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飲食店が急きょ始めたテイクアウトに潜む食中毒リスク 安全な料理を提供する方法は?

池田恵里フードジャーナリスト
テイクアウトでは必ず手袋、具材の管理も温度帯にあわせて考えている(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

外食から一気に中食であるテイクアウトへ

コロナにより外食企業は今、大ダメージを受けている。4月27日に発表した外食産業市場動向調査によると、3月の売上は2011年の東日本大震災を超える17.3%減となっている(日本フードサービス協会参照)。

日本フードサービス協会出典
日本フードサービス協会出典

なかには4割減という業態もある。

そこで外食企業、個人店舗も含めて、店舗の存亡をかけて、テイクアウトへと急速に切り替えを図っている。

しかし余裕のない状況でのテイクアウトへの参入は非常に危険である。

衛生管理への知識がないまま、急いで販売したならば、食中毒を起こしかねないからだ。

万が一、食中毒を起こしたならば、業務停止、最悪の場合、倒産する。食中毒を起こすことは、顧客の命に係わる事、そして企業にとっても危機的状況に瀕する。

既に「食中毒に注意を」 新型コロナで持ち帰り増 金沢市保健所が呼び掛け、十分な加熱、早目の消費 梅雨控え徹底求めている。

新型コロナウイルスによる外出自粛でテイクアウト(持ち帰り)や宅配事業を始める飲食店が増える中、市保健所は食中毒への注意喚起を強めている。気温や湿度の上昇により発生リスクが高まるためで、ホームページや食品関連団体を通じて、各店舗に食材の十分な加熱や衛生管理の徹底を呼び掛けている。コロナの感染拡大を受け、飲食店が店頭販売や宅配サービスに乗りだし、減少した売り上げの不足分を補おうとする動きが活発になっている。市内でも、和食店が弁当の提供を始めたり、複数の店が持ち帰り商品を共同販売したりするなど幅広い取り組みがみられる。一方で、梅雨を控えて食中毒のリスクが高まっていることから、市保健所はティクアウトや宅配を始めた飲食事業者に対し、あらためて発生予防に向けた意識啓発を行うことにした。

中食ではどのように製造しているのか

中食では、随分以前より衛生に関して、徹底した従業員教育がなされている。

スーパーのバックルームを見たらわかるように、パートさん、アルバイトさんは手袋、マスク、そして帽子をかぶって作業している。

開発においても、菌数を意識した具材、調理方法を考え、いつ販売するかを菌数検査で決める。

例えば、ゴーヤチャンプルーと言えば夏の商品とされる。しかし表面のイボイボに菌がつきやすく、夏場の暑い時期だと高温から菌が増殖する。その為、常温での夏の販売は厳しく、10月に販売することに至った。キュウリに関しても同じイボイボでウリ科で生で食することが多いため、十分な洗浄、並びに加熱することがある。つまりお湯をかけるのである。

細菌数が多いとされるもやしなども徹底した洗浄を行っている。これはもやしからサルモネラ菌が分離した例がある為である(日本食品保蔵科学会誌VOL27NO3.145-156(20001)。

ゴーヤの表面がいぼいぼであり、キュウリも菌数が多い
ゴーヤの表面がいぼいぼであり、キュウリも菌数が多い

これまで外食から中食に参入した大手さえも・・・

外食ではどうだったろうか。多くの場合、手袋、マスク、そして帽子といった習慣が中食ほどないのが現状である。

過去の食中毒では、随分以前であるが、海外から有名惣菜店を東京に出店させ、話題となった店舗があった。お店を見学し、調理場を見た瞬間に「危ない」と思ったものだ。ボウルは洗ってはいるものの、帽子もかぶらず、マスクなし、しかも素手で洗っている。よく見ると、まな板は魚用、肉用、野菜用として分けていない状態だった。オープン後、すぐに食中毒を引き起こし、しばらく営業を停止となったのだ。

弁当製造における注意事項

さて5月は気温が上昇し、つゆのシーズン到来で湿度も高くなり、菌が繁殖しやすい。

昨年の気温 月別で見ると5月から20度超え
昨年の気温 月別で見ると5月から20度超え

勿論、年間を通して、食中毒は発生する。水・栄養・温度がある程度あれば、菌はさらに増殖するが、気温が20度以上になると、菌が喜ぶ環境となっている。そして製造から食する時間が経てば経つほど菌は増殖する。

「食品衛生の3原則」から引用
「食品衛生の3原則」から引用

一般に10度から45度から危険ゾーンであり、30度から37度が最も増殖しやすいとされる。

100度で加熱しても耐えられる芽胞菌(ボツリヌス菌、セレウス菌、ウエルシュ菌)が存在する。高温・乾燥・栄養の悪化の状態においても、芽胞を形成して休眠状態になって生き延びてしまうのだ。

