今年から変わった気象庁の「桜の開花」と「桜の満開」の観測
生物季節観測の見直し
気象庁では、今年、令和3年(2021年)1月から、生物季節観測を植物 6 種目 9 現象の観測としています。
この6種目9現象は、気候の長期変化(地球温暖化等)及び一年を通じた季節変化やその遅れ進みを全国的に把握することに適した代表的な種目・現象です。
令和2年(2020年)12月までは、全国の気象台・測候所 58 地点で植物 34 種目、動物 23 種目を対象に、開花や初鳴き等を観測していましたので、観測種目・現象が大幅に減っています(表)。
なお、測候所は、自動観測システム化による機械化・無人化によって、165か所から2か所(帯広・名瀬)に減っていますので、観測地点数も20年前に比べれば約3分の1となっています。
これは、生物季節観測は、季節の遅れ進み、気候の違い・変化を的確に捉えることを目的としていたのですが、近年は気象台・測候所周辺の生物の生態環境が変化し、目的達成が難しくなってきたからです。
植物においては適切な場所に標本木を確保することが難しくなってきています。
また、動物においては対象を見つけることが困難となってきています。
「桜の開花」と「桜の満開」
令和3年(2021年)1月からの生物季節観測の見直しで、「桜の開花」と「桜の満開」の観測は残りましたが、観測方法が少し変わっています。
気象庁ホームページには、次のように記されています。
さくらの開花日とは、標本木で5~6輪以上の花が開いた状態となった最初の日をいいます。満開日とは、標本木で約 80%以上のつぼみが開いた状態となった最初の日をいいます。
大筋での説明は、この通りで変わりませんが、気象庁が観測のもととしている細かい定義が記入してある「生物季節観測指針」が令和3年(2021年)1月に改正となっています。
「桜の開花(図1)」については、「生物季節観測指針」では次のようになっています。
(新しい基準)標本木に5~6輪の花が咲いた日を開花日とする。なお、胴咲き(枝ではなく幹や根から咲く)による開花は、通常の開花とは異なるプロセスによると考えられることから、5~6輪に含めない。
(古い基準)標本木に5~6輪の花が咲いた日を開花日とする。
つまり、「胴咲き(タイトル画像参照)による開花」については、観測者によって扱いがまちまちでしたが、含めないと全国で統一されたのです。
このため、年によっては、開花の発表が少し遅れることがあります。
「沖縄・奄美地方を除いて一番先に桜が咲いた」というニュースは、全国トップニュースとして扱われますが、このニュースには、「胴咲き」も数えて開花とするのか、数えないのかが影響してきます。
このため、一部の気象関係者からは、「胴咲き桜の扱いがまちまちであること」は問題ではないかと指摘されていました。
また、「桜の満開(図2)」については、次のようになっています。
(新しい基準)咲き揃ったときの約80%以上が咲いた状態(同時に咲いている状態である必要はない)となった日を満開日として観測する。
(古い基準)咲き揃ったときの約80%以上が咲いた状態となった日を満開日として観測する。
「同時に咲いている状態である必要はない」という定義が加わったのは、暖かい地方を中心に満開の観測が難しい事例が相次いだからです。
散った桜を含めるようになった「桜の満開」の定義
過去に、「桜の開花」と「桜の満開」が同じ日ということがありました。
平成24年(2012年)5月2日の北海道・旭川です。
旭川地方気象台の職員が9時半頃に神楽岡公園にある標準木で開花を観測し、15時20分頃、満開の8分咲きを確認したからです。
旭川の2日の最高気温は25.1度、2日連続の夏日でした。
5月1日の開花していないという観測の後、急激な気温上昇により5月2日に一気に開花から満開まで進みました。
この年の旭川の例は極端ですが、一般に北の寒い地方では、一本の木の中で先に咲く花と後に咲く花の時間差が短く、このことによって、開花から満開までの期間が短いという特徴があります。
これに対し、南の暖かい地方では、一本の木の中で先に咲く花と後に咲く花の時間差が長く、遅い花が咲くころには、先に咲いた花が散ってしまうために、なかなか標本木で全体の8分(80パーセント)で花が咲いた状態にはなりません。
このため、開花から満開までの期間が長く、沖縄ではときどき「満開なし」を観測しています。
また、近年では、沖縄以外でも、平成14年(2002年)の種子島測候所や、平成19年(2007年)の八丈島測候所では、「満開なし」と観測しています。
さらに、一部の気象台では、「散った花も含めて満開とする」ことが始まっています。
大分地方気象台、ずれた桜「満開」宣言
大分合同新聞社の、平成28年(2016年)4月8日夕刊には、次の記事が載っています。
このとき、気象予報士の片平敦さんが、大分地方気象台に確認したところ、「散った花も含めて、咲いた花が8割に達したため、残るつぼみが2割になったと判断したので、満開とした。」とのことでした。
また、「生物季節観測指針」を作成し全国に指導している気象庁本庁に確認したところ、「散った花も含めるかどうかというのは、明確でない。最終的には、現地の気象官署・観測者の裁量、総合的な判断にゆだねられる。」とのことでした。
そして、今回、「散った花も含める」と観測の方法を明確にしたのです。
なお、気象庁が半世紀以上予想を続けてきた「桜の開花」や「桜の満開」の予想を、「国として役目を終えた」として取りやめたたのは、今から11年前、平成22年(2010年)のことです。
そして、この年から、予想はウェザーニューズ(千葉県美浜区)、日本気象協会(東京都豊島区)、ウェザーマップ(東京都港区)等の民間会社が行っています。
図1、図2の出典:気象庁ホームページ。
表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。