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釜山映画祭レポ(その3) イキのいい韓国映画を今年も先取り!【演技派オッサン編】

渥美志保映画ライター

釜山映画祭レポート、【イケメン20代編】【イケメン30~40代編】に続く第三回目は【演技派オッサン編】をご紹介します。

韓国映画にはアイドルを中心とした若手主演の「イケメン映画」も多いのですが、世界で勝負できる作品を支えているのは、やっぱり「演技派オッサン」層の厚さ。アイドルが主演の映画も、脇を固めるおっさんたちが、ある時は強烈な悪役として君臨し、またある時は笑いや涙を誘う名演をしてくれるので、安心して見ていられます。アイドル俳優がいつのまにかいい俳優になるのも、そういうおっさんたちの存在から刺激を受けているからなのです。

というわけで今回はそんなおっさんたちの渋い作品をご紹介します。それ誰やねん!って人ばっかりかもしれませんが、みなさん韓国映画バリバリの人気俳優、ポスト“ハン・ソッキュ(『シュリ』)”、ポスト“ソン・ガンホ(『殺人の追憶』)”、ポスト“チェ・ミンシク(『オールド・ボーイ』)”な方々――って、それも誰だ!って言われそうですが(^^;)、個人的に好きなので、そんなことお構いなしに行かせていただきます~。

『チェイサー』のキム・ユンソクの刑事ドラマ『極秘捜査』

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娘を誘拐された資産家のたっての希望で、共同で極秘捜査するハメになった刑事ギリョンと占い師ジュンサン。当初は反発しあっていた二人は、釜山・ソウルの両市で作られた捜査班が手柄の奪い合いのみに終始する中、「子供の命を救うこと」だけを目指して協力してゆく。

『チェイサー』『ワントゥギ』『海にかかる霧』などに出演。
『チェイサー』『ワントゥギ』『海にかかる霧』などに出演。

『チェイサー』で大ブレイクしたキム・ユンソクは、当時は「ソン・ガンホとチェ・ミンシクを足して2で割った俳優」なんて言われ、私の見た限りでは主演作にハズレなしの、いまや韓国では押しも押されぬ人気俳優です。人情味あふれるおじさんからカリスマ的な人物、胡散臭いニヤけたオヤジから冷酷な殺人鬼まで、どんな役でも演じられる俳優ですが、今回はぶっきらぼうで荒っぽいけれど正義感なら誰にも負けない一匹狼の熱血刑事を、またしてもハマリ!という演技で演じています。こういうキャラって日本映画だと孤独だったりするんですが、この役は子だくさんの父親で、「手柄よりも子供の命」というその一点で突き進んでゆく、こんな刑事さんがいてほしい!と思えるキャラクターになっています。

共演の占い師ジュンサン役は、こちらも昨年の『パイレーツ』で大ブレイクしたユ・ヘジン。韓国で今年最大のヒット作『ベテラン』にも出演している個性派は、コメディからシリアスまでなんでも上手な名バイプレイヤー。この二人の男の友情がラストに泣かせるんですが、それもそのはず、監督は『友へ チング』のクァク・キョンテク。いわゆる「ナッツリターン」的な、金や権力に弱い韓国社会をチクリと刺しながら、ラストが清々しいというのもいいんですよね~。

「最高の愛」のユン・ゲサンの社会派ドラマ『少数意見』

中段右がユン・ゲサン、下段右がユ・ヘジン
中段右がユン・ゲサン、下段右がユ・ヘジン

再開発による政府の強制立ち退きに反発した住民と警察の衝突で、若い警官が死亡。逮捕された男は、やはりその騒動で死んだ少年の父親で、「警官が息子を殺すのを防ごうとしただけ」と正当防衛を主張する。男の国選弁護人ジンウォンは、その裏に大統領府にまで連なる癒着があることに気づき、国を相手取り賠償請求の訴訟を起こす。たった100ウォンの請求額は目的が「謝罪」であることを意味していたが、国は全面対決の姿勢を崩さず……。

2009年に実際にあった事件をモチーフにした作品ですが、そういうネタが2015年には早くも映画として公開されている、本当に韓国映画界は度胸がよくてスピード感も抜群だなあと思います。時に国民感情を意識しすぎた司法のあり方には「法治国家としてどうなんだろう」と思うこともありますが、強者の横暴がまかりとおる不公平な社会の現状をすくい上げるものとして、映画が機能していること、それを娯楽として作り上げる映画人のしたたかさには、素直に頭が下がります。

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主演のユン・ゲサンは、ドラマ『最高の愛』や、キムキドク脚本の『豊山犬 プンサンケ』などで知られる俳優さん。「おっさん」と言うには若いから、この区分に入れるのは申し訳ないのですが、社会の理不尽や自分の無力さを噛み締めながら一回り大きくなるシケた弁護士を好演していて、失礼ながらよくも悪くも典型的なイケメンでないところも「演技派オッサン予備軍」として有望!と個人的に思っています。そして時にユーモアで、時にしたたかさで主人公を助けるベテラン弁護士に、またしてもユ・ヘジン。『極秘捜査』とは真逆の塩辛声のマシンガントーク、2本一緒に見ると同一人物とは到底思えません!すごい人!

『七番房の奇跡』のリュ・スンリョンのホラー『客人』

1段目がリュ・スンリョン、4段目がイ・ジュン
1段目がリュ・スンリョン、4段目がイ・ジュン

「ハーメルンの笛吹き男」をベースに、地図に載っていない山中の奇妙な村に迷い込んだ男の悲劇と復讐を描くホラー。ソウルを目指す薬師の男とその息子は、その道中で一夜の宿を探して奇妙な村に迷い込む。予期せぬ客に警戒心を崩さない村人たちだったが、薬の知識を持った男は村人たちの病を治し、さらに村を悩ます大量の鼠を駆除したことから信頼を得てゆくが……。

元ネタの「ハーメルンの笛吹き男」は、鼠を退治したのに約束の報酬をもらえず、村の子供たちを連れて去ってゆく……という単純なお話でしたが、そこはホラーと復讐劇が大好きな韓国映画、村には血塗られた壮絶な秘密が隠されています。「村の子供たちの耳が小さく齧られている」とか「外部の人間を異様に怖がる村人たち」とか「戦争が終わったことを村人に隠している村長」とか、小ネタで不気味さを盛り上げるのはお手の物。さすがです。

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主演はドラマ「個人の趣向」でゲイの中年男をソフトに演じてブレイクしたリュ・スンリョン。助演作『王になった男』、主演作『7番房の奇跡』なども次々と大ヒットを記録、いまや途切れなく映画に出演する人気俳優です。“気のいい小柄なおじさん”といった風貌なのですが、スイッチが入った時の迫力たるや!この作品でも、村の秘密に触れて悲惨な目に遭うのですが、彼がキレてしまった後は完全に形勢逆転。また元MBLAQのイ・ジュンが、父親に狂信的な忠誠を誓う村長の息子役で、またしてもクレイジーな存在感を見せています。今後普通の役もちゃんとやれるようになれば、なかなかの俳優になれると思います。韓国の振り切ったホラーが好きな方にはお勧めです~。

さてさて、今回はこんな感じで。次回は最終回、キム・ギドクが原発事故を描いた『ストップ』と、今回の釜山映画祭での極私的NO.1作品『マドンナ』をご紹介します~。お楽しみに~。

(C) 2015 Busan International Film Festiva

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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