そのため、カレー、スープ、シチュー、ピラフ、チャーハンなどは要注意である。一般に加熱すると菌を死滅させていると思いがちである。しかし芽胞菌は生き延びる。その為、商品は出来上がったら、菌が増殖しやすい。そのため、加熱調理後の冷却は30分以内に中心温度20度付近、または60分以内に中心温度を10度付近まで下げるように工夫が必要である。

芽胞菌はあらゆる食材に存在する。土壌中に芽胞菌は存在するため、根菜類など土がついたままで店に到着する場合、根菜類などは他の野菜とは、違うように部屋を区切り、徹底して洗浄しているところもある。もしくは洗浄した状態で店舗内納入している。

生食用の野菜及び果物は、十分洗浄し、次亜塩素酸水(遊離残留塩素100ppm以上)に200mg/Lで5分、もしくは100mg/Lで10分間浸漬後、十分な流水ですすぎ洗いを丹念に行うことが大切である。

製造にあたって、マスク、手袋を!

弁当の詰め方もさることながら、何といっても製造するにあたって、必ずマスク、手袋、帽子を着用し、弁当を製造する前の食材、つまり野菜、肉などを扱う場合もマスク、手袋、帽子の着用は大切である。

人間は健康であっても、皮膚表面や毛穴に存在する黄色ブドウ球菌を持っているということも忘れないこと。

その為、無意識に自分の肌を触ってもダメなので、手洗い後、すぐに手袋、帽子、マスクをつけることが大切である。

製造環境も整える

製造場は、換気、除湿及び冷房により湿度を80%以下、温度を25度以下にすることが望ましい。

フライなどを調理すると、室内はあっという間に温度が上がってしまう。劣悪な厨房状況のところも多々あり、その際、菌が繁殖しやすい。

製造する際、使用する調理器具は全て消毒

まな板、ボウルなど機材を使用する前は必ず、消毒する。

そしてまな板も食材によって分けて使用。それを色でわかるようにテープで示す。

・魚介用(青)

・肉類用(赤)

・野菜用(緑)

・加工食品用(黄)

・その他(黒)

といったように。

勿論、使うたびに洗浄し、消毒液をかける。

そして包丁も必ず、使用後、消毒液(次亜塩素酸水)に浸けこむ。

調理機械は洗浄後80度で5分以上殺菌。

調理台は70%のアルコール噴射。

まな板、包丁、へらは80度で5分以上殺菌。

ふきん、タオルは100度で5分以上煮沸殺菌。

提供方法

弁当箱の詰め方のポイント

・温かい料理と冷たい料理と一緒に入れない。

勿論、例えばメインとなる料理(例 とんかつ、からあげ)は一端、冷ましてから入れる。

・トッピングなどに注意

弁当は華やかにしたい気持ちもわかるが、トッピングには細心の注意が必要である。

とある有名な店で牛しぐれにトッピングとして、うにを載せている写真をみて、唖然としたことがある。当然、危ない。

勿論、ふさふさとしたハーブのトッピングも菌が付いていることが多く、載せないほうが望ましい。

・温泉卵

温泉卵などは、一般に殻にサルモネラ菌やカンピロバクターが付いていることが多い。

中には数パーセントではあるが、卵の中にもサルモネラ菌が入っていることもある。

常温で弁当に温泉卵をトッピングとして載せているところもある。確かに温泉卵をトッピングされた弁当はシズル感があり、美味しそうに見える。しかし菌を考えると、提供方法として極めて厳しい。

・メインとなる食材、鶏、ハンバーグなども注意

デパ地下で販売されていたとある有名ハンバーグ店はふっくらとしており、ナイフで切ると中からジューシーに肉汁がしたたる。これはこれで美味しいのである一方、危ないのである。これは腸管出血性大腸菌がまだ死滅していないことを意味し、肉の芯温が75度に達していないことを意味する。

つまり 

 人間が美味しそうに見えるものは、菌にとっても美味しい。

 

・鶏は弁当で良く使われる 。

鶏肉は十分な加熱が必要でカンピロバクターによる食中毒は年々減少しているものの、やはり危ないとされる。鶏肉では出回っているものは細心の注意した方が良い。

 

 因みに市販の40から50%は汚染されている。

 鶏もも 42%

 鶏むね 40%

 (厚生労働科学研究食品安全確保研究事業引用)

 

 この場合も芯温が75度で最低1分加熱することが大切である。

提供後、食べていただく時間まで徹底して検証が必要

コロナでの売り上げが軒並みダウンする中、予想だにできなかった状況に際し、何とか売り上げを維持するため、一縷の望みでテイクアウトに乗り出そうとしている。店舗運営に際し、保健所が発行する衛生責任者の資格を持っている。とはいえ、最近では新たなる菌も発生しており、その対応が出来ていない。その上、今回のテイクアウトに関しては、時間が経つほど菌が繁殖しやすい状況である商品を販売することになる。食中毒はお客さまの命に係わっていることを常に心がけ、細心の注意で製造することが大切である。

参考資料 カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)

「芽胞菌による食中毒について」北海道立衛生研究所微生物部食品微生物科

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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