖房
受験生には床暖房付きの個室が好ましい。そう考えられる理由は、冬に理想的な勉強環境が実現するからだ。
勉強するときに理想とされるのは、「頭寒足熱」。足下は暖かいが、頭の部分は気温が低い状況である。ところが、一般的なエアコンでは、頭の部分が熱くなり、足下が冷たい、という状況が生じがち。その結果、勉強に集中できず、頭がボーッとして眠くなる。眠くなるのは困ると、エアコンを止めれば、大事な受験時期に風邪をひくかもしれない。そんな困った状況が生じてしまう。
その点、床暖房ならば、足下が暖かく、頭はすっきりとなりやすい。だから、勉強に集中したい時期だけ主寝室を子供に譲り、親は狭い子供部屋でがまんする、といった生活スタイルがお勧めとなるわけだ。
本気で床暖房を使うと、光熱費が跳ね上がる
利点が多い「主寝室にも床暖房」だが、問題は費用。設置するための費用=イニシャルコストと、運転費用=ランニングコストがいずれも安くない。
今回のように新築分譲マンションに設置される場合、イニシャルコストは販売価格に含まれるので、気にならない。新築住宅の場合、ZEH(ゼッチ=ネット・ゼロ・エネルギーハウス)補助金などでイニシャルコストがまかなわれるケースもある。
しかし、リフォームで床暖房を設置する場合は、工事費込みで1室あたり60万円〜100万円程度が必要になる。それがネックになって、床暖房採用を見送る人は少なくない。
床暖房にはガス式と電気式があり、床暖房を1室だけ設置するなら、ガス式も電気式もイニシャルコストは大差がない。しかし、2室に設置する場合は、ガス式のほうが熱源機を共用できるので割安となる。
そして、ランニングコストの目安は、ガス式で1ヶ月5000円程度(10畳)とされるが、これには異論を唱える人もいる。実際に使ってみたら、そんなに安くなかった、というのである。
床暖房は使い方によって、ランニングコストが大きく変わる。
たとえば、寒い日に外から帰り、室内をすぐに暖めたいと思った場合、床暖房は「強」運転にしたくなる。この状態をずっと続けたら、1ヶ月の光熱費は3万円をゆうに超えてしまう。
そこで、温風が吹き出すエアコンと床暖房を併用する家庭が多いのが実情。部屋が暖まるまではエアコン。暖まってからは床暖房にする。2、3時間床暖房を使用したら、あとは余熱で過ごす、といった使い方が推奨されている。そのように限定的に使えば、光熱費は「そんなに高くない」ということになるわけだ。
また、超高層マンションの上層階で日当たり良好な場合、冬でも日中は暖房いらず、となり、その場合も床暖房のランニングコストは抑えられる。
床暖房は、寝室に向く暖房かもしれない
床暖房は、ガンガン使うタイプの暖房器具ではない。
限定的に利用し、健康的で安全な暖房を求めるときに威力を発揮するアイテムといえる。
つまり、寝室で就寝中の寒さを和らげたいときや、勉強中に頭がボーッとしない程度に室温を上げたいときに、ちょうどよい働きをしてくれる。
そう考えると、寝室や子供部屋に床暖房を設置するのは、むしろ、理にかなった使用法となる。リビングダイニングの床暖房をやめ、寝室だけに設置してもよいのではないか。そう思えてしまうのである。