メジャーリーグのマスコットはどのように「起用」されているのか。
メジャーリーグはあと一週間あまりでスプリングトレーニングが始まる。
各球団は、全選手のユニホームなどを荷造りしてトラックに積み込み、キャンプ地へと送り出す作業の真っ最中だ。
スプリングトレーニングを控えたこの時期の球界は、FA選手の獲得や契約もほぼ終了しており、話題に欠ける。
そのような事情もあり、スプリングトレーニングの荷造りやトラックに荷物を積み込む様子をメディアに公開して話題を提供している球団が多い。
9日(日本時間10日)はデトロイトタイガースの荷出し作業が行われた。
38年にわたってタイガースの用具管理しているジム・シュメイケル用具部長とともに、若い男性スタッフらがクラブハウスからトラックへと荷物を運んでいく。
この日はタイガースの選手はいない。スプリングトレーニング開始日に備え、それぞれが別の場所で練習に励んでいるからだ。
その代わりに、タイガース球団のマスコットであるパウズがいた。
このパウズという名前のトラのマスコットも、シュメイケル用具部長の指示を受けて作業を手伝った。あくまでも、マスコットとして、だ。
作業の合間には、シュメイケル部長に、自分自身を箱詰めにしてもらうというアドリブ即興コントを演じてみせた。シュメイケル用具部長も抜群のノリで応じて、この一部始終を地元のテレビ局や新聞社が撮影した。
マスコットは来場したファンとふれあい、試合中には、アクロバティックな動きやいたずらなど様々な方法で場を沸かせる。それと同時に選手不在のイベントでは、選手に代わって球団の顔となり、被写体となる。
この日もマスコットが加わるだけで、単なる積み荷作業が「絵」になるイベントに変わった。
トラックを運転していくと張り切っていたマスコットのパウズだが、フロリダのスプリングトレーニング地まで出かけるのは、実はオープン戦の最初の数試合のみだという。
本拠地デトロイトにメジャーリーガーがいない時期こそ、選手の代わりに「球団の顔」とならなければいけないからだ。
球場窓口での入場券発売は、チームが本拠地にいない時期に始まる。ここでもタイガースは、マスコットのパウズを登場させて、寒い中、わざわざ足を運んでくれたファンを迎える。2年前には入場券発売初日に雪が降り、このマスコットがファンのために雪かきをするパフォーマンスを披露した。
このほかに病気の子どものお見舞い、学校訪問などの地域奉仕もマスコットの仕事のひとつだ。
慈善事業だけでなく「営業」の仕事もこなす。デトロイトタイガースのパウズは1時間135ドルで各種パーティーやイベントに出かける。結婚の申し込みをするプロポーズの立ち会いは50ドル。年末にはサンタクロースの代りとして学校や子ども向けイベント(200ドル)で、営業仕事を受け付けている。
幼児は、誰がスター選手なのかはよく分かっていなくても、マスコットの存在はよく分かるようで、ふれ合いを喜んでいたのを筆者は何度も見かけた。ツイッターのアカウントを持っているマスコットも多く、このタイガースのパウズには1万5000人以上のフォロワーがいる。@PAWSDetroit
メジャーリーグのマスコットではフィリーズのファナティックが有名だ。1978年に登場してからいたずら好きのキャラクターで人気者となった。
ファナティックの初代ナカの人だったデービッド・レイモンドさんは1994年にナカの人を引退後、ナカの人を育成する会社を立ちあげた。
高校生を含む学生や、マスコットを作りたい企業などに対し、動きやダンスなどのトレーニングと、マスコットのデザインに関するコンサルタントを行っているそうだ。マスコットになりきり、人を喜ばせることに徹することを指導している。http://raymondfun.com/
ちなみにデトロイトのパウズにもナカの人はいるのだけれど、ナカの人はパウズそのものというファンタジーを100%守ってるので、声を発することはない。
筆者の取材に対しても筆談とYES/NOの首の振り方で応じてくれた。(ただし、この2人の様子を見る限り、パウズとシュメイケル部長は人間の言葉で会話をしているようにも見えるのだが